てんいせいのうしゅよう

転移性脳腫瘍

基礎情報

概要

転移性脳腫瘍は、別の場所に発生したがんが脳に転移した腫瘍のことです。脳転移とも呼ばれます。多くのがんは、最初にできた場所から血液やリンパ液を通じて脳へ移動し、そこで新たに腫瘍を作ることがあります。転移性脳腫瘍は進行したがんにおいて比較的よくみられる合併症です。

日本では、がんは死亡原因の第1位であり、年間約30万人が亡くなっています。以前は「脳転移=末期」と捉えられがちでしたが、現在は治療法の進歩により、脳の症状を抑えながら、もとのがん(原発巣)の治療を継続し、長く自分らしい生活を維持することが治療の大きな目的となっています。

図
図:転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍の原因

転移性脳腫瘍は、もともと脳の中にできた原発性脳腫瘍(*1)とは異なり、次のようながんから転移することが多いとされます。

1.肺がん
日本でも患者数が多いがんの一つで、脳へ転移しやすい特徴があります。
2.乳がん
女性に多く発生するがんで、乳房から離れた部位へと広がりやすい場合があります。
3.大腸がん
大腸にできたがんが、血液を介して脳へ転移することがあります。
4.腎臓がん
腎臓に発生したがんが脳へ広がる場合があります。
5.皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)
皮膚の色素細胞から発生するがんで、転移の可能性があるがんの一種です。

がんの種類によってはほかの臓器へ転移しやすい性質を持つ場合もあり、それらが脳に達して転移性脳腫瘍となります。

※1:最初から脳で発生した腫瘍

転移性脳腫瘍の症状

脳は体の動きや五感、思考をコントロールしている重要な器官です。そのため、脳転移が起こると腫瘍ができた場所や大きさによって、さまざまな症状があらわれます。

頭痛
脳の圧力が高まることで、強い頭痛が起きることがあります。朝起きたときや体を動かしたときに痛みが増す場合が多いとされます。
吐き気や嘔吐
脳の圧力の変化や神経への刺激によって、吐き気や嘔吐が起きる場合があります。
けいれん(ひきつけ)
けいれんとは、筋肉が急に激しく動いてしまう状態です。脳の異常な刺激が原因で引き起こされることがあります。
手足のまひやしびれ
脳の運動をつかさどる部分が圧迫されると、手や足などに力が入らない、しびれるといった症状があらわれることがあります。
言語障害
言葉をうまく話せなくなったり、相手の言うことが理解しづらくなる場合があります。
視野障害
脳の視覚を担当する領域が影響を受けると、片方の視野が欠けるなど物が見えづらい症状がみられることがあります。
性格や行動の変化
感情の起伏が激しくなったり、集中力が極端に落ちたりすることもあります。

腫瘍の周りには脳浮腫(のうふしゅ)という強いむくみが生じやすく、これが脳を圧迫して頭痛や麻痺を悪化させます。このむくみをステロイド薬などで抑えるだけでも、症状が劇的に改善することがあります。

これらの症状は、ほかの病気でも起こることがあります。症状が続いたり、急激に悪化したりする場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。

転移性脳腫瘍の検査・診断

転移性脳腫瘍を疑う症状がある場合、医療機関では次のような検査がおこなわれます。

1.画像検査
主に、MRIやCTで撮影し、腫瘍の位置や大きさを確認します。MRIの方が正確に確認できます。
2.神経学的検査(しんけいがくてきけんさ)
医師や専門スタッフが、意識状態、目や耳の反応、手足の動きなどをチェックして、脳のどの部分が影響を受けているかをみます。
3.生検(組織検査)
画像検査などで脳に腫瘍があるとわかった場合、必要に応じて腫瘍の一部をとって詳しく調べることがあります。これによって原発のがんとの関連をより正確に判断します。
4.ほかの臓器の検査
もとのがんがどこにあるか、またはどのくらい広がっているかを把握するため、胸部X線検査や血液検査などを行うことがあります。

転移性脳腫瘍の治療

転移性脳腫瘍の治療方法は、原発のがんの種類、脳の腫瘍の数や大きさ、患者さんの体調などによって異なります。主な治療法は以下のとおりです。

1.手術
腫瘍が1か所で、ある程度取り除きやすい位置にある場合は、外科的手術で腫瘍を取り除くことを検討します。手術により、脳への圧迫を減らし症状を和らげられる可能性があります。
2.放射線療法:がん細胞を放射線で攻撃する治療
定位放射線治療(ガンマナイフなど)
腫瘍をピンポイントで狙い撃ちする方法です。脳内に複数ある小さな転移巣に有効なことがあります。
入院期間が短い、周囲の正常な脳への影響を最小限に抑えられる、繰り返し治療が可能といった利点があり、現在の脳転移治療の主流となっています。
全脳照射:脳全体に放射線を照射して、見つかりにくい微小転移を含めて治療します。
3.薬物療法
化学療法:抗がん剤を使った治療
原発がんの種類に応じた抗がん剤を使い、がん細胞の増殖を抑えます。ただし、脳には「血液脳関門(けつえきのうかんもん(*2)」があり、一部の薬は脳に十分届きにくいことがあります。
分子標的薬や免疫療法:がん細胞に特有の性質や、体の免疫機能を利用して治療する方法です。一部の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の中に、脳転移に対しても高い効果を示すものが登場しています。放射線治療だけでなく、全身治療の一環として脳の腫瘍をコントロールできる可能性が広がっています。
4.ステロイド療法
脳に腫瘍があるときに生じる炎症やむくみを抑えるために、ステロイド薬を使うことがあります。これによって頭痛や吐き気などの症状が緩和されることがあります。
5.支持療法
痛みや吐き気などを和らげる治療や、リハビリテーションなど、患者さんの生活の質を保つためのケアです。必要に応じて医師や看護師、リハビリ専門スタッフなどがチームで対応します。

※2:脳を守るバリアのような仕組み

転移性脳腫瘍の合併症

転移性脳腫瘍があるとき、腫瘍が大きくなるにつれて脳の機能が低下するおそれがあります。また、放射線療法などの副作用で疲労感や脱毛、食欲低下などがみられることもあります。転移が進むと全身に症状が及ぶ場合もあるため、定期的な受診と症状管理が重要です。

転移性脳腫瘍の予防

転移性脳腫瘍そのものを完全に予防する方法は確立されていません。しかし、次のような点に注意することで、がんを早期発見し、転移のリスクを下げることが期待されます。

1.定期検診やがん検診の受診
日本では、自治体が行う各種がん検診(胃がん、乳がん、大腸がんなど)を受けることで、早期発見・早期治療につなげることができます。
2.生活習慣の改善
  • 禁煙や節度ある飲酒
  • バランスのよい食事
  • 適度な運動
  • 十分な睡眠
3.症状の早期受診
頭痛やけいれんなど、普段と違う症状が続く場合は、早めに医療機関を受診して相談することが大切です。

更新:2026.09.25