じゅうしょうきんむりょくしょう

重症筋無力症

基礎情報

概要

重症筋無力症は、筋肉の力が弱くなりやすくなる病気です。日本では厚生労働省が指定する難病の一つとされ、2018年時点で約29,210ほどの患者さんがいると報告されています。特に、まぶたが下がる、物が二重に見えるなど、目のまわりの筋肉の症状から気づかれることが多いのが特徴です。男女問わず発症しますが、女性では比較的若い世代(おもに20~30代)に、男性ではやや高齢で発症する例が見られます。

重症筋無力症は「自己免疫疾患(*1)」の一種です。筋肉は神経からの信号である神経伝達物質を受け取って動きますが、この病気では免疫の異常によって筋肉と神経の接合部がうまく働かなくなるため、筋肉が疲れやすくなったり力が入りにくくなったりします。早期に適切な治療を受ければ、日常生活をほぼ普段どおり過ごせるケースも多くあります。

※1:自分の免疫が誤って体の一部を攻撃してしまう病気

重症筋無力症の原因

重症筋無力症の主な原因は、免疫システムの異常です。私たちの体には、細菌やウイルスなどから身を守るための免疫が備わっています。しかし何らかのきっかけで、免疫が自分の筋肉と神経の接合部を異物と間違えて攻撃してしまうことがあります。これが「自己抗体(*2)」として働き、筋肉と神経をつなぐ部分に障害が起こり、筋肉にうまく力が入らなくなるのです。

具体的には、アセチルコリン受容体(*3)に対する抗体ができるタイプが代表的ですが、ほかのタンパク質に対する抗体が関係している場合もあります。また、胸腺(*4)に腫瘍(しゅよう)(*5)がある患者さんが一部に見られることも分かっています。

免疫の異常には、胸の奥にある「胸腺」という臓器が深く関わっていることが多く、患者さんの約10〜20%に「胸腺腫(きょうせんしゅ)」という腫瘍が見つかります。胸腺腫がなくても胸腺が腫れている(胸腺過形成)ケースが多く、治療方針を決定する上で重要な鍵となります。

図
図:重症筋無力症

※2:自分自身の細胞や組織を間違えて攻撃してしまう抗体のこと
※3:筋肉が神経伝達物質を受け取るための受け皿
※4:胸の中央にある免疫の働きにかかわる臓器
※5:異常増殖した細胞のかたまり

重症筋無力症の症状

1.筋力の低下
特に目や顔のまわりの筋肉が弱くなりやすく、まぶたが垂れ下がる眼瞼下垂(がんけんかすい)、ものが二重に見える複視などが現れやすいです。
病状が進むと、顔の表情を作りにくくなったり、食べ物をかむ・のみこむ力が落ちたり、話すときに声が出しづらくなったりすることがあります。
2.症状の変動
朝は比較的元気でも、午後や夕方になるにつれて疲れて筋肉が思うように動かなくなるといった日内変動が特徴的です。
休息をとると一時的に回復しますが、また繰り返して症状が出やすくなります。
単なる疲れ目や加齢による筋力低下と誤解されやすいため、この変動パターンがある場合は注意が必要です。
3.全身の筋肉への広がり
感染症やストレスなどをきっかけに、呼吸に関わる筋肉が急激に弱まり、呼吸困難に陥る「筋無力症クリーゼ」が起こることがあります。飲み込みにくさが強まったり、呼吸が苦しくなったりした場合は、直ちに救急受診が必要です。
図
図:眼瞼下垂、複視

重症筋無力症の検査・診断

1.症状の観察
医師がまぶたの下がり具合や二重視の有無、表情の動きなどを確認します。長時間目を開けていられるか、腕を挙げていられるかといったテストを行い、筋力の疲れやすさを調べます。
2.エドロホニウム検査(薬剤テスト)
かつてはエドロホニウムという薬を注射し、一時的に筋力が回復するかどうかを確認していました。現在はエドロホニウムに代わる薬や、ほかの検査手法に切り替えている医療機関もあります。
3.血液検査
アセチルコリン受容体に対する抗体や、マスク(Musk)(*6)に対する抗体の有無を調べます。これらの抗体が高い値を示す場合、重症筋無力症である可能性が高まります。
4.電気生理学的検査(神経の電気的な働きを調べる検査)
反復刺激検査や針筋電図などを行い、筋肉に電気刺激を与えたときの応答を調べます。繰り返し刺激して反応が弱くなるかどうかを見ることで診断の手がかりとします。
5.画像検査
CTやMRIなどで胸腺の状態を確認し、腫瘍の有無を調べることがあります。胸腺の異常がある場合は、重症筋無力症と関連している可能性があるため重要です。

※6:筋肉特異的キナーゼの略で、筋肉と神経が正しく繋がるために必須のタンパク質

重症筋無力症の治療

1.薬物療法
抗コリンエステラーゼ薬:筋肉と神経の信号をつなぎとめる薬です。神経伝達物質(アセチルコリン)の分解を抑えることで、筋肉が動きやすくなります。
免疫抑制薬:免疫の暴走を抑える薬です。過剰な免疫反応を抑えることで、症状をコントロールします。ステロイド薬(ホルモン製剤)やほかの免疫抑制薬が使われることがあります。
分子標的薬:近年では、従来のステロイド薬などで効果が不十分な場合に、免疫の仕組みをピンポイントで抑える補体阻害薬やFcRn阻害薬などの新しい飲み薬・注射薬が登場し、治療の選択肢が広がっています。
2.胸腺摘出術
胸腺に腫瘍がある場合や、胸腺の異常が疑われるときに、胸腺を取り除く手術が行われることがあります。手術によって症状が改善したり、薬の量が減らせたりする場合があります。
3.免疫グロブリン大量療法
免疫グロブリンという血液中のタンパク質を高濃度で点滴し、免疫系の働きを一時的に調整します。急激に症状が悪化したときなどに行われることが多い治療法です
4.血漿交換療法(けっしょうこうかんりょうほう)
血液をいったん体外に取り出し、抗体を含む血漿(*7)を取り除いてから、代わりの血漿成分を体内に戻します。重症の患者さんやクリーゼと呼ばれる呼吸が困難になるような危険な状態を改善するのに用いられます。

※7:血液から赤血球・白血球・血小板を取り除いた液体成分のこと

重症筋無力症の合併症

  • 胸腺腫:一部の患者さんでは、胸腺に腫瘍が生じる場合があります。良性の場合もありますが、悪性に進行する可能性があるため注意が必要です。
  • 呼吸困難:症状が悪化して呼吸筋が弱くなると、呼吸が十分にできない呼吸不全(*8)に陥る可能性があります。適切な時期に治療を受けることで防げるケースもあります。
  • 一部の抗菌薬や循環器の薬には、筋無力症の症状を悪化させるものがあります。他の病気で受診する際は、必ず本疾患であることを医師に伝える必要があります。

※8:体の中に酸素を取り入れられなくなる状態

重症筋無力症の予防

重症筋無力症は、もともと自己免疫の異常によって起こります。そのため、生活習慣の改善だけで発症を確実に防ぐ方法は現在のところ確立されていません。しかし、日常生活では次のような点に気をつけると、症状の悪化を防ぐうえで役立つことがあります。

1.体調管理
十分な休息と睡眠をとり、無理のない範囲で適度な運動を行いましょう。疲れがたまりすぎると、症状が出やすくなる場合があります。
2.感染症の予防
風邪やインフルエンザなどの感染症にかかると、体力が落ちて症状が悪化しやすくなります。手洗いやうがい、ワクチン接種などの基本的な予防策を徹底しましょう。
3.ストレスの軽減
ストレスも症状を悪化させる要因の一つと考えられています。趣味の時間を確保したり、家族や友人、医師や看護師に相談したりして、気持ちの負担を軽くする工夫をしましょう。

更新:2026.09.25