基礎情報

概要

カメラのレンズに例えられる水晶体は、外部の光を集めてピントを合わせる働きを持っています。本来は透明な水晶体が、何らかの原因で濁った状態になるのが白内障で、厚生労働省が行った調査(厚生労働省患者調査(傷病分類編)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/)によると、平成29(2017)年の患者数は94万7000人でした。

発展途上国ではまだまだ失明原因の上位にランクされていますが、医療技術の進展が著しい日本では、手術によって視力の回復が十分見込める眼病と認知されています。白内障手術は入院して行うのが一般的でしたが、近年では日帰り手術を行う医療機関も増加しています。

図
図:眼の構造

原因

白内障には、染色体異常や子宮内感染などによる先天性のものもありますが、もっとも多いのが「加齢性白内障」です。加齢によって水晶体のタンパク質が変異し、早い人は40歳代から、80歳代になるとほとんどの人が発症するとされています。

加齢のほか、糖尿病アトピー性皮膚炎、白内障以外の眼の病気、眼の外傷、ステロイド剤なども白内障の原因と考えられています。また、紫外線は皮膚だけでなく眼にもダメージを与えるため、一年を通じて、帽子やサングラスで紫外線から眼を保護することも白内障予防には有効です。

症状

白内障の症状は一般的に、視界がかすむ、ぼやける、視力が低下する、光をまぶしく感じる、二重・三重に見えるなどですが、水晶体の濁りの程度だけでなく、どの部分が濁っているかによっても感じ方は異なります。白内障がさらに進行し、皮質と核全体に濁りが生じると、瞳孔部分が白色または黄色に変色します。

白内障による視力低下は、転倒や交通事故のリスクを高めます。高齢者のこうした事故はその後の生活の質を大きく低下させてしまうことにもなりかねません。眼鏡が合わなくなった、以前に比べて見えにくくなったと感じたら、早めに眼科を受診することが重要です。

検査

白内障の進行状況を把握し、治療の方針を立てるためには、視力検査や屈折検査などの見え方を調べる検査のほか、眼底検査や眼圧検査といった眼の状態をチェックする検査、特殊な顕微鏡を用いて細い隙間から眼球に光を当て、水晶体の濁りの程度を調べる細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査などを行います。検査の種類によっては瞳孔を開く点眼薬を使用する場合があるので、通院時の車の運転は避けるようにしましょう。

手術が決定した後には、眼内レンズの度数や種類を決めるために、角膜の丸みや角膜前面から網膜(もうまく)前面までの長さなどを正確に測定します。質の高い検査が手術後の良好な結果に結びつきます。

治療

軽度の白内障では、点眼薬と服薬による薬物治療を行います。けれども、薬物治療の目的は進行を遅くすることにあり、濁ってしまった水晶体を透明な状態に戻すことはできません。濁りの除去には手術が必要ですが、「いつ手術を行うか」については明確な指標はないため、視力検査などの数値や、仕事や運転など生活面での影響を考慮しながら医師と相談の上、時期を決定します。

手術の準備

手術の約1週間前には、検査の結果を参考にして装着する眼内レンズの選定を行います。眼内レンズには、遠・中・近のいずれかにピントを合わせる単焦点眼内レンズと、広い範囲にピントを合わせることができる多焦点眼内レンズがあります。それぞれのレンズの長所・短所について医師から説明を受け、自分自身の生活上どの距離を見るのが一番重要かを考えて眼内レンズを選びます。手術の数日前から手術当日まで、処方された点眼薬を忘れず使用することも、手術に向けての重要な準備です。

手術

白内障手術は一般的に、水晶体を覆う膜の前面を切開し、濁った水晶体を超音波で砕いて除去した後、人工の眼内レンズを装着するという流れで行われます。点眼薬による局所麻酔が用いられ、手術に要する時間も30分程度なので、痛みや心身への負担が極めて少ない手術と言えます。

水晶体を覆う膜は、眼内に細い糸のような組織でハンモック状に吊られていますが、眼の病気や打撲などの要因で糸状の組織の一部が切れていたり、もろくなっていたりする場合には、補強のために水晶体囊拡張リング(CTR)を挿入することがあります。CTRの挿入により、手術の安全性と眼内レンズの長期的な安定性が確保できます。CTRが必要か否かは、手術前の検査で明らかになります。

手術後の管理

手術後は眼帯をつけ、就寝時も外さず翌日の診察まで過ごします。出血や痛みがなくても、傷はしばらく残るため、細菌感染の危険がある洗顔や洗髪、目の周囲の化粧は1週間程度控える必要があります。感染予防のための点眼治療を続けながら半年程度は定期的に、眼内レンズの安定性や視力などの確認が行われます。

手術後何年か経過した後、再び手術以前の症状が現れることがあります。これは、手術で残した水晶体を覆う膜の一部が濁ることによって起こるもので「後発白内障」と呼ばれています。濁りはレーザーで簡単に除去することが可能で、視力の回復も見込めます。

更新:2022.05.16