斜視
基礎情報
概要
ものを見る時、片目は正面を向いているのに、もう一方の目が違う方向を向いている状態を斜視といいます。
左右の目から取り込んだ情報を脳内で1つの像にすることで、立体感や奥行きを感じ取る機能を「両眼視(りょうがんし)機能」と呼んでいますが、この機能が働くには、左右の視線が同じ方向を向いていること、左右の視力に大きな差がないことが重要になります。両眼視機能は一般的に6歳ごろまでに完成するとされています。乳幼児の斜視をそのままにしていると、両眼視機能の発達が妨げられてしまいます。
斜視は、見た目で疾患の可能性に気づきやすいのが特徴です。見た目による斜視を分類すると4種類あり、片目が正面を向いているとき、もう一方の目が内側に向いている状態が内斜視(ないしゃし)、外側に向いているのが外斜視(がいしゃし)、上側に向いているのが上斜視(じょうしゃし)、下側に向いているのが下斜視(かしゃし)です。
また、常に斜視の状態であるタイプを恒常性斜視(こうじょうせいしゃし)、時々斜視になるタイプを間欠性斜視(かんけつせいしゃし)と呼んでいます。
子どもの場合は、自分で症状を訴えることが難しいので、周囲にいる大人が左右の視線の違いを察知して、早めに治療を開始することが大切です。
原因
子どもの斜視の原因には、眼球を動かす筋肉や神経の病気、遠視、両眼視機能の異常、目のケガなどによる視力不良などが挙げられます。
眼球を動かす筋肉や神経の病気で眼球がうまく動かせず、眼の位置がずれることや遠視、視力不良は、大人の斜視の原因にもよく見受けられます。
遠視がなぜ斜視の原因になるかについては、ピント調節が深く関係しています。近くのものを見ようとするときには、誰でも無意識にピントを調節します。その際に両目の眼球は内側に寄ります。遠視の人は、近くを見るときのピント調整にさらに強い力が働くため、斜視になるリスクが高まります。遠視などによって起こる斜視を調節性内斜視(ちょうせつせいないしゃし)と呼んでいます。
大人の斜視はこのほか、加齢によって目を動かす筋力を低下することや、子どものころに治療した斜視の再発、脳腫瘍や脳梗塞、糖尿病、高血圧などの疾患も原因と考えられています。また、強度の近視も目を動かす筋肉の異常を招き、内斜視の原因になることがあります。
また、最近ではスマートフォンなどを長時間使用する若者に、急性内斜視が増加していることが報告されています。こうした現代社会を象徴する新しい原因にも気を配ることが、目の健康を保つためには重要です。
症状と検査
眼球のズレによってものが2重に見える、斜視の方の眼の視力が低下するほか、外斜視の場合には肩こりなどの症状がおこることもあります。
診断や治療方法の検討のために、通常の視力検査に加えて、屈折検査、細隙灯(さいげきとう)検査、眼底検査を行います。
斜視が疑われる場合は、眼位検査、眼球運動検査、両眼視機能検査などを行い、眼位検査の一種である遮蔽(しゃへい)検査によって、恒常性斜視か間欠性斜視かを区別します。脳や全身疾患の評価には、MRI(磁気共鳴画像)検査や血液検査などの検査が行われます。
治療
斜視の種類や年齢に応じて治療法は異なります。脳疾患や全身疾患が関係しているのであれば原因となる疾患の治療を同時に行う必要があります。
遠視が原因である調節性内斜視は、遠視を矯正する眼鏡を使用することで改善が期待できます。軽度の斜視には、視線の向きを矯正するプリズム眼鏡を用いることがあります。子どもの斜視の場合は斜視の方の目が弱視になっていたり、両眼視機能が損なわれていたりすることが珍しくないため、見る機能全般を向上させる視能訓練を行うことも重要です。
眼鏡の装着や視能訓練でも状態が改善しない場合は手術が検討されます。手術の目的は、眼に付着している6つの筋肉のうち、上・下・内・外の動きに関係する4つの筋肉(上直筋、下直筋、内直筋、外直筋)をずらしたり、縫い縮めたりすることで、眼の位置を正すことです。手術には、筋肉を後ろにずらす後転法と、筋肉を縫い縮めて前方にずらす前転法があります。
大人の手術は外来で点眼麻酔を施して行いますが、子どもは手術中じっとしていることが難しいため、全身麻酔で行うのが一般的で、その際には入院が必要になります。手術後は充血が見られますが、大半は1カ月程度でほとんど目立たなくなります。
更新:2022.08.22