椎間板ヘルニア
基礎情報
概要
背骨は、脊椎(せきつい)ともいい、椎骨(ついこつ)と呼ばれる骨がつながっていて、椎骨と椎骨の間をクッションのような役割でつないでいるのが椎間板(ついかんばん)です。椎間板の真ん中には、髄核(ずいかく)というゼリー状の組織があり、それを線維輪(せんいりん)という組織が覆っています。この線維輪が壊れて、髄核が飛び出してしまった状態を、椎間板ヘルニアといいます。
椎間板が飛び出すと、脊椎の中心に通っている脊髄(せきずい)を圧迫して、痛みやしびれを起こします。椎間板ヘルニアは、背骨のどの位置でも起こる可能性がありますが、起きた場所によって、頸椎(けいつい)椎間板ヘルニア、胸椎(きょうつい)椎間板ヘルニア、腰椎(ようつい)椎間板ヘルニアに分けられます。
原因
重い荷物を持ったり、強度の強い運動を続けたり、猫背、反り腰、腰を丸める中腰などの姿勢を長時間続けるたりといった、過度な負担を背骨にかけることで、椎間板が劣化して起こります。椎間板は、加齢によっても次第に弾力がなくなって劣化しますが、若い人でも椎間板ヘルニアになる可能性は十分にあります。体重の増加も、背骨への負担が大きくなるため、劣化の原因になります。また、椎間板ヘルニアは、喫煙に関係していることが現在わかってきています。椎間板は、毛細血管からの血液によって再生を繰り返す組織であるため、喫煙で血流が低下することによって、喫煙習慣のない人に比べて、劣化しやすいといわれています。
症状
椎間板ヘルニアは、髄核が神経を圧迫して起こるため、ヘルニアの発生部位によって症状はさまざまですが、しびれ、痛み、力が入れにくい、前かがみになったときに痛みを感じる、などが代表的な症状として挙げられます。痛みやしびれに伴って、尿が出にくくなったり、頻繁に尿意をもよおすといった排尿障害が起こることもあります。
椎間板ヘルニアは個人差も大きく、画像診断でヘルニアが認められるのに症状が出ないケースがある一方、腰椎椎間板ヘルニアを起こして足に痛みとしびれがあるのに、腰の痛みを感じないというケースも見受けられます。症状がひどくなる場合はもちろん、痛みやしびれ、麻痺(まひ)など、気になる症状が1週間以上続くようなら、医療機関への受診が必要です。
検査と診断
問診、視触診を行った上で、X線検査、CT検査、MRI検査を行います。画像診断によって、椎間板が椎骨から飛び出てしまっている状態を確認するとともに、骨折や腫瘍など、ほかの病気との鑑別診断を行います。椎間板ヘルニアは、画像診断で確認できるヘルニアの大きさと、患者さんが感じる症状の重さが比例しない場合があるという特性があります。患者さんにどのような症状があるかは、診断する上で、大変重要な情報になります。受診の際は、いつから、どこに、どのような症状があるのか、日常生活で椎間板に悪影響を及ぼす習慣があるかどうか、医師にしっかり伝えることが大切です。
治療
椎間板ヘルニアの治療は、主に保存療法となります。コルセットなどを使用して安静に過ごすことを中心に、鎮痛剤などの薬物療法、リハビリテーションを行います。こうした方法を続けても改善が見られない場合には、神経ブロック注射を行います。これは、局所麻酔とステロイド剤を注射して、痛みを和らげる治療法です。
また、麻痺、手足が動かないなどの強い神経症状が出ている場合や、排尿や排便に障害が出てしまい、日常生活に支障がある場合は、状況に応じて手術を検討することがあります。劣化した椎間板は元に戻らないため、ヘルニアの突出の状況や大きさ、患者さんの年齢などを考慮し、慎重な判断が求められます。
手術
椎間板ヘルニア手術の主な方法として、神経を圧迫しているヘルニアを摘出する方法(ヘルニア摘出術)と、髄核の一部を摘出して椎間板の圧力を小さくすることでヘルニアを引っ込める方法があります。
- 後方椎間板切除術:
- 背中側を切開してヘルニアを摘出する手術です。椎骨が安定しないケースでは、金属を入れて固定する方法もあります。
- 内視鏡下手術:
- 内視鏡を使ってヘルニアを摘出する手術です。指1本分程度の太さの円筒を使って、そこから内視鏡と手術器具を挿入し、モニター画面を見ながら手術を行います。従来の方法に比べて小さな皮膚切開ですみ、筋肉を傷めることがないので、患者さんの体への負担が少ない手術です。
- レーザー治療:
- 軽度から中度の椎間板ヘルニアに対して、局所麻酔で飛び出した椎間板の髄核にレーザーを照射し、椎間板の圧力を小さくする手術です。手術時間が短くすむため、場合によっては日帰りで受けることも可能ですが、健康保険が適用されないので自費診療となります。また、複数回の照射が必要なケースや、痛みやしびれが残ったり、効果が見られないケースもあります。
更新:2022.05.26