基礎情報

概要

痔とは肛門に発生する病気の総称です。代表的なものとして痔核(じかく/いぼ痔)、裂肛(れっこう/切れ痔)、痔瘻(じろう/あな痔)があり、痔核は、発生する場所によって内痔核と外痔核に分けられます(肛門上皮と直腸粘膜との境界線である歯状線〈しじょうせん〉より上に発生するものが内痔核、下に発生するものが外痔核)。

男女ともに症例数がもっとも多いのは痔核ですが、男性は女性よりも下痢をしやすく肛門括約筋が強いため痔瘻が2番目に多く、女性は便秘や妊娠・出産がきっかけになりやすい裂肛が2番目に多くなっています。

図
図:痔の種類

原因

痔核

直腸の下や肛門にある静脈を含めて肛門を閉じる役割をするクッション部分がうっ血してふくらんだものです。便秘で排便のときに強く息んだり、長時間座りっぱなしでいたりすると、肛門に負担がかかり、起こりやすくなるといわれています。

裂肛

硬い便を無理に出そうとしたとき、便が肛門を通過する際の刺激で切れることが多いです。一方、慢性的な下痢による炎症として起こることもあります。

痔瘻

肛門の奥にある肛門陰窩(いんか)というくぼみに細菌が入り込み、肛門腺が化膿すると、肛門の周囲に膿がたまって肛門周囲膿瘍ができます。この腫瘍が自然に破れるか、病院で切開することで膿が排泄されます。そのまま治る場合もありますが、瘻管(ろうかん)という膿の管が残ることが多く、その状態が痔瘻です。

ストレスなどで免疫力が低下すると、発症しやすくなります。また、排便時に直腸の内圧が高くなると、細菌が侵入しやすくなるため、肛門括約筋が発達している男性に多い傾向があります。

症状

痔核

出血、痛み、脱出、腫れ、分泌物などが見られます。痛みはほとんどなく、排便時に出血したり、肛門から脱出したりして気がつくケースが多く、脱出するときには飛び出してくる感覚や異物感があります。出血は鮮明な赤色であることが多く、出血量はトイレットペーパーに付着する程度から、ほとばしる状態までさまざまです。

裂肛

排便時に激しい痛みと出血がみられます。繰り返すうち、裂け目が深くなって炎症が起こり、潰瘍やポリープができて、肛門が狭くなることがあります。

痔瘻

肛門周囲膿瘍ができると、激しい痛み、皮膚の腫れ、発熱などが見られます。腫瘍が破れてたまった膿が出ると、いったん症状は楽になりますが、肛門の近くにできた穴から繰り返し膿が出続けることがあります。

検査・診断

まずは問診によって、肛門部の症状(出血、痛み、腫れ、脱出物の有無など)やこれまでの経過、排便や生活習慣などについて確認します。

次に、視診と触診により肛門周囲の状態や程度を診て、指診(指を肛門内に挿入して診ること)によって肛門内部の状態を調べます。指診を行うと、痔の種類、肛門狭窄(こうもんきょうさく/肛門が狭くなる)や腫瘍の有無などが判断できます。

さらに、肛門鏡という器具で肛門を押し広げて内部の状態を観察する肛門鏡検査、肛門からプローブという装置を挿入して行う経肛門的超音波検査などもあります。

治療

痔核と裂肛の治療の基本は保存療法です。食物繊維を多めにとり、脂肪を控えるなど食事に注意する、同じ姿勢を長時間続けないようにするなど、排便を含む生活習慣の改善をめざします。

痛みやかゆみ、出血、炎症などを和らげたり、傷の治りを促進したりするため、肛門内部や外側の患部に直接使用する外用薬を使用することも多いです。また、炎症を緩和したり、血行を改善したりするための内服薬が処方されることもあります。

症状がひどく、日常生活に支障をきたすような場合は、外来処置や入院手術を行います。痔核・裂肛いずれも、いくつかの処置や手術法があるため、最適なものを選択します。

痔瘻の場合、保存療法での治療は難しいといえます。原因となる肛門周囲膿瘍ができてしまったら、皮膚を切開して膿を出した後、抗生物質や鎮痛剤を投与します。瘻管が残り痔瘻になったときには根治手術を行いますが、肛門の締まりを温存する最適な方法を選択します。

更新:2022.05.16