弓部大動脈瘤に対するハイブリッド治療
心臓血管外科
弓部大動脈瘤
大動脈は、心臓から上行大動脈が起始し、弓部大動脈、下行大動脈を経て、腹部大動脈に繋がります。大動脈は、正常30mmまでの大きさで、50mmを超えると破裂する可能性が高くなり、手術適応となります。弓部大動脈から、頚部3分枝(腕頭動脈、総頸動脈、左鎖骨下動脈)が起始するため、弓部大動脈瘤を手術する際には、頚部3分枝をいかに再建するかが問題となります。また、左鎖骨下動脈のすぐ近傍には左反回神経があるため、この左反回神経をいかにして温存するかが重要です。反回神経とは声帯を動かす神経であり、これを損傷すると左声帯麻痺となり、声がかすれる嗄声、声帯が閉鎖せず誤嚥のリスクとなります。特に、高齢者では、誤嚥を起こすと肺炎を発症し、致命的となる可能性があります。
標準手術
標準手術は、弓部大動脈瘤(図1矢印)の末梢側で人工血管吻合を行い、頚部3分枝を再建し、上行大動脈で人工血管を吻合して終了します(図2矢印)。この手術は、胸骨正中切開、人工心配使用、心停止下に行います。この術式は、古くから行われており、頚部3分枝を再建する際にも、脳分離体外循環法を使用することで、術後の脳合併症は減少し、安全性が確立された術式です。ただ、末梢側吻合が術野から遠く、出血した場合は、止血がかなり困難となります。また、左反回神経麻痺も起こりやすい術式です。
ハイブリッド治療
当院では、左反回神経麻痺を回避するため、可能な限り手術を2回に分けています。まず、1回目の手術で、弓部大動脈瘤の直前まで人工血管で置換し、約2日後に胸部ステント内挿術を追加する方法です(図4)。これをハイブリッド治療と呼びます。2回に分けることで、患者様の負担が増えるように思われますが、実際には、2回目の手術は約1時間で終了し、ほぼ負担は増えません。また、こうすることで、左反回神経麻痺が回避され、高齢者でも安全に手術が行えます。
当院では、様々な大動脈瘤(上行、弓部、下行、腹部、胸腹部)に対して、患者様の状態(年齢、体力など)に合わせて、適切な手術を行いますので、お気軽に外来受診をしてください(水曜日:福井、山田、田辺)。
更新:2024.10.08