世界基準の最新のアルツハイマー病治療

認知症先端治療センター

世界基準の最新のアルツハイマー病治療

アルツハイマー病とは?

認知症とは、一度健康に発達した脳の働きが後に低下し、日常生活に支障が出るようになった状態です。認知症の原因で一番多いアルツハイマー病は、脳内にアミロイドβやタウといった病的なタンパク質が蓄積して発症し、進行するといわれています(図1)。これらのタンパク質が、認知症となる10年以上前から脳内に蓄積し、「症状の全くない時期」「ちょっとした物忘れなどがある時期(軽度認知障害)」を経て、認知症を発症します(図2、3)。

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図1 アルツハイマー病の脳
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図2 アルツハイマー病の進行
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図3 アルツハイマー病の症状

最新の画像診断法による病態を踏まえた診断

アルツハイマー病による認知症(アルツハイマー型認知症)の確定診断は、脳組織を調べてアルツハイマー病を引き起こす病態、つまり病的なタンパク質(アミロイドβ、タウ)の蓄積を評価することです。しかし、この方法はこれから治療を受ける方には実施できません。

これまで実際の診療では、脳内病態の有無を確定できなくても、①自覚的な症状と家族などからの客観的情報に基づく症状の確認、②神経心理学検査による記憶などの脳の働き(認知機能)の評価、③血液検査などによるほかの原因の除外、④脳の形の変化を評価する頭部CT/MRI検査、⑤脳の活動を評価する脳波検査、脳SPECT検査、⑥タウの量を評価する脳脊髄液(せきずいえき)検査、などを組み合わせて、よりアルツハイマー病らしい特徴があるかどうかで診断してきました。

近年の脳画像診断技術の進歩によりPET(ペット)という検査方法と検査薬を組み合わせることで、患者さんの脳内にアミロイドβがどの程度蓄積しているかを評価できるようになってきています(図4)。当院ではPETを用いた研究を長年行っており、検査薬の臨床治験も行っていました。その結果、2023年の末にアミロイドβを評価する検査薬を用いたPET検査が、保険診療で行えるようになりました。

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図4 アミロイドPET 陽性例・陰性例

このような手法は今後さらに発展し、将来多くの認知症の病態に応じて、最も適した治療を選べる時代になるといわれています。認知症先端治療センターでは、これまで行ってきた研究の経験も踏まえて、最新の画像診断技術を利用した診断を行います。

アルツハイマー病の病態への治療

これまでのアルツハイマー病治療では、認知症を発症した方を対象に、中核症状と呼ばれる記憶能力などの低下に対して症状を緩和する症状改善薬、また不眠、うつ、興奮といった周辺症状に対して対症療法(※1)的な薬物療法を中心に、精神療法や生活指導などが行われてきました。

※1 対症療法:病気の原因を取り除くのではなく、病気によって起きている症状を和らげたり、なくしたりする治療法

これらの治療は一定の効果がありますが、病気の本質である病態には作用しないため、効果の限界がありました。このため、病態に作用する治療法の開発(臨床治験)が世界中で行われ、当院も数多く参加してきました。そして2023年12月にアミロイドβを取り除く効果のある治療薬が国内で初めて保険診療で使えるようになりました。

今回承認されたレカネマブという薬は、アルツハイマー病の病態に直接作用するだけでなく、軽症の認知症に加えて、認知症の前段階の「軽度認知障害」の方も治療対象となり、より早期に治療を開始できます。

レカネマブは、①認知機能検査、②頭部MRI検査、③アミロイドPET検査により、適格性を満たした方を対象とし、1回1時間の点滴を2週間ごとに1年半行います。この治療で「病気の進行を約30%遅らせ、治療を受けた方の約7割の方でアミロイドβが充分に除去される」ことが報告されています(1))。

(1) van Dyck CH, et al. N Engl J Med. 2023 Jan 5;388:9-21.

これまでにない作用機序(しくみ)の薬であるため、治療を開始するには、実施できる医師と施設の要件が厳格に定められています。当センターはこの要件をすべて満たしており、この最新の治療を行っています。

地域連携について

レカネマブ治療は、当センターのような施設で開始した後、半年を過ぎてからは、開始施設と連携している、より緩い要件を満たした医療機関で受けられます。当センターでは、治療を開始した患者さんが地元で同じ治療を受け続けられるように積極的に地域医療機関と連携しています。認知症の方ができるだけ長く住み慣れた地域で暮らせるよう、お手伝いをしたいと考えています。

当科の特色 認知症先端治療センター

認知症先端治療センターは、認知症の最新治療を行うために2024年1月に発足し、2月から診療を開始しています。

診療は認知症診療を専門とする精神神経科と脳神経内科医師が行い、放射線科と日本医科大学健診医療センターの協力のもと、頭部MRI検査とアミロイドPETの実施・診断を迅速に実施しています。また、副作用などのリスクに対しては、密接な院内診療連携体制で対応するなど、チーム医療体制を整えて、より安全かつ迅速な治療に努めています。

そして、今後新たな治療薬が登場した場合にも、当センターでは速やかに対応できる体制となっています。

診療実績

2024年2月から5月末までの診療実績は以下の通りです。

  • 初診患者数:25人
  • アミロイドPET実施者:17人
  • レカネマブ治療実施者:11人

更新:2025.12.12