川崎病後冠動脈障害の管理と治療

小児科

川崎病後冠動脈障害の管理と治療

川崎病後冠動脈障害とは?

川崎病は、1歳前後の乳児に好発(高い頻度で発生)する原因不明の血管炎です。難治症例の場合、心臓の筋肉に血液を送る冠動脈(かんどうみゃく)に、瘤(りゅう)(こぶ)や狭窄(きょうさく)(細くなること)などの後遺症を残すことがあります。これを川崎病後冠動脈障害といい、巨大瘤や重度の狭窄では、心臓の筋肉への血液の供給が滞る心筋虚血(しんきんきょけつ)を引き起こすことがあります。川崎病後冠動脈障害は、心筋梗塞(しんきんこうそく)による突然死の危険性もありますので、正確な冠動脈の血行動態(※1)の評価を行い、厳重な管理と適切なタイミングでの治療が重要です。

※1 血行動態:血圧、血流速度、方向、脈拍数など、血液が血管内を流れ、心臓から体全体に送り出される過程で発生するさまざまな力学的な相互作用

川崎病後冠動脈障害の血行動態

川崎病の急性期(※2)治療は、ここ20年で大幅な進化を遂げ、川崎病後冠動脈障害の発生率は12.1%(1995~1996年)から2.6%(2017~2018年)まで改善しています。しかし、現在でも初期治療で十分に炎症をコントロールできず、残念ながら川崎病後冠動脈障害を残す症例があるのも事実です。特に、冠動脈瘤の最大径が8mm以上を超える巨大瘤や、重度な冠動脈狭窄を認める場合は、心臓の筋肉の虚血(心筋虚血)を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。

川崎病後冠動脈障害は、冠動脈瘤や冠動脈狭窄が混在し、また病変が多枝にわたり出現することも多く、複雑な血行動態をきたすことも、まれではありません(図1)。このような複雑な病変を評価するためには、冠動脈造影検査による形態診断のみでは不十分であり、冠動脈の血行動態の評価が、その後の治療を行ううえで必要です。

図
図1 川崎病後冠動脈障害の冠動脈造影検査

当院では、冠動脈造影検査時に一緒に行う冠血流予備能比(FFR)と13N-アンモニアPET(ペット)検査による冠動脈血流予備能(MFR)を組み合わせることで、より精度の高い冠動脈の血行動態評価を行っています。

※2 急性期:病気・けがを発症後、14日以内(目安)。不安定な状態

冠血流予備能比(FFR)と冠動脈血流予備能(MFR)

●冠血流予備能比(FFR)

FFRは、冠動脈造影検査を施行したときに、冠動脈内の圧力を測ることで評価します。冠血管拡張薬を投与したあとに、冠動脈の入口と川崎病後冠動脈障害の末梢側の冠動脈内の圧力を同時に測定し、その圧の比をFFRとして算出します。

FFRは、ある特定の場所で起きている冠動脈狭窄の程度を測ることができ、機能的な重症度(日常生活においてどのくらいの制限や影響があるか)を評価することができます。

循環器内科の成人領域では、FFRを基準に、冠動脈の治療適応を決定することの有効性が示されています。このFFRは、川崎病後冠動脈障害の狭窄性病変においても、狭窄に伴う心臓の筋肉への血流の低下を評価することができます。

●13N-アンモニアPET検査による冠動脈血流予備能(MFR)

13N-アンモニアPET検査は、精度の高い画像処理や分析により、正確な心筋への血流量を測定することが可能です。

MFRは、13N-アンモニアPET検査で得られた心筋への血流量をもとに、冠血管拡張薬投与による負荷時の心筋への血流量と、安静時の心筋への血流量の比によって算出します。通常、負荷時に心筋への血流量は増加し、MFRも増加しますが、冠動脈障害が存在すると、心筋への血流量が制限され、MFRも低い値となります。これにより、微小な血管まで詳しく評価することができます。

川崎病後冠動脈障害の治療

冠動脈形態に加えて、FFRとMFRの結果で、血流低下が必然的に起こっていると判断されると、治療の適応があると診断します。治療には、①冠動脈バイパス術(CABG)と、②経皮的冠動脈形成術(PCI)があります。しかし、いずれも小児においては、主に体格的な問題からそれらの処置が難しいことも多いです。

●冠動脈バイパス術(CABG)

当院の心臓血管外科では、小児期にはもちろん、就学以前の症例に対しても、CABGを行っています。就学以前のCABGは血管径が細く、術後の狭窄などの合併症が危惧されますが、良好な成績を収めています。

●経皮的冠動脈形成術(PCI)

PCIは、成人領域ではステント(※3)治療やロータブレータ(※4)治療などの選択肢がありますが、小児の場合は体格や成長などの特徴から、基本的には経皮的冠動脈バルーン拡張術(POBA)(※5)のみ施行しています。当院ではCABGを年齢的に困難な症例に対して行い、最小年齢は2歳0か月です。

小児の川崎病後冠動脈障害は判断に難渋することも多いですが、心臓血管外科と密な連携をとりながら協力して治療適応や方法を決定しています。

図
図2 川崎病の症状

※3 ステント:血管を内側から広げるための、金属でできた網状の筒
※4 ロータブレータ:病巣を削り取る目的で、医療用の細い管(カテーテル)の先端にドリルが取り付けられた器具
※5 POBA:カテーテルの先端に取り付けたバルーン(風船)で、内側から拡張させる治療

当科の特色 小児科

当科では、川崎病の初期治療はもちろん、川崎病後冠動脈障害の管理・治療も積極的に行っています。初期治療では、適切な診断に基づき、大量免疫グロブリン投与のほかにステロイド、シクロスポリン、インフリキシマブ、血漿交換といった治療を組み合わせて、早期の炎症の鎮静下をめざします。

川崎病後冠動脈障害に関しては、当院の心筋虚血の評価や治療のために、全国から紹介を受けています。当院での川崎病治療は歴史があり、先代から受け継いだ技術や知識と豊富な経験をもとに、心臓血管外科と力を合わせて日々診療にあたっています。

診療実績

●過去10年間の川崎病後冠動脈障害に対するCABGと心臓カテーテル検査の症例数(2013~2022年

  • ・CABG:17症例
  • ・心臓カテーテル検査:87症例

●過去7年間の13N-アンモニアPET検査の症例数(2016~2022年)

  • ・13N-アンモニアPET検査:63症例
    (13N-アンモニアPET検査は2016年から川崎病後冠動脈障害に対して積極的に行っています)

●現在までに、就学以前に施行したCABGは7症例、小児期に施行したPOBAは6症例ありますが、全例合併症なく経過は順調です。

更新:2025.12.12