咽喉頭がんの手術と放射線治療とは?

耳鼻いんこう科 放射線治療科

咽喉頭がんとは?

咽頭(いんとう)とは、鼻の奥から食道に至るまでの食物や空気の通り道です。咽頭は上・中・下の3つの部位に分けられ、各部位にがんができると、それぞれ上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんという診断となります。

喉頭(こうとう)とは、いわゆる「のど仏」の部分です。食道と気道が分離する個所に気道の安全装置として発生した器官で、下咽頭の前に隣接しています。役目の1つは気道の確保です。口と肺を結ぶ空気の通路で、飲食物が肺に入らないよう調節(誤嚥(ごえん)防止(*1))します。もう1つは発声です。喉頭のなかには発声に必要な声帯があります。また、この声帯のある部分を声門(せいもん)といい、それより上を声門上、下を声門下と呼び、同じ喉頭がんでも3つの部位に分類して扱われます(図1)。

*1 誤嚥:食物などが気管に入ってしまうこと

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図1 咽喉頭の位置関係

これら咽喉頭(いんこうとう)がんの発生原因としては喫煙と飲酒が大きく、喫煙本数や飲酒量に継続年数をかけた値が大きいほど発がんの確率が高まります。ただし、上咽頭がんの大部分と中咽頭がんの約半数はウイルスが原因の発がんと考えられています。

咽喉頭がんの治療法は?手術で声が出せなくなるの?

咽喉頭がんの治療法は、手術と放射線治療、化学療法のうちの1つ、または複数を組み合わせたものになります。早期のがんは後述の放射線治療を行うほか、最近は口から内視鏡を入れてモニターで観察しながらがんを切除する内視鏡下切除術をよく行っています(胃がんや大腸がんに対する内視鏡下切除術と同様の方法です)。頸部(けいぶ)を切開して咽喉頭の外側から切除する従来の手術と比較して体への負担が少なく、嚥下(えんげ)(*2)機能や発声機能の保存にも優れた手術です。

*2 嚥下:飲み込み

ある程度進行したがんには、外切開による手術が必要になります。咽喉頭のがんを切除し、頸部のリンパ節に転移がある場合、あるいは疑われる場合は、必要な領域のリンパ節を、重要な血管や神経を残して脂肪組織ごとまとめて切除する頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)という手術を同時に行います。

この際、発声に必要な喉頭はなるべく残すように切除範囲を工夫して行いますが、喉頭の大部分にがんがある場合には喉頭全体を摘出します。本来の発声はできなくなりますが、食道発声、電気喉頭を用いた発声などの代用発声法を習得してもらいます。

咽頭の切除範囲が大きい場合には、組織の欠損が大きくなるので何らかの組織で再建する必要があります。前腕の皮膚を移植する前腕皮弁術(ぜんわんひべんじゅつ)や、咽頭全体の代わりの消化管として空腸を移植する遊離空腸移植(ゆうりくうちょういしょく)などを行います(図2)。これら遊離移植の手技は、形成外科や外科と協力して行います。

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図2 下咽頭がん切除後の遊離空腸移植

放射線治療って、どんなもの?

放射線治療は高エネルギーのX線を患部に照射してがんを縮小、消失させたり、術後の再発を低下させたりすることができます。患部の形態が温存されるため、変形や機能低下が少ないことが特徴です。早期の喉頭がんや上咽頭がん、中咽頭がんでは放射線治療で根治(こんち)(*3)が期待できます。

*3 根治:完全に治すこと。治癒

一般的に放射線治療は1日1回、1回10〜20分の間、患者さんは治療台の上で仰向けになってもらうだけです。ただし、首は動きやすいので専用のお面型の固定具(写真1)を使用します。日数は週に5日間(土日祝は休み)の治療で合計30〜35回照射するため、6〜7週間かかります。進行がんでは抗がん剤も併用します。

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写真1 特殊なプラスチック製の固定具で、一人ひとりの体格に合わせて作成します

副作用としてのどの粘膜や皮膚に炎症が生じるため、治療中はのどや首の痛みが生じます。また、味覚の低下や唾液腺の機能低下も生じる場合があります。唾液腺は放射線に弱いため、一度落ちてしまった機能の回復は難しいですが、強度変調放射線治療という新しい照射技術を用いて唾液腺の被ばく線量を下げることにより、唾液腺機能低下のリスクを下げることができるようになってきています(写真2)。

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写真2 放射線治療の線量分布図。照射される範囲が強度別(赤→青)に色塗りされています

咽喉頭がんは部位や進行度によってさまざまですが、手術・放射線治療・化学療法を適切に組み合わせた集学的治療により、進行がんであっても年々治療成績は向上しています。また、低侵襲(ていしんしゅう)(*)手術や放射線治療による機能温存に配慮した治療もよく行っていますので、安心して治療に取り組んでいただけます。

*低侵襲:体に負担の少ない

更新:2024.10.08