甲状腺がんはどのように治療しますか?

耳鼻いんこう科 放射線治療科

甲状腺がんとは?

甲状腺はのど仏の軟骨の下にあり、気管を囲むように左右対称に存在する蝶型の小さな臓器です(図1)。海藻に多く含まれるヨードを取り込んで甲状腺ホルモンという代謝を促進するホルモンをつくり、分泌します。

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図1 甲状腺の位置と形

甲状腺にできる腫瘍(しゅよう)のうち、悪性のものが甲状腺がんです。男女比は1対3で女性に多くみられます。発症は20歳代からみられ、70歳代で最も多くなります。原因としてはっきりしているのが若年期の放射線被ばくです。それ以外には肥満、遺伝などが原因として考えられていますが、それほど強い相関はありません(例外的に、後述の髄様(ずいよう)がんは約30%が遺伝性であることが分かっています)。

初期には症状がなく、次に腫瘍をしこりとして感じるようになり、さらに進行すると声がれや呼吸困難感が出てきます。声がれは、甲状腺のすぐ奥を走る反回神経(発声に必要な声帯を動かしている神経)に腫瘍が浸潤(しんじゅん)(*1)して麻痺(まひ)させることで起こります。

甲状腺がんには主として4種類あり、それぞれの名称と発生比率は、乳頭がん(90%)、濾胞(ろほう)がん(5%)、髄様がん(1〜2%)、未分化がん(1〜2%)です。乳頭がんと濾胞がんを合わせて分化がんと呼びます。

まず超音波検査を行い、腫瘍から針で細胞を取って診断をつけます。腫瘍の広がりを確認するためにCT検査も行います。

*1 浸潤:がんがまわりに広がっていくこと

甲状腺がんの治療と予後は?

分化がんと髄様がんの治療は手術が基本です。がんが片方の葉に限局している場合は、その葉(甲状腺の半分)を切除し、転移の可能性がある近くのリンパ節も一緒に切除します。がんが甲状腺両葉に及ぶ場合や、悪性度が高いと判断された場合は甲状腺全部を摘出します。広い範囲のリンパ節に転移している場合は、それに応じてリンパ節を切除する範囲を広げます(頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)といいます)。

甲状腺を全部摘出した場合は、甲状腺ホルモンが分泌されなくなるので、術後は甲状腺ホルモン剤を一生服用する必要があります。甲状腺に付着している4個の副甲状腺(図1、カルシウムの吸収を助ける副甲状腺ホルモンを分泌する)もすべて切除した場合はカルシウムの吸収が悪くなるので、副甲状腺ホルモンの代わりになるビタミンDを一生服用する必要があります。副甲状腺はなるべく残すようにしていますが、残すことによってがんを取り残す心配がある場合は一緒に切除します。

未分化がんの治療も、手術可能な場合は行いますが、きわめて進行が速く、見つかったときには周囲に浸潤して手術不能である症例が大半です。このような症例には放射線治療や抗がん剤治療を行います。手術できた症例でも術後にこれらの治療を追加することが多いです。

予後(*2)はがんの種類と進行度によりますが、未分化がんを除いて他臓器のがんと比較して良好であり、通常のがんが5年生存率で評価されるところを10年生存率で評価されます。一番多い乳頭がんで10年生存率90%、濾胞がんで70%、髄様がんで70%、未分化がんのみが極めて悪く、1年生存率が10%以下になっています。

乳頭がんの予後が良いのは、進行が遅く、遠隔転移しにくいためです。乳頭がんでは、女性より男性の予後が悪く、若年者より高齢者の予後が悪い傾向があります。濾胞がんや髄様がんも進行はそれほど速くありませんが、肺や骨への遠隔転移を起こしやすい分、予後が悪くなります。未分化がんは、あらゆるがんの中で最も進行が速く、遠隔転移も多いがんです。

*2 予後:今後の病状についての医学的な見通し

甲状腺がんの手術以外の治療は?

分化がんと髄様がんには、放射線治療(外照射)はほとんど効果がありません(未分化がんには行われます)。分化がんには、その代わりにアイソトープ治療と呼ばれる内照射を行う場合があります。

この治療は、分化がんが正常な甲状腺組織と同じようにヨードを取り込む性質を持つことを利用したもので、手術で取り除けない遠隔転移がある場合に行います。

準備として、正常な甲状腺がまだ残っている場合には切除しておきます。この状態で放射性ヨードを患者さんに内服してもらうと、転移したがん組織にだけ放射線を出すヨードが取り込まれるので、正常組織への被ばくがほぼない、効果的な放射線治療となります。これにより、サイズの小さい肺転移などは消失させることができます(図2)。

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図2 アイソトープ治療の原理

ただし、このアイソトープ治療は周囲の人の被ばくを防ぐために専用の病室に隔離しての入院が必要となり、実施できる病院も限られています。

なお、同じく進行した分化がんで全摘後に明確な転移はないものの再発の心配がある例では、より少ない量の放射性ヨードを用いたアブレーションと呼ばれる低用量アイソトープ治療を行う場合があり、再発率を低下させる効果があります。こちらは入院が必要なく、当院でも実施可能です。

これに加えて最近、分子標的薬という抗がん剤も用いられるようになりました。手術やアイソトープ治療を行っても残存したがんに対してはレンバチニブ、ソラフェニブ(すべての甲状腺がん)、パンデタニブ(髄様がんのみ)が用いられ、それぞれ効果が認められています。

甲状腺がんは検診での頸部触診で見つかるほか、動脈硬化を調べる目的の頸動脈超音波検査で偶然見つかることも増えてきました。比較的治りやすいがんですので、恐れずに耳鼻いんこう科を受診してください。

更新:2024.10.08