のぞいてみよう!最新の医療技術に対応した進化していく手術室

臨床工学部 手術部 外科

はじめに

当院には12の手術室があります。その中には手術支援ロボット(ダビンチ)を用いた手術を行う手術室、人工関節や人工弁の植込み、脳腫瘍の手術を行うバイオクリーンルーム、高性能な画像診断装置を併設したハイブリッド手術室を備えており、高度かつ最新の医療技術に対応することができます。

術式の多様化や低侵襲化(ていしんしゅうか)(体への負担を少なく)等、医療情勢が変化するなか、当院では最新の医療機器を導入するなど、日々アップデートを重ねています。

未来がここに!ロボット支援手術

医療技術の進化とともに、手術のあり方も大きく変化してきました。手術といえば、外科医がメスを手にして患部を大きく切り開くというイメージでしたが、さまざまな分野の研究開発によって医療機器や器具などが革新的に発展し、より患者さんにやさしい手術が生まれました。例えば、カメラや器具を体内に挿入して行う内視鏡下の手術です。

さらにこれが進化して、ロボット技術を使った手術支援ロボット(写真1、2)が開発されました。術者の手振れがなくなり、高精細な3D画像をもとに多関節の器具を操作して手術を行うことが可能になりました。ロボットのアームは人間の腕よりも可動範囲が広いため、ストレスなく自由に操ることができます。わずか10mmの孔(あな)を4か所ほど開けるだけでも、実際に体内に手を入れている感覚で手術が行えます。残すは触感。これはまた、未来の研究者に託します。

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写真1 手術支援ロボット
左よりペイシェントカート、サージョンコンソール、ビジョンカート
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写真2 サージョンコンソールの操作
術者は、患者さんより少し離れた場所から操作しています

透けて見える?ナビゲーション手術

カーナビゲーションは、高度約2万kmを周回するGPS衛星等の情報を元に位置を特定して地図上に示すシステムです。

この技術を手術に応用したナビゲーション手術システム(写真3)は、手術前に撮影したCTやMRI画像を3次元構築しておき、手術中は赤外線や磁場を使用して、患者さんと手術器具の位置関係をリアルタイムに表示させます。これにより、骨や腫瘍(しゅよう)・血管の位置、手術器具やインプラントの角度、深さなどを描写することが可能になりました。また顕微鏡装置に対しては、顕微鏡の接眼レンズを通した術野の像にナビゲーション画像をスーパーインポーズ(*)して表示することができます。

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写真3 術中ナビゲーションの実際
開頭後に病変までのアプローチを確認しています

病変部とその周囲を立体的に描写することで、手術の際にどこを切開してどの方向に進めば安全に病変部まで到達できるのかが分かります。病変の広がり、重要な神経や血管の位置、手術している部位がリアルタイムかつ正確に表示されるので、神経や血管を傷つけることなく病変部のみを切除することが可能となる重要なシステムです。

*スーパーインポーズ:顕微鏡映像にナビゲーション画像を重ね合わせて表示する技術

奥が深い!3D手術

当院の内視鏡手術システムは、3Dカメラに高精細な4Kモニターを搭載しています(写真4)。そのため極限まで拡大して手術を行うことができ、また術野の奥行きが描写される3D映像は、より直感的で正確な手術操作を可能とします。

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写真4 3D内視鏡手術
4Kモニターに映した3D映像を、専用メガネをかけて見ながら手術を行います

この内視鏡システムには、粘膜表層(ねんまくひょうそう)の毛細血管や粘膜微細模様(ねんまくびさいもよう)を強調表示するNBI(Narrow Band Imaging、狭帯域光観察(きょうたいいきひかりかんさつ))、粘膜深部の血管や血流情報を強調表示するIR(Infrared、赤外光(せきがいこう))観察などの特殊光観察機能があり、リアルタイムにがんの広がりが確認できるため、必要な組織だけを切除する際に役立ちます。NBIは、微細な病変の境界が判断できるとともに、薬剤を使用しないため患者さんの負担の軽減も期待できる技術です。IRは、組織を切除して、正常な組織を繋げた際の血流観察に用います。

医療の進化論

近年、科学的に根拠がある客観的な情報は速やかに医療に取り入れられています。これをEBM(Evidence Based Medicine、根拠に基づく医療)といいます。いま私たちにはこの根拠に加えて、資源と価値観のバランスをとりながら最善の医療を提供することが求められています。

高度な手術を行うには医療機器と病院設備の連携が必要となり、患者さんの状態や手術の進行等の情報が統合されれば、手術の精度や安全性が向上することが期待されます。これにはIoT(Internet of Things、機器同士のネットワーク接続)環境の標準化が必須となるため、各種の医療機器が異なるメーカーであっても情報が相互に接続されるシステムとなることが望まれます。

次に見据えているのは、ICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)とAI(Artificial Inteligence、人工知能)技術の医療への応用です。医療ビッグデータを収集し、それを活用することは疾病予防に有効であるとされており、この手法が手術に導入される日もそう遠くないと考えられます。次なるイノベーションに備え、私たちも進化を止めてはなりません。

更新:2024.10.08