基礎情報

概要

甲状腺とは、喉仏(のどぼとけ)のすぐ下にあり、羽を広げたチョウのような形をした、4〜5cmほどの臓器で、体の新陳代謝を促す働きがある甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは、脳の下垂体から指令を受けて、一定の量を保つような仕組みになっていますが、そのバランスを崩すと、分泌される量が多くても少なくても体調不良を招きます。甲状腺ホルモンの分泌の異常によって起こる病気を甲状腺疾患といい、以下のタイプに分類されます。

甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)

甲状腺ホルモンの分泌が過剰になって起こる病気です。代表的なものがバセドウ病です。

甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンの分泌が低下して起こる病気で、全身の機能が低下します。代表的なものが橋本病です。ただし、橋本病と診断された患者さんのすべてが甲状腺機能低下症に当てはまるわけではありません。

甲状腺の炎症

細菌感染によって炎症を起こす急性化膿性甲状腺炎(きゅうせいかのうせいこうじょうせんえん)、ウイルス感染が原因と考えられている亜急性甲状腺炎(あきゅうせいこうじょうせんえん)、甲状腺ホルモンが低下しておこる橋本病があります。甲状腺に腫れや痛み、しこりなどを起こします。

甲状腺腫瘍(しゅよう)

甲状腺にできた腫瘍は、8〜9割以上が良性で、治療の必要はありません。直径2cm以下の初期の腫瘍では、自覚症状はほとんどなく、腫瘍が大きくなると、首の腫れやしこりなどの症状が現れます。1〜2割が悪性の甲状腺がん、悪性リンパ腫などで、手術が必要になります。

図
図:甲状腺ホルモンの働き

原因

甲状腺疾患は、女性に多い病気ですが、なぜ女性に多いのか、詳しいことは分かっていません。バセドウ病や橋本病は、自己免疫の異常が原因でおこります。自己免疫の異常とは、自分の体を守るために働くはずの免疫システムが異常をきたし、自分の体を攻撃するようになる病気で、感染症や薬剤、遺伝などが関わっていることが分かっていますが、完全に解明されているわけではありません。

症状

甲状腺疾患で感じる症状は特別なものではなく、だるい、疲れやすい、足がむくむ、髪の毛が抜けるなど、更年期障害とも似ているため、原因が分からずにいる人も多いようです。また、甲状腺の腫れが大きくなると、息苦しさ、食べ物の飲み込みにくさを感じるようになります。甲状腺ホルモンが多い人と少ない人では、まったく逆の症状を感じることがありますが、これらすべての症状が必ず現れるわけではありません。

甲状腺機能亢進症のみに現れる症状

動悸(どうき)、息切れ、多汗(たかん)、微熱(びねつ)、手足のふるえ、イライラする、体重減少、下痢、月経減少、眼球が出てくるなど。

甲状腺機能低下症のみに現れる症状

脈が遅い、寒がり、肌のかさつき、物忘れ、眠気、記憶障害、抑うつ、体重増加、月経過多。

検査・診断

問診や触診によって、自覚症状や甲状腺の腫れを調べます。決め手となるのは血液検査で、超音波(エコー)検査を行う場合もあります。

血液検査

血液中に含まれる甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、自己抗体値を調べます。甲状腺に異常があると、コレステロールや肝臓の数値に異常が現れたり、貧血になったりすることがあります。

超音波検査

甲状腺が腫れている様子、甲状腺の大きさや血流を観察します。腫瘍がある場合には、病変から細胞や組織を直接採取して、生検を行います。

治療

甲状腺ホルモンの分泌量を適切にコントロールすることで、健康な状態を保ちます。

薬物療法

甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンの分泌を抑える薬(抗甲状腺薬)を服用し、甲状腺機能低下症では、不足した甲状腺ホルモンを薬で補充します。服薬で症状が改善する人が多いですが、服薬をやめるとすぐに症状が悪化しますから、継続して服薬することが大切です。かゆみ、皮疹、肝臓への負担などの副作用が起きることもあり、定期的に甲状腺ホルモン値を測定して、主治医の指示を守って適切な量の薬を服用します。

アイソトープ(放射性ヨード)治療

放射性ヨードのカプセルを服用して甲状腺の細胞を減らします。甲状腺にはヨードを取り込む性質があるため、体内で放射線を照射する方法で、薬物療法で抗甲状腺薬が効かず、甲状腺ホルモンがコントロールできないとき、副作用が出たときなどに選択する方法です。

手術療法

甲状腺にできた腫瘍が悪性だった場合には、手術によって摘出します。がんの種類やステージによって、片側のみ、3分の2以上摘出、全摘のいずれかが選択されます。

更新:2022.08.22