しょうかかんかんせんしょう

消化管感染症

基礎情報

概要

消化管とは、体が吸収しやすいように食べ物を消化し、必要な栄養分を吸収し、吸収されないものを排出する働きを持つ器官です。口から順に、口腔、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸、肛門に分けられ、さらに肝臓と膵臓も消化器に属する臓器として機能を果たしています。

これらの器官・臓器には、食事のときなどに、食べ物と一緒に空気やほこりなども取り込まれます。さらに、微生物などの異物、ウイルスや細菌など、疾患の原因になるものも入ってくることがあります。

本来ならば体が持つ防御機能により、ウイルスや細菌の感染から守られますが、何らかの要因で感染が起こって発症すると、消化管感染症となります。集団発生を起こした代表的な感染性腸炎には、ノロウイルス腸炎、カンピロバクター腸炎、腸管出血性大腸菌腸炎(O157腸炎)、サルモネラ腸炎などがあります。

図
図:消化管に属する主な器官・臓器

原因

消化管感染症は、口から入ったウイルス、細菌、あるいは寄生虫などが原因となり発症します。食べ物や飲み水などにウイルスや細菌などが含まれていた場合、感染症の感染者と接触した場合、加熱調理が不十分な食事をとることにより、体の中に取り込まれてしまいます。

口腔~食道

口腔内、あるいは食道では、カンジダ属の真菌であるカビの一種がカンジダ症を引き起こします。ウイルスが原因となる感染症は、食道ヘルペスウイルス感染症、食道サイトメガロウイルス感染症などがあります。

胃~腸

数多くのウイルスや細菌が確認されています。代表的なものは、ノロウイルス、ロタウイルス、アストロウイルス、アデノウイルス、サイトメガロウイルスなどです。ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染が原因となって、胃潰瘍(いかいよう)が引き起こされることもよく知られています。

細菌では、コレラ菌、大腸菌、カンピロバクター菌、赤痢菌、チフス菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、ビブリオ菌、ボツリヌス菌、セレウス菌などがあります。アニサキス、クラミジア、アメーバなど、寄生虫が原因となることもあります。

症状

ウイルスや細菌による感染症は、数時間から数日間の潜伏期間を経て発症します。代表的なウイルスや細菌の潜伏期間は、黄色ブドウ球菌(1~5時間)、ビブリオ菌(6~24時間)、サルモネラ菌(8~48時間)、ノロウイルス(1~2日)、カンピロバクター菌(2~5日)、腸管出血性大腸菌(2~9日)、チフス菌(10~14日)などとされています。

潜伏期間が短いものは、患者自身で感染症による症状だと気づきやすいのですが、長いものは食べたものを思い出すことも含めて、見極めが難しくなります。

症状は下痢、発熱、腹痛、吐き気、嘔吐(おうと)などですが、原因となるウイルスや細菌による差があまりないために、症状から原因を特定するのは難しいとされています。

検査

問診

症状を聞き取った後、発症する前に何を食べたのか、数日前までさかのぼって思い出してもらって確認します。ウイルスや細菌が原因と考えられるとき、どこで誰と何を食べたのかは、原因特定のための非常に重要な要因となります。

検査・診断

患者さんの生活環境や地域の流行状況などを考えながら、診断キットによる検査診断を行います。ウイルスや細菌が原因となっている感染症が疑われる場合には、粘膜の一部を取って組織検査を行います。

食道の感染症の場合は、内視鏡による検査が行われる場合があります。食道カンジダ症の場合は、口の中にもカンジダ特有の白い斑が見られることがあります。

便・血液検査など

便や吐物の検査を行い、細菌培養、ウイルス分離、直接鏡検、抗原検出、電子顕微鏡での検査などの方法により、病原体となっているウイルスや細菌、寄生虫などを特定します。結果が出るまでに数日かかることがあります。血液検査で炎症反応を示す結果が得られた場合は、細菌性の感染症が疑われます。

予防

ウイルス性や細菌性の感染症は、家族や学校、会社での集団感染が発生する可能性があるので、患者本人だけではなく、周囲の人への注意喚起を促す必要があります。

治療

基本的に、消化管感染症に対する特別な治療法はありません。水分補給を十分に行って脱水症状を防ぎ、整腸剤などを服用して安静にしているという、症状を緩和させる治療が中心となります。患者さん自身での水分補給が難しい場合には、点滴による治療が行われます。

高齢者の場合は、吐いたものが気管に入ってしまうことにより肺炎を起こすことがあるため、特に注意が必要です。

原因となっているウイルスや細菌が特定されれば、それぞれに適した抗ウイルス剤や抗真菌薬が投与されます。

更新:2022.08.22