たはつせいのうほうじん

多発性嚢胞腎

概要

多発性嚢胞腎(PKD:Polycystic kidney disease)は、腎臓に嚢胞(液体の詰まった袋)が発生し、その嚢胞が増加・増大していく遺伝性の病気です。2015年1月から難病指定の疾患となりました。

多発性嚢胞腎の嚢胞は、尿細管から形成されます(図1)。

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図1:嚢胞の形成過程

嚢胞が増加・増大することにより、腎臓全体が腫れて増大し、お腹が張った状態になり、徐々に腎臓の働きが低下していきます。

発症頻度は3000~7000人に1人で、国内の患者数は約3万1000人と推測されます。日本の透析患者の原因疾患の3%を占めています。

症状

嚢胞は小児期から発生しますが、発症の早い時期は特に自覚症状がなく、腎臓の嚢胞に気付くことはまれです。

年齢とともに嚢胞が増加・増大してくると、徐々に腎機能が低下し、70歳までに約半数が末期の腎不全になります(図2)。

図2
図2:嚢胞増大と腎機能低下

嚢胞が大きくなるとお腹の痛み、腹部膨満の症状が出ます。また尿検査時に血尿、タンパクなどの異常が発生することもあります。その他、腎機能低下により、高血圧の早期出現、血尿・タンパク尿の早期出現、腎腫大進行速度、左心肥大、高度タンパク尿などがあります。

また、腎臓以外のさまざまな臓器に障害が生じることもあります。肝嚢胞(肝臓は腎臓に次いで嚢胞が発生しやすい)、脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)(脳動脈瘤破裂は嚢胞腎患者の死因の4~7%を占める)、心臓弁膜症高血圧、膵(すい)嚢胞、腎結石、大腸憩室などが知られています。

原因

多発性嚢胞腎は、遺伝によって受け継がれた遺伝子異常によって引き起こされます。
遺伝形式は「常染色体優性型」と「常染色体劣性型」と2つのタイプがあり、多くは「常染色体優性型」となります。

常染色体優性型多発性嚢胞腎は、性別に関係なく遺伝し、原因遺伝子はPKD1(16p13.3)とPKD2(4q21)が知られています。ほとんどの場合は遺伝ですが、ときどき突然変異で発症するケースもあります。

検査・診断

診断は、家族歴と画像検査で腎嚢胞を確認していきます。超音波検査で腎嚢胞の確認は簡単にできますが、重症度や進行速度の判断は、CTやMRIで行います。

治療

一般治療として、降圧療法や十分な飲水、タンパク制限食等の治療が行われますが、進行抑制には十分な効果があるとは言えません。

治療薬では、腎嚢胞の増大抑制が期待されるトルバプタン(商品名/サムスカ)と呼ばれる薬が使用できるようになりました。トルバプタンは、嚢胞の増大を抑制する効果が期待できますが、嚢胞自体が消滅する効果は示されていません。ただ、嚢胞の増大抑制により腎機能低下を遅らせ、透析回避の可能性が期待されます。

トルバプタンの使用には注意点も多いので、薬の投与は医師の的確な診断・指導のもとで慎重に開始する必要があります。トルバプタンは非常に高価な薬剤ですが、2015年1月から多発性嚢胞腎が難病指定となり、申請すれば医療費助成を受けることができるようになりました。これまで有効な治療がない疾患でしたが、今後はトルバプタンによって腎不全進行抑制が期待されます。

更新:2022.08.22