わんしんけいそうそんしょう
腕神経叢損傷
概要
腕神経叢損傷とは、腕神経叢を傷つけることです。腕神経叢は、首のあたりの神経根(しんけいこん)(※1)が集まって肩、腕、手に向かうネットワークのことで、腕や手を動かしたり、感覚を感じたりする上で非常に重要な働きをしています。腕神経叢が傷つくと、腕や手にしびれや痛み、動かしにくさなどがあらわれることがあります。
腕神経叢損傷は、肩に強い力がかかる交通事故やスポーツによる怪我、出産時に赤ちゃんが産道を通る時に肩などがひっかかるなどのトラブルが、主な原因とされています。外傷は年齢を問わず多岐にわたります。腕神経叢損傷は、その中でも腕や肩周辺の神経に関わる特別なけがと言えます。
※1:脊髄から分かれた神経のもと
図:腕神経叢損傷腕神経叢損傷の原因
腕神経叢損傷を引き起こす主な原因は、神経の引き伸ばしや圧迫、切断などの物理的ダメージです。以下のような状況で起こりやすいとされています。
- 1.交通事故や転倒などの激しい衝撃
- バイク事故や車での衝突事故、激しく転倒した場合など、肩が強く引っ張られる、または神経が圧迫される状況で損傷を起こすことがあります。
- 2.スポーツによるけが
- ラグビーやアメリカンフットボール、レスリングなど、接触が多いスポーツでタックルを受けたり転倒したりする際、肩や首に強い力がかかると、腕神経叢がダメージを受けることがあります。
- 3.出産時のトラブル
- 赤ちゃんが産道を通るときに肩が引っかかる「肩甲難産(けんこうなんざん)」などで、赤ちゃんの腕や肩の神経が引き伸ばされて損傷する場合があります。出産時に起こる腕神経叢損傷は「エルブ麻痺(まひ)」や「Klumpke(クランプケ)麻痺」などと呼ばれます。
- 4.腫瘍(しゅよう)や炎症(えんしょう)
- 腫瘍が腕神経叢を圧迫したり、感染症や自己免疫のトラブルによって神経に炎症が起こったりすることで、損傷に似た症状があらわれる場合もあります。
腕神経叢損傷の症状
腕神経叢損傷の症状は、どの部分の神経がどの程度傷ついたかによって異なります。代表的な症状としては、次のようなものがあります。
- しびれや感覚の低下
- 腕から手先にかけて、ピリピリとしたしびれや、触った感覚が鈍くなることがあります。
- 腕や手の動かしにくさ
- 神経の損傷の程度によっては、腕を上げられない、手首や指がうまく動かせないなど、運動機能に支障が出ることがあります。
- 痛み
- うずくような痛みや、電気が走るような鋭い痛みが続く場合があります。
- 筋力の低下や筋肉の萎縮(いしゅく)
- 長期間にわたって神経が機能しない場合、筋肉に十分な刺激が伝わらず、やせ細ってくることがあります。
もし腕や手に突然の激しい痛みやしびれが起き、動かしづらさを感じたら、なるべく早く整形外科などの専門医に相談することが大切です。
腕神経叢損傷の検査・診断
腕神経叢損傷の検査や診断では、まず医師による問診と身体診察が行われます。その後、状況に応じて以下のような検査が実施されることがあります。
- 1.画像検査
- X線検査(レントゲン):骨折や関節のズレがないか、骨による神経の圧迫がないかを確認します。
- MRI:骨だけでなく、軟部組織の状態を詳しく調べます。神経の断裂や圧迫の有無を確認できます。
- CTスキャン:MRIと併用することで、より立体的に骨や組織の状態を把握できます。
- 2.電気生理学的検査
- 神経伝導速度検査:神経がどの程度電気信号を伝えられているかを測定し、損傷の部位や重症度を推定します。
- 筋電図:筋肉がどのように反応しているかを測定し、神経と筋肉のつながりが保たれているかを調べます。
- 3.超音波検査(エコー)
- 腫瘍や炎症の有無、神経の走行状態を確認できる場合があり、比較的簡便に行える検査として利用されることもあります。
腕神経叢損傷の治療
腕神経叢損傷の治療は、損傷の程度や症状の強さによって異なります。主な治療法を以下に示します。
- 1.保存療法
- 比較的軽度の損傷で、神経が自然に回復する可能性が高い場合には、まず保存的に経過をみます。痛み止めの薬を使ったり、必要に応じて装具(そうぐ)を使用したりします。
- 2.リハビリテーション
- 理学療法:物理療法(温熱療法など)や運動療法を行い、筋力や関節の動かせる範囲を保つようにします。
- 作業療法:日常生活を送る上で必要な動作を訓練し、腕の機能を少しでも高めることを目指します。
- 3.手術
- 神経の断裂が疑われる場合や、保存療法で改善がみられない場合には手術が検討されます。たとえば、神経移植や神経縫合、神経移行術(※2)などが行われます。場合によっては筋肉や筋肉と骨をつなぐ腱(けん)を移動させる手術が選択されることもあります。
- 4.痛みのコントロール
- しびれや神経痛が強い場合、痛みを和らげる薬や神経ブロック注射、電気刺激療法などが組み合わせて行われることがあります。
※2:損傷していない他の神経を移す手術
腕神経叢損傷の合併症
腕神経叢損傷を放置すると、以下のような合併症が生じる場合があります。
- 筋肉の萎縮(いしゅく)や関節の拘縮(こうしゅく)
- 神経が長期間機能しないと、筋肉がやせ細ったり、関節が固くなったりします。
- 神経因性疼痛(しんけいいんせいとうつう)
- 神経の損傷が原因の痛みです。治療しても痛みが続く場合があり、日常生活に支障を来たすことがあります。
腕神経叢損傷の予防
腕神経叢損傷を完全に防ぐのは難しい場合もありますが、以下のような心がけが役立つ可能性があります。
- 1.安全運転と交通ルールの順守
- 交通事故は腕神経叢損傷の大きな原因の一つです。シートベルトの着用や速度超過の防止などを徹底しましょう。
- 2.スポーツ時の適切な装備
- ラグビーやアメリカンフットボールのような接触の多い競技では、適切な防具やヘルメットを使うことが重要です。
- 3.正しい姿勢や動作の習得
- スポーツや力仕事をする際には、首や肩に過剰な負担がかからないよう、正しいフォームを身につけましょう。
- 4.定期的な筋力トレーニング
- 首や肩、腕まわりの筋肉を強化することで、衝撃を受けたときのダメージを軽減する効果が期待できます。
更新:2026.02.04

