ねっちゅうしょう

熱中症

概要

気温・湿度が高い環境の下で、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体の調整機能が異常をきたして起こる症状が熱中症です。かつては熱失神や熱痙攣(ねつけいれん)、熱射病、日射病などと症状ごとの名称で呼ばれていましたが、現在ではこれらを熱中症と総称します。熱にさらされることで起こる症状は、患者さんの状態や条件によって変化しますが、重症化を防ぐためには早期の処置が重要であることから、症状だけではなく総合的に判断を行った方がよいという考えから、暑熱によって生じる障害の総称として用いています。

暑い環境の下で働いたり運動をしたりしたときに発症することが多いのですが、何もしていなくても気温と湿度が高い場所にいるだけで症状は起こり得ます。特に高齢者は重症化する確率が高いのが特徴です。熱中症による死亡数の推移を見ると、年ごとの気候変化により増減はありますが、近年の死亡数は増加傾向が見られます。中でも65歳以上が8割以上を占めていることから、高齢者は特に注意が必要とされます。

グラフ
グラフ:熱中症による死亡数の推移

厚生労働省 2020年人口動態統計
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/necchusho20/index.html)

原因

高温、多湿、無風の状態で、地面や壁から放たれる熱である輻射熱(ふくしゃねつ)があるような環境では、体がうまく熱を外に出すことができなくなります。暑い日中の激しい運動、慣れない運動、長時間にわたる野外作業で、水分をとることが少なくなった場合など、汗の蒸発によって体温を下げることが難しい状況では、体の中で水分とナトリウムなどの塩分のバランスが崩れ、体温や体液を適切に保つ体の調整機能がうまく働かなくなります。

気象条件が発症に大きくかかわっていますが、強い日光や輻射熱にさらされる屋外だけではなく、高温多湿の室内でも、特に高齢者の発症が増えていることが知られています。また、急激に気温が上がったことで体がうまく温度変化に適応できなかったり、睡眠不足や疲労といった体調不良があったりすることで熱中症を発症することもあります。

65歳以上、あるいは15歳未満で発症リスクが高いとされ、心疾患、肺疾患、精神疾患、高血圧糖尿病認知症などの疾患がある、あるいは肥満も熱中症を発症する要因となります。真夏の暑い日にエアコンなどを使用せずに部屋にいる、あるいは就寝中に発症することもあります。

症状

熱中症の症状は、Ⅰ度~Ⅲ度の3段階に分けられます。

Ⅰ度(軽度)

めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、意識障害を認めない

Ⅱ度(中等度)

頭痛、嘔吐(おうと)、倦怠感(けんたいかん)、虚脱感、集中力や判断力の低下

Ⅲ度(重度)

(1)〜(3)のうちいずれかを含む

  1. 中枢神経症状(意識障害、小脳症状、痙攣発作)
  2. 肝・腎機能障害(入院経過観察、入院加療が必要な程度の肝または腎障害)
  3. 血液凝固異常(急性期DIC診断基準(日本救急医学会)にてDICと診断)

※DICとは、播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群のこと。血管の中に無数の血の塊ができるような、血液の凝固反応が非常に高ぶった状態の疾患。

Ⅰ度では、めまいやだるさ、気持ち悪さといった症状で、Ⅱ度になると吐き気を強く感じたり体に力が入らなくなったりし、Ⅲ度となると意識障害を起こすこともあります。

Ⅰ度の症状があり、改善の兆しが見られる場合は、その場での応急処置や経過を観察することでよいとされていますが、症状が長時間続いて、次第に悪化が見られる、またⅡ度の症状が現れているような状況では、速やかに医師の診断を受けることが勧められます。

検査

問診/診察

高温多湿の環境にいる、あるいはいた、そのような環境で働いていた、運動をしていたなど、患者さんがどういう状況に置かれていたかを聞き取り、重症度の分類を行います。意識障害の程度や体温、発汗の状態は短時間で変化することがあるため、継続的に観察を行います。加えて、皮膚や舌、指先の状態を診察し、脱水症状が起こっていないかを確かめます。

血液検査/尿検査

脱水状態や重症度を確認する尿検査、内臓の機能低下などを調べる血液検査をします。また、同じ症状を示すほかの疾患の可能性を除外するための検査を行います。

治療

Ⅰ度

体の熱が下がる環境に避難して体温を下げ、水分や糖分をとります。塩分と水分を補う経口補水液をゆっくりと、こまめに飲むことが勧められています。

Ⅱ度

まずは体温を下げる処置が行われます。患者さん自身で水分をとれない状況では、点滴により塩分と水分の補給を行います。血液検査で異常があった場合は、入院して治療を行います。

Ⅲ度

重症化した場合は、集中治療室でなるべく早く体温を下げ、人工呼吸器の利用や血液透析を行うなど、命を守る処置が優先されます。

更新:2022.08.17