ロボット「ウェルウォーク」を用いた片麻痺者の歩行練習

藤田医科大学病院

リハビリテーション科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

脳卒中による片麻痺と歩行障害

脳卒中とは、脳の血管が詰まったり、破れたりする病気の総称で、脳梗塞(のうこうそく)、脳出血、くも膜下出血に分類されます。脳卒中が起きた部位によって、麻痺(まひ)(手足が動かない)、失語(言葉が出ない・理解できない)、嚥下障害(えんげしょうがい)(飲みこみが悪い)など、さまざまな症状を生じます。脳卒中による麻痺は右手足、左手足など片側に出現することが多く、これを片(かた)麻痺といいます。

ごく軽度の片麻痺は、最終的にほとんどなくなることもありますが、中等度から重度の片麻痺の場合、改善はしても、完全に元に戻ることはありません。麻痺が残った足で歩こうとすると、つま先が引っ掛かったり、しっかり体重を支えることができなかったりして、転んでしまう危険性があります。そこで、杖(つえ)や装具(関節を安定させるための道具)を使って安全に歩けるように練習を行います。歩くことができなくなると、その後の生活に大きな支障を生じるため、歩行練習はリハビリテーションの重点項目の1つです。

従来の歩行練習

片麻痺が重症で、股(こ)関節・膝(ひざ)関節・足関節のすべての動きが悪い場合には、まず膝関節と足関節を安定させる長下肢(ちょうかし)装具(写真1)を使う歩行練習が一般的です。膝折れを予防した上で、麻痺した足にしっかりと体重をかける練習に集中することができるからです。しかし、長下肢装具を使うと、膝が曲がらないので足を振り出しにくく、体を大きく傾けたり、股関節を中心に足を外側に回しながら前に出したりと、強引に足を振り出すクセがついてしまうことがあります。

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写真1:長下肢装具
膝関節と足関節を安定させる道具で、重度の片麻痺者の歩行練習に用いられます

転倒を防いで安全に練習を進めるためには、療法士(リハビリテーションを担当する国家資格を持つスタッフ)の見守りや手助けが不可欠ですが、手助けが多く必要な患者さんでは、自分自身で体をコントロールする体験が少なくなり、新しい歩き方を身につけるのに時間がかかってしまうことがあります。2~3か月入院でのリハビリテーションを行っても、自分で歩けるようにならない患者さんもいます。

このような問題点を克服し、より多くの患者さんが、もっと短期間に、もっと上手に歩けるようになるリハビリテーションに期待が集まっていました。

歩行練習用ロボット「ウェルウォーク」

そこで、藤田医科大学はトヨタ自動車株式会社と共同で、麻痺した足の機能を適度に補助し、上手な歩き方が早く身につくことを支援するロボットの研究を始めました。10年間の研究、実証を経て、2017年に発売されたのが、ウェルウォークWW-1000(写真2)です。

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写真2:ウェルウォークWW-1000
片麻痺者の歩行練習用ロボット。麻痺した足の機能を適度に補助して早期の回復を支援します

装具型ロボット、患者さん用モニタ、療法士用モニタ、トレッドミル(ベルトが動くことで、1か所で歩行練習ができます)、転倒予防装置、ロボット免荷装置(ロボットの重さを感じさせなくする装置)から構成されます。患者さんは、麻痺した足に装具型ロボットをつけ、トレッドミルの上を歩いて練習をします。転倒予防装置がついていますし、通常の歩行練習と同様に、常に療法士がそばについて練習をするので、転倒してけがをする心配はありません。患者さん用モニタ(写真3)には、姿勢や足元の位置を表示することができるので、上手に歩くための参考になります。

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写真3:患者さん用モニタ
姿勢や足元の位置を表示することができるので、上手に歩くための参考になります

ウェルウォークの特徴は「助けすぎない」ことです。患者さんの麻痺が重い間は、ロボットが足の力をしっかりと助けてくれるので、膝や足首が折れ曲がってしまうことはありません。しかし、麻痺が改善してきたときに、ロボットが補助しすぎると、患者さんがロボットに頼ってしまって、上達しないことがあります。そこで、麻痺が改善してきたら、ロボットの補助を減らすのです。これにより、患者さんは常に最大限の力を発揮することが求められることになります。常に頑張るのは大変ですが、この方が早く良くなるのです。

これまでの研究では、ウェルウォークを使うと、早く自分自身で歩けるようになる、退院時に自分で歩ける人の割合が多くなる、歩き方が上手になる、などの結果が出ています。

このような成果が認められて、2018年ロボット大賞厚生労働大臣賞を受賞することもできました。ウェルウォークは日本全国で80台が使われるようになり、中国やタイでの共同研究も始まっています。藤田医科大学は、これからもロボットを活用することで、より良いリハビリを追求していきます。

更新:2022.03.08