頭頸部がんの集学的治療 低分化甲状腺がん
大垣市民病院
頭頸部・耳鼻いんこう科
岐阜県大垣市南頬町
切除不能となった低分化甲状腺がんに対する治療
根治切除不能な甲状腺がんに対する治療選択肢は限られているのが現状で、特に低分化甲状腺がんは分化がんの中でも予後不良な疾患とされてきました(1)。難治性の分化型甲状腺がん患者を対象とした国際共同第Ⅲ相臨床試験(SELECT試験)で高い奏効率を示したチロシンキナーゼ阻害薬、レンバチニブ(2)が2015年3月に保険承認され、当科には多くの難治性甲状腺がんの患者さんが受診します。そのため、2016年8月から2018年12月に実施された治療効果探索のための全国調査(COLLECT試験)にも積極的に参加し、東海北陸地方では最多、全国でも14番目に多い6症例を登録してきました。
レンバチニブを使用した治療例
代表例として、再発を繰り返したのちに遠隔転移をきたし、切除不能となった低分化甲状腺がんに対して、レンバチニブを使用し延命効果が得られた症例を示します(3)。
甲状腺全摘術+D2郭清(かくせい)術を施行し低分化甲状腺がんT3,N1,Ex1の診断で(図1)、術後にアブレーションを実施した症例です。1年後の初回再発以後、合計2回のリンパ節群郭清術を行いましたが、2年半後に、右肺転移と胸骨の破壊を伴う腫瘍(しゅよう)および多発リンパ節転移を認め、切除不能と判断しました(図2)。
- ドセタキセル13.3mg/weekを3回行いましたが効果がなく、左無気肺をきたし、呼吸状態も悪化したため、経鼻酸素投与を開始(図3)。また、骨折予防と疼痛(とうつう)緩和を目的として、胸骨と骨盤に外照射を24Gy実施し、原疾患に対しては、既存治療では効果不良であることを踏まえ、レンバチニブの投与を開始しました。
- 全身状態不良のため、硫酸モルヒネとリン酸デキサメサゾンナトリウムを投与し、経鼻酸素を増量。また、無気肺と胸水(きょうすい)に関しては、数回の胸水穿刺(せんし)を施行しました。
- レンバチニブ投与後、約1週間で経口摂取と呼吸苦が軽快し、肉眼的な前頸部(ぜんけいぶ)の腫瘍縮小を認めました。
- 投与3週間後には経鼻酸素も終了し、疼痛や呼吸苦が消失したため、硫酸モルヒネとリン酸デキサメサゾンナトリウムの投与も終了しました(図4)。
- 投与4週間目には、前頸部から上縦郭の腫瘍面積がほぼ20%に縮小して退院となり、当科へは2週間毎の通院で、主に在宅診療医師が担当することとなりました。
- 投与10週目のCTでは、レンバチニブ投与直後と比較して、腫瘍が著明に縮小していることが認められました(図5)。
当科ではこの症例のように、手術治療はもちろんのこと、抗がん剤や分子標的薬、最近では頭頸部扁平上皮(とうけいぶへんぺいじょうひ)がんに対する免疫チェックポイント阻害剤も使用した、集学的がん治療を行っています。
【参考文献】
1)日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会/編:甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010 年版.金原出版、東京、2010年
2)Schlumberger M, Tahara M, Wirth L.J,et al.:Lenvatinib versus placebo in radioiodine-refractory thyroid cancer. N Engl J Med 372 : 621-630, 2015
3)大西将美、髙木千晶、髙橋洋城、他:レンバチニブで延命効果が得られた1症例.頭頸部外科 27 (3) : 261-268、2017 年
更新:2022.03.08