慢性腎臓病を引き起こす腎疾患の診断と薬物治療

日本医科大学付属病院

腎臓内科

東京都文京区千駄木

慢性腎臓病を引き起こす腎疾患の診断と薬物治療

慢性腎臓病とは?

慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)(CKD)は、①腎臓の働き(GFR)が健康な人の60%未満に低下するか、②タンパク尿など腎臓の異常が3か月以上続く状態を意味し、GFRとタンパク尿に基づいて重症度分類されています(図1)。CKDは進行すると、透析(とうせき)が必要になったり、心血管病変のリスクになったりします。IgA腎症、多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)、糖尿病性腎臓病は、CKDを起こす代表的腎疾患です。これらの腎疾患は専門医の診断や治療が必要で、早期に治療をすることで、CKDの進行を抑えることができます。

図
図1 CKDの評価項目と重症度分類

IgA腎症の診断と治療

IgA腎症は、腎生検(じんせいけん)(※1)によって確定診断します。IgA腎症は、初期には自覚症状はほとんどありません。健診で尿検査異常を指摘され、専門医に紹介されて診断につながります。健診で血尿やタンパク尿を指摘されたら、必ず腎臓内科専門外来を受診しましょう。

IgA腎症の治療は、組織学的な評価や腎機能(GFRが30mL/分/1.73㎡以上で、タンパク尿が比較的多い)を考慮したうえで、CKDの進行抑制を目的に、副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬やレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害剤を投与します。また日本では、口蓋扁桃摘出術(こうがいへんとうてきしゅつじゅつ)とステロイドパルス併用療法も行われています。

※1 腎生検:腎臓の一部を採ってきて、病理標本にして顕微鏡で詳しく調べる検査

多発性嚢胞腎の診断と治療

常染色体優性(じょうせんしょくたいゆうせい)多発性嚢胞腎(ADPKD)は、両側の腎臓に多数の嚢胞(液体の詰まった袋)が進行性に発生・増大し、腎臓やその他の臓器にも障害を生じさせる遺伝性腎疾患です。

ADPKD診断の重要なポイントは家族歴の有無です。ただし、新たな突然変異によって生じる、家族歴がない新規発症の可能性に注意が必要です。画像検査で両側の腎臓に多発する嚢胞を認めることが、診断に役立ちます(図2)。

図
図2 多発嚢胞腎の特徴

高血圧の合併頻度が高く、RA系阻害剤を用いて適切に血圧を管理することで、腎機能低下の進行抑制が期待できます。嚢胞の増殖抑制として、cyclic(サイクリック)AMPの産生を低下させるトルバプタンの投与が推奨されています。

糖尿病性腎臓病の診断と治療

糖尿病性腎臓病(DKD)は、糖尿病が原因と考えられるCKDのことです。多くの場合、腎生検は行われず、糖尿病の期間、アルブミン尿の有無、GFRの時間の経過に伴う変化によって診断されます。

DKDは、単に血糖値を下げるだけでなく、高血圧、肥満、脂肪、喫煙などの心血管病変のリスクをまとめて管理することが大切です(図3)。アルブミン尿やタンパク尿を認める場合、血圧管理にはRA系阻害剤が推奨されています。また近年、SGLT2阻害薬(尿細管でのグルコースの吸収を阻害する薬)に、腎保護効果があることが期待され、投与が推奨されています。

図
図3 DKDの集約的管理

末期腎不全に対する腎代替療法

もしCKDが進行して、末期腎不全になってしまうと腎代替療法が必要になります。

図
図4 末期腎不全の治療分類
・腎移植:
腎臓を提供するドナーと腎臓をもらうレシピエントの間で行われる医療です。親族から腎臓を提供してもらう生体腎移植と、亡くなった方から腎臓を提供してもらう献腎移植があります。生体腎移植のうち多くは親から子への提供ですが、近年は免疫抑制療法の進歩により、ABO型(赤血球の血液型)やHLA型(白血球の血液型)が全く異なっていても腎移植ができるようになったことから、夫婦間での腎移植が増えています。
・腹膜透析(ふくまくとうせき):
自分の体の中の「腹膜」を利用して老廃物や水分を除去する、在宅透析療法です。通常、月に1、2回の通院となります。日中に3、4回の透析液を交換するCAPD法と、寝ている間に機器を使って自動的に行うAPD法があります。
・血液透析:
血液を体外に取り出し、ダイアライザーという医療機器を通して老廃物と余分な水分を取り除く治療法です。施設透析は、週3回、1回3~5時間の透析を行います。在宅透析は、自宅に透析装置を設置し、自分で治療を行うものです。
・CKM:
末期腎不全に達したCKD患者さんが腎代替療法を選択しない場合や、維持透析患者さんが透析療法の継続を中止する場合、腎臓内科的管理から緩和医療までを包括してCKM(Conservative kidney management)といいます。

当院では、腎移植以外のすべての腎代替療法を提供しており、腹膜透析挿入術やシャント作成術などの手術もすべて腎臓内科医が担当しています。

更新:2025.12.12