急性骨髄性白血病の遺伝子解析による治療

日本医科大学付属病院

血液内科

東京都文京区千駄木

急性骨髄性白血病の遺伝子解析による治療

急性骨髄性白血病とは?

急性骨髄性白血病(きゅうせいこつずいせいはっけつびょう)(AML)は「血液のがん」の1つです。私たちの血液は骨髄の造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)で作られています。AMLでは、骨髄中に白血病細胞が出現し、増殖し続けることによって、正常な血液を作ることができなくなります。このため息切れ、めまい、全身の倦怠感(けんたいかん)などの貧血症状、発熱などの感染症状、鼻出血や皮膚の出血斑など、出血傾向の症状が出ます。また、増殖した白血病細胞は肝臓(かんぞう)、脾臓(ひぞう)、リンパ節などに浸潤(しんじゅん)する(周りに広がっていく)ことがあり、時には脳に浸潤をして頭痛や意識障害などの症状が出ることもあります。

AMLの診断方法

急性白血病は、白血病細胞の性質によって大きく①AMLと、②急性リンパ性白血病に分けることができます。先述のような症状があり、血液検査をすると白血球が増加していて、その中に正常では認められない白血病細胞が出現していることで、急性白血病が疑われます。

正確に診断するには、骨髄検査が必要となります。骨髄検査で、白血病細胞がどのような性質をもっているのかを調べます。具体的には、特殊な染色(骨髄球系を示すペルオキシダーゼ染色や単球系を示すエラスターゼ染色など)を用いた顕微鏡での検査や、細胞表面に発現をしているマーカー(骨髄球系を示す抗原CD13やCD33など)、染色体異常(t(8;21)、t(15;17)など)、遺伝子異常(FLT3-ITD、NPM1変異、CEBPA変異など)を調べることで、どのような種類のAMLなのかを確定診断します。

AMLの種類

AMLには多くの種類があります。その中でも、急性前骨髄性白血病(APL)は15番染色体と17番染色体の転座(染色体の一部が互いに入れ替わること)が認められ、ほかのAMLと治療法が大きく異なります。

またAMLの中には、抗がん剤への反応性が良く、予後(今後の病状についての医学的な見通し)が良いものと、抗がん剤に抵抗性を示し、再発しやすく予後が悪いものがあります。現在では染色体異常や遺伝子異常を用いて予後を推測しています(図1)。

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図1 染色体と遺伝子変異による予後の層別化

AMLに対する治療

AMLは急性の「血液のがん」であるため、早急に診断して治療を行う必要があります。AMLの治療では、まずは白血病細胞が血液や骨髄中から見た目上いなくなる「寛解(かんかい)」と呼ばれる状態をめざします。その後、治療を継続することによって治癒をめざします。寛解をめざす治療を「寛解導入療法」といいます。通常はダウノルビシンやイダルビシンなどのアントラサイクリン系抗がん剤を3日間投与し、シタラビンを7日間投与する寛解導入療法が標準治療となっています。その後シタラビンを大量に投与する高容量シタラビン療法などの寛解後療法を行い、治癒をめざします(図2)。

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図2 AMLの治療

APLは、ほかのAMLと異なり、全トランス型レチノイン酸というビタミンAの誘導体を用いた治療を行います。APLは15番染色体と17番染色体の染色体異常(転座)が原因で発症します。私たちの造血幹細胞はビタミンAによって白血球が成長(分化)しますが、APLではこの染色体異常によってビタミンAによる分化ができないため、白血病を発症すると考えられています。

全トランス型レチノイン酸は、APL細胞に作用することができる特殊なビタミンAで、抗がん剤を用いなくてもAPLの白血病細胞を分化させ消滅させます。現在ではAPLのようにそれぞれの白血病がどのような遺伝子異常で発症しているのかの研究が行われ、全トランス型レチノイン酸のような抗がん剤ではない新たなAMLの治療薬(分子標的治療薬)が開発されつつあります。

寛解導入療法によって寛解が得られなかった場合や、寛解となっても再発、もしくは再発しやすく予後が悪い場合は、造血幹細胞移植を計画します。造血幹細胞移植は、患者さんに大きな負担のかかる治療です。約20%の患者さんが、AMLの再発がなくても移植治療の合併症で亡くなってしまいます。このため、造血幹細胞移植を受けることができる患者さんは65歳以下のことが多く、また「図1」に示すような染色体異常や遺伝子異常で予後を予測して、予後不良の患者さんに移植治療を行います。

当科の特色 血液内科

当院では、AMLの白血病細胞に対して遺伝子解析をすることによって、AMLの患者さんの予後をより正確に判断しています。この遺伝子解析によって、より正確に予後を推測することで、適切な患者さんに負担の大きい造血幹細胞移植を行うことができます。

また、FLT3変異陽性AMLに対する新たな分子標的治療薬であるFLT3阻害薬や、高齢者AMLなどに対しての新たな分子標的治療薬であるbcl2阻害薬が、どのような患者さんに効果が得られるのかを判定したり、NPM1変異陽性AMLにおいて、高感度にNPM1変異の解析を行ったりします。それにより、寛解となった患者さんに、まだどのくらいAMLの白血病細胞が残存しているのかを判定しています。これらの遺伝子解析によって、より適切な治療を患者さんに提供することが可能です。

診療実績

当院では、AMLの新規患者さんを年間約25症例、2013年からの10年間で約300症例以上診療をしています。上述のようにAMLの患者さんの遺伝子変異解析においては、当院は国内でも豊富な経験と実績がある解析施設であり、多くのAMLの患者さんからセカンドオピニオンを受けています。また新規薬剤の治験も多く行っており、常に最新の治療を患者さんに提供しています。

造血幹細胞移植に関しては、500症例以上の患者さんに移植治療を行ってきた実績があり、2024年には日本造血・免疫細胞療法学会における最上位のレベル1認定を受けています。

更新:2025.12.12

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