アルツハイマー病の新薬レカネマブ・ドナネマブとは?進行を遅らせる効果と投与の条件を解説

『統計からみた我が国の高齢者』(総務省統計局)によると、2025年9月時点で日本における65歳以上の人口は3619万人にまで増え、総人口における割合は29.4%と過去最高を記録しました。超高齢化社内が進む日本では、認知症の患者さんも増え続けていて、2025年時点で65歳以上の高齢者のうち約5人に1人となるおよそ700万人が認知症にかかっていると推定されています。

今なお完治する治療法が確立されていない認知症ですが、明るい兆しもあります。それが近年国内で承認・発売された新薬「レカネマブ(商品名:レケンビ)」と「ドナネマブ(商品名:ケサンラ)」です。一体どのような効果があるのか、解説します。

認知症の6割以上はアルツハイマー病が原因

認知症の原因となる病気は、大きく分けて4つ

まず認知症ですが、これは病名ではありません。さまざまな原因で認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障を来たすようになった状態のことを指します。

認知症の原因となる病気は大きく分けて4つあり、1つ目がアルツハイマー病です。アルツハイマー病は認知症全体の6割以上を占めていると言われており、残る3つが血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症です。

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アルツハイマー病の原因と考えられているのは、アミロイドβとタウと呼ばれるタンパク質

アルツハイマー病の原因はまだ完全に解明されていませんが、現状では脳内でアミロイドβとタウと呼ばれるタンパク質が脳の神経細胞の働きを妨げることで起こると考えられています。

アミロイドβは健常な人の脳にも存在するタンパク質の断片ですが、健常な人では脳内のごみとして分解され、体外に排出されます。しかし、アミロイドβが異常に蓄積されていくと、排出されずに脳内にたまっていきます。たまったアミロイドβは老人斑と呼ばれる脳内のシミになり、脳の神経細胞を損傷します。

図:健常な人の脳とアルツハイマー病による認知症の人の脳の比較

さらに、老人斑が引き金となり、脳の神経細胞内でタウと呼ばれるタンパク質が異常にリン酸化されて、「神経原生変化」が起こります。このような神経細胞は正常な働きができず最終的には死滅して脳が委縮し、それによって記憶障害などが発症します。これがアルツハイマー病です。

軽度認知障害(MCI)とは?新薬がアルツハイマー病の進行を遅らせる仕組み

認知症になる一歩手前の段階が軽度認知障害(MCI)

先に述べたように、認知症はまだ完治する治療法が確立されていません。しかし、認知症の一歩手前の段階である軽度認知障害(MCI)と呼ばれる状態の場合では、進行を遅らせることが可能です。

そのために効果的な薬が、2023年9月に国内で承認され、同年12月に発売された「レカネマブ(商品名:レケンビ)」と、2024年9月に国内で承認され、同年11月に発売された「ドナネマブ(商品名:ケサンラ)」です。

新薬は、アミロイドβを取り除く働きがある

新薬には、アルツハイマー病の原因として考えられているアミロイドβという物質を除去する働きがあります。

ただし、注意したい点があります。「レカネマブ(商品名:レケンビ)」も「ドナネマブ(商品名:ケサンラ)」も、アミロイドβを取り除くことで症状の進行を遅らせる効果は期待できますが、症状を改善したり、あるいは症状の進行を完全にストップさせたりする薬ではないという点です。

図:健常な状態⇔軽度認知障害(MCI)→軽度認知症→中等度認知症→重度認知症

軽度認知障害(MCI)の症状

ところで、軽度認知障害(MCI)とは、どのような症状のことを指すのでしょうか?

軽度認知障害(MCI)はアルツハイマー病だけではなく血管性認知症やレビー小体型認知症などでも起こるため、患者さんごとに現れる症状が異なります。ただ、大まかに言うと、以下のような症状が見られることが多いです。アルツハイマー病を原因とする軽度認知障害(MCI)は、特に物忘れが目立つ場合が多いです。

軽度認知障害(MCI)は、認知機能がさらに低下して認知症になる恐れがある状態ですが、原因によっては現状が保たれたり、健常な状態に回復したりすることもあります。これまでの研究では、軽度認知障害(MCI)の患者さんの5~15%が1年後には認知症に移行するという結果もある一方で、16~41%の患者さんが健常な状態に戻ったとする結果もあります。

軽度認知障害(MCI)と認知症の違いと、軽度認知症の症状

軽度認知障害(MCI)でも認知症でも、買い物や家事、お金の管理といった複雑な動作については、支障があります。しかし、食事や入浴、トイレや着替えといった生活における最低限の動作については、認知症の患者さんは支障があるのに対し、軽度認知障害(MCI)の患者さんは今まで通り行うことができます。

なお、認知症になったばかりの軽度認知症と呼ばれる状態では、「新しい出来事を覚えられない」「繰り返し同じことについて質問する」「日付が分からなくなる」といった症状が起こります。「レカネマブ(商品名:レケンビ)」と「ドナネマブ(商品名:ケサンラ)」は、この軽度認知症の症状が中等度・重度に移行していくことを遅らせる効果も期待できます。

軽度認知障害(MCI)と軽度認知症の症状の違い
軽度認知障害(MCI) 軽度認知症
  • 体験したことの一部分を忘れる
  • 物忘れの自覚はあるが、ヒントを与えられると思い出せる
  • なくしたものを自分で探すことができる
  • 新しいことを覚えることができず、興味や関心も薄れていく
  • 同じことを繰り返し聞く
  • 日付が分からなくなる

軽度認知障害(MCI)はなかなか早期に気づきにくい症状なのですが、「物忘れが増えた」「少し前のことでも忘れやすくなった」といった兆候を自覚すること、あるいは家族や周囲の人が見つけることが大切です。

気になる兆候がある場合は、早急にかかりつけ医やもの忘れ外来、脳神経内科などを受診して、専門医へ相談することが大切です。

「レカネマブ(商品名:レケンビ)」はどんな効果が期待できる?

「レカネマブ(商品名:レケンビ)」は点滴によって投与します。原則18か月の間、2週に1回通院して投与を受けることになります。1回の点滴に、1時間15分程度の時間を必要とします。

これまでの研究では、18か月間投与した場合、認知機能の低下を27%抑制できたという結果が得られています。つまり、18か月間の投与で認知機能低下を5.3か月遅らせることができたということになります。

「ドナネマブ(商品名:ケサンラ)」はどんな効果が期待できる?

「ドナネマブ(商品名:ケサンラ)」も点滴によって投与します。投与開始から12か月目にPET(ペット)検査を行い、アミロイドβが除去されていれば投与完了となります。もし除去できていない場合は、最長18か月まで投与が延長されます。治療期間中は4週に1回通院して投与を受けることになり、1回の点滴に、45分程度の時間を必要とします。

これまでの研究では、18か月間投与した場合、認知機能の低下を29%抑制できたという結果があります。18か月間の投与で認知機能低下を5.4か月遅らせたということになります。

レカネマブ・ドナネマブの効果が期待できるのは「アルツハイマー型認知症」

「レカネマブ(商品名:レケンビ)」も「ドナネマブ(商品名:ケサンラ)」も、投与の対象となるのはアルツハイマー病を原因とする軽度認知障害(MCI)・軽度認知症の患者さんです。

ただし、投与を受けるには、MRI検査を受けることや心理検査で適応基準を満たすことなどの条件があります。条件を満たしても、投与前には治療の対象になるかどうかを調べるために心理検査や認知症の重症度の判定、脳MRI検査などを受ける必要があります。

更新:2026.01.26