腎がん診療の実際
泌尿器科

腎がんとは?
腎(じん)がんは、腎臓にできる悪性腫瘍(あくせいしゅよう)の1つで、50~80歳代の男性に比較的多いといわれています。腎臓は、背中側の左右に2個ある臓器で、背中の真ん中の高さにあります。腎臓には血液が運ばれ、血液から体に不必要な成分を取り除いて尿が作られたり、体の水分や電解質のバランスの維持をしたり、血圧の調整をしています。
腎がんは、大きくならないと血尿や痛み、お腹(なか)のしこりとして触れることができないため、検診や、ほかの検査の際に見つかることが多いです。治療は、手術または薬物による全身治療などがあり、患者さんの希望や状態を考慮しながら決めていきます。
腎がんの特徴
腎臓の役割には、①体内の老廃物の排泄(はいせつ)、②体液量の維持(水の排泄)、③体液組成の調節(電解質バランスの維持)、④内分泌作用(血圧や貧血の調節)などがあります(図1)。

毎年人口10万人あたり男性では10.5人、女性では5人が腎がんと診断され、男性に多く発症します。好発(※1)年齢は50~80歳で、高齢になるほど頻度が高まります。
腎がんになりやすい因子としては、肥満、高血圧、乳製品の過剰摂取、肉食、喫煙などが関与しているとされています。また、遺伝的要素によって発症する人もいます。
※1 好発:高い頻度で発生すること
診断から治療まで
1.症状
腫瘍が小さいときは無症状のことが多いですが、腫瘍が多くなるにつれて、①血尿、②痛み(腹部、脇腹、背中)、③腹部腫瘤(ふくぶしゅりゅう)(しこりが触れる)などの症状が出ることがあります。
腎がんになりやすい因子としては、肥満や高血圧、乳製品の過剰摂取、肉食、喫煙などが関与しているとされています。また、遺伝的要素によって発症する人もいます。
2.検査
- ・超音波(エコー)検査:
- 超音波を体の表面に当てて、がんのある場所や、形・大きさなどを調べます。体に負担をかけずに行えます。健診やほかの病気の診断で使用した際に、偶発的に腎がんを見つけることがあります。
- ・CT:
- 腎臓の詳細な画像を撮影し、がんの存在や進行度を確認します。造影剤を使うことで、より詳細な情報が得られます。
- ・MRI:
- 強力な磁石と電波を利用した検査です。腎機能が悪く、造影剤を使用したCTを撮影できない場合に行い、腫瘍の位置や進行度を確認します。
3.治療
- ・手術:
- 腫瘍の大きさ、位置、数により術式を決めます。7cm以下の場合は、がんのみを取り除く腎部分切除術ができないか検討し、適応がなければ、腎臓ごと取り除く根治的(※2)腎摘除術を選択します。
- ・薬物治療:
- 腫瘍を完全に取り除くことができなかったり、転移・再発を認めたりしたとき、薬物を用いて全身治療を行います。①免疫チェックポイント阻害薬と、②分子標的治療薬があり、患者さんの状態に合わせて、これら薬物を組み合わせて治療します。
※2 根治的:病気を完全に治すことめざす
当科の腎がんの診療について
腎がんがどのステージ(進行の程度)に当てはまるかは、①原発巣(※3)の状態、②所属リンパ節(※4)の転移があるか、③ほかの臓器に転移があるか、により決まります(図2)。全身の画像検索をして評価します。

1.手術
転移を認めない腎がんに対しては、手術支援ロボット(ダビンチ、hinotori™)を用いて、ロボット支援下腎部分切除術、または根治的腎摘除術を行います。
転移がある場合でも、手術は腎部分切除術もしくは根治的腎摘除術となり(図3)、アプローチはロボット支援下もしくは開腹術のどちらかになります。そのため、術式としてはこれらを組み合わせた4種類があります。

現在は手術支援ロボットが普及しており、10cm以上の大きい腎がんは開腹術になることがありますが、それ以外はほぼロボット支援下にて手術を行います。
- ●腎部分切除術
- メリットは、腫瘍を含む腎臓の一部のみを切除するため、残りの正常な腎組織は温存され、腎機能の低下率が低く抑えられることです。デメリットとして、腫瘍に切り込んでしまうリスクがあります。また、腫瘍を取り除いた部位からの出血や尿ろう(腎臓の周りに尿が漏れる)などが起こる可能性があります。
- ●根治的腎摘除術
- メリットは、がんを取り残すリスクが低いことです。また、出血や尿ろうなどの合併症が少ないです。デメリットとして、正常な腎組織も一緒に取るため、術後の腎機能の低下率が大きいです。
- ●合併症
- ①出血、②尿ろう、③腎機能障害(腎梗塞(じんこうそく)など)、④周囲臓器損傷などが挙げられます。
尿ろうは腎部分切除術の際に、尿の通り道が開いたとき、きちんとくっついていないと尿がお腹に漏れてしまいます。
ロボット支援下手術の場合、合併症を考慮して安全に手術を勧められないと判断した際には、開腹術へ切り替える体制をいつでも取っています。
2.薬物療法
転移が認められる、もしくは根治的腎摘除術ができないステージ3および4の腎がんは、薬物療法を中心に治療を行います。針生検(はりせいけん)にて腎がんの組織を一部採取して診断したあと、主に、①免疫チェックポイント阻害薬と、②分子標的治療薬を使い、患者さんの状態により組み合わせて治療します。
※3 原発巣:最初にがんが発生した病変
※4 所属リンパ節:がんが転移しやすいリンパ節の場所
当科の特色 泌尿器科
当科の特徴としては、腎臓の機能温存のために、積極的に、腎臓の一部のみを取り除く部分切除術を症例ごとに検討しています。
また、多くの治験に参加しており、転移を認める症例に対しても集学的な治療に取り組んでいます。
更新:2025.12.12
