HIV感染症
基礎情報
概要
人の体は、免疫によってさまざまな病原体から守られています。なかでもCD4陽性リンパ球は、血液中に流れている白血球の一種で、感染症から体を守る働き(免疫)の中心的役割をしている細胞です。このCD4陽性リンパ球に感染するウイルスがHIV(Human Immunodeficiency Virus)で、ヒト免疫不全ウイルスと呼ばれています。
HIVは、感染するとCD4陽性リンパ球を破壊し、免疫機能が働かないようにします。通常であれば免疫が働いて感染しないはずの病原体に感染しやすくなると、AIDS(エイズ=Acquired Immuno-Deficiency Syndrome 後天性免疫不全症候群[こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん])を発症します。AIDSを発症すると、全身の免疫が働かなくなり、次々に感染症や悪性腫瘍をおこします。
HIVはエイズの原因となるウイルスの名前で、エイズはHIVによって引き起こされる病気の総称です。
日本人では、1985年に初めてHIV感染者が確認されました。当初は治療法もなく、感染すると死に至る病気でしたが、現在では治療法が進化して、HIVに感染しても早期から適正な治療を開始すれば、すぐにAIDSを発症することはありません。しかし、一度感染したら、ウイルスを除去することはできず、治療の中断などによってウイルスが増殖するとAIDSを発症します。
原因
HIVは、性行為感染、血液感染、母子感染という、主に3つの経路で感染します。感染力は弱く、体外に出ると不活性化するウイルスで、感染している人の血液、精液、膣(ちつ)分泌液、母乳などに多く含まれ、粘膜や傷などを介して感染します。唾液や涙、尿などの体液だけでは感染せず、傷のない皮膚からの感染もありません。
性行為感染
もっとも多い感染経路です。性交は、粘膜を刺激するため感染の可能性がありますが、膣粘膜や口腔(こうくう)内の粘膜より腸管内の粘膜のほうが弱いため、男性同士の性交の方が感染しやすいといわれています。性交によって必ず感染するわけではありませんが、一度の性交で感染したケースも確認されていますから、ほかの性感染症を予防するためにも、コンドームの使用は必須です。
血液感染
HIVに感染した人の血液が、注射などによって血液中に直接入ることで感染します。例えば、医療現場での事故や、麻薬を同じ注射針で回し打ちすることなどです。極めてまれですが、感染事故が起きてしまったら、2時間以内に抗HIV薬を内服すれば、感染の危険性を下げることができます。なお、現在、輸血で感染する可能性はほぼありません。
母子感染
感染している母親の胎盤、産道、母乳を介して子どもに感染します。妊娠初期に行われる妊婦健診でHIV検査を受けることができますから、医師の指導のもと、早期から治療を開始して感染予防対策を行います。妊娠中から抗HIV薬を服用する、帝王切開による出産、母乳の授乳を避けるなどの対策で、母子感染の確率は0.5%以下といわれています。
症状
HIVに感染すると、感染初期(急性期)、無症候期、エイズ発症期と進行します。
感染初期(急性期)
感染して2週間から1カ月経過すると、体内でHIVが急激に増殖してCD4陽性リンパ球が減るために、インフルエンザのような発熱、筋肉痛、喉(のど)の痛み、だるさ、下痢といった症状が起こります。免疫機能の働きでCD4陽性リンパ球が再度増加して、いずれの症状も数日から数週間で治まります。
無症候期
感染初期の症状が治まると、全く症状がない期間が続きます。この期間には個人差があり、短期間でAIDSを発症する人もいれば、15年経っても発症しない人もいます。しかし、症状がなくても体内ではHIVが毎日100億個のペースで増殖して、免疫に必要な細胞は徐々に破壊されていき、寝汗、下痢、体重減少、帯状疱疹(たいじょうほうしん)、口腔カンジダ症などにかかりやすくなります。
AIDS発症期
厚生労働省から指定された23の日和見(ひよりみ)感染症にかかると、AIDSと診断されます。日和見感染症は、健康な人では問題ありませんが、免疫機能が働かない人にとっては死に至る危険のある病気です。また、悪性腫瘍、神経障害など、さまざまな病気を発症します。
検査
HIV抗体スクリーニング検査と呼ばれる血液検査を行います。HIV抗体ができるまでに4〜8週間かかるため、感染の可能性のある日から3カ月経過してからの検査が推奨されています。3カ月以内でも検査は受けられますが、最終確認のために3カ月後にもう一度行います。
通常検査は結果が出るまで1〜2週間程度かかります。即日(迅速)検査は陰性の場合のみ結果が出るもので、陰性の結果が出ない場合は通常検査と同様に1〜2週間かかります。全国の保健所では無料で行われており、医療機関で行われている検査は有料です。
治療
すべてのHIV感染者が抗HIV薬による治療をするよう推奨されており、正しい服薬によって、長期間にわたって日常生活を過ごせるようになりました。
複数の抗HIV薬を服用すると、血中のウイルス量を抑えて、CD4陽性リンパ球を増やす効果があります。現在では、1日1回1錠で、3〜4種類の成分が入っている薬が登場しています。飲み忘れが続くと、薬が効かなくなるため、服薬は必ず継続する必要があります。
また、早期に治療を開始すれば高い効果を発揮しますが、AIDSを発症してからではそれほどの効果は得られません。
更新:2022.08.22