基礎情報

概要

うつ病は、心と体に不調をきたす気分障害の一種で、「心の風邪(かぜ)」ともいわれています。心の症状としては、気分が落ち込み物事を楽しめない、意欲や自己肯定感が低下する、死について考えてしまうなどがあります。体の症状としては、眠れない、あるいは起きられない、食欲がない、疲れやすいなどがあります。いずれも生活の中で多くの人に起こりえるものですが、程度が重く時間が経っても改善せず、日常生活に支障をきたすような場合はうつ病とされます。また、うつ病に似ていますが、区別すべき病気として双極性障害(そうきょくせいしょうがい)があります。うつ状態と気分が高揚する躁(そう)状態が繰り返し現れる病気で、うつ病とは治療法が異なります。

グラフ
グラフ:気分障害の患者数の推移(厚生労働省 患者調査から引用)

厚生労働省が定期的に行っている患者調査でも同様の分類となっており、上のグラフで示したように、2017(平成29)年の躁うつ病を含む気分障害の患者数は127万6000人で、1996(平成8)年の43万3000人と比べると、およそ2.9倍に増加していることがわかります。

うつ病は、その性質上、医療機関を受診していない人が多くいることが予想できるため、実際にはもっと多数の患者さんがいると推測されます。

原因

なぜうつ病になるのか明確な原因はわかっていませんが、気分のコントロールにかかわる神経伝達物質であるセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの働きが悪くなることが主な要因と見られています。発症のきっかけは、死別、離別、解雇などの人間関係や環境の変化によるストレスが大きく関係しているといわれます。また産後うつ、更年期うつという言葉があるように、女性のホルモンバランスの乱れや、進学、就職、結婚など一般的には吉事とされるライフイベントがきっかけになることもあります。

また、うつ病は体の病気と密接に関係しています。がん、心筋梗塞(しんきんこうそく)などの冠動脈疾患、脳梗塞、関節リウマチ糖尿病は、うつ病の人がかかる割合が高いことがわかってきています。逆に、甲状腺機能低下症、パーキンソン病認知症などの疾患は、うつ状態を引き起こす原因になります。

うつ病の患者さんが心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病にかかりやすいのは、倦怠感、やる気が起きないなどの抑うつ気分がきっかけとなり、食生活が乱れる、横になる時間が増える、運動不足になるなど、生活の質が低下するという理由が考えられています。

中でも糖尿病は、うつ病によって血糖コントロールが不良になるケースが多く、うつ病の治療によって改善する傾向にあり、双方向性の関係が認められています。反対に、糖尿病の患者さんがうつ病を発症して自己コントロールができなくなると、食事制限や運動習慣といった療養生活から遠ざかってしまうため、いっそう重症化して合併症を起こすなどのリスクも高くなるため、注意が必要です。うつ病は、ほかの病気や治療薬の影響で発症する可能性があることもわかっています。うつ病を併発しやすい病気は、心筋梗塞脳卒中糖尿病脂質異常症、がん、アルツハイマー病などです。

症状

うつ病になると、主に次のような症状が現れます。

心の症状

  • 抑うつ気分…気持ちが落ち込む。すっきりしない。
  • 意欲の低下…やる気が起こらない。以前は好きだった趣味などが楽しめない。
  • 焦燥感…焦りやイライラする気持ちが強い。
  • 集中力・決断力の欠如…仕事や学習に集中できない、物事を決められない。
  • 自己肯定感の低下…自分は何もできない、役に立たないなどと思い悩む。
  • 希死念慮(きしねんりょ)…死んでしまいたいという思いにとらわれる。

体の症状

  • 睡眠障害…眠れない、寝ても短時間で目覚めてしまう、起きられないなど。
  • 食にかかわる不調…食欲不振、過食、味覚の変化、吐き気など。
  • 身体の不調…だるい、疲れやすい、頭痛、肩こり、動悸(どうき)、手足のしびれなど。

検査・診断

最初に自覚しやすいのは、睡眠障害です。夜中や早朝に目が覚める、ぐっすり眠れないといった睡眠に関係する症状に注意が必要です。加えて、気分が落ち込む、やる気がなくなる、といった症状が2週間以上続くようであれば、うつ病の可能性があります。また、患者さんの家族など、周囲の人からの情報も参考になります。周囲の人が感じられる変化は、表情が暗い、自分をよく責めている、涙もろい、反応が遅い、落ち着きがない、などです。

さらに、全身状態やほかの病気ではないかを確認するために、血液検査、頭部CT検査、頭部MRI検査、心電図検査などを行うこともあります。

治療

うつ病の治療でまず大切なのは、十分な休養をとることです。身体的、精神的ストレスがかからないように仕事や学校を休ませる、仕事の量や時間を軽減させるなど、周囲の理解や協力も必要です。休養と併せて薬物療法や精神療法を行っていきます。

薬物療法では抗うつ剤を服用します。抗うつ剤の効き目はすぐには現れませんが、だからといって自己判断で薬を増量、減量、中止するのは危険です。医師が指示する量と服用期間を守ることが重要です。精神療法では、傾聴や共感を基本とする支持的精神療法に加え、認知療法や対人関係療法を行います。認知療法とは、自分の物事の捉え方の癖を知って、その偏りを修正することで、ネガティブな感情にとらわれることなく問題解決ができるように導く治療法です。対人関係療法では、うつ病の要因となった対人関係のストレスを明らかにし、問題への対処法を見つけます。

このほか、薬物療法や精神療法と併用して運動療法や、光を一定時間浴びることで体内時計のリズムを整える高照度光療法などを行うこともあります。

更新:2024.10.25