変形性股関節症
基礎情報
概要
股関節は、太ももの付け根にある関節のことで、大腿骨(だいたいこつ)の一番上の、丸い形をした骨頭(こっとう)が、骨盤の臼蓋(きゅうがい)という受け皿のようになる部分にはまって、前後左右・回す、と自由に動かせる仕組みになっています。関節は、クッションのような役割を果たす軟骨で覆われていますが、この軟骨がすり減って、次第に股関節が変形していく病気が、変形性股関節症です。股関節に痛みを感じる病気は、ほかに、骨頭の部分が壊死(えし)してしまう大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)があります。お尻から足にかけて痛みやしびれを感じる座骨神経痛という症状もありますから、しっかり鑑別診断を行うことが重要です。
原因
通常、股関節は軟骨によって衝撃が吸収される仕組みになっているため、動作によって痛みを感じることはありませんが、軟骨がすり減って骨が変形していくと、炎症を起こし、痛みを感じるようになります。変形性股関節症は、中年期以降の女性に多く、加齢によって軟骨がすり減ることが原因の一つですが、臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)という病気が、大きな発症リスクになっています。臼蓋形成不全とは、骨盤の臼蓋といわれる部分が不完全な形をしているために、大腿骨骨頭がうまくはまらない状態のことで、胎児のときの姿勢や、生まれた後のおむつの当て方、遺伝などが関係していると考えられています。乳児期の定期健診で股関節の変形はチェックされますが、成人後に、変形性股関節症を発症して初めて気づくケースがあります。
症状
立ち上がったとき、歩き始めたとき、起き上がるときなど、動作し始めた際に、太ももの付け根に痛みを感じます。骨の変形が進行するにつれて、痛みは強くなり、動かすと常に痛みを感じます。さらに変形が進むと、安静にしているとき、寝ているときにも痛みを感じるようになります。長時間歩くことや立っていることがつらくなり、股関節を動かせる範囲も狭くなっていくため、日常生活に支障をきたします。やがて筋力が落ち、お尻や太ももが細くなり、左右の足の長さが違ってくることがあります。
検査・診断
問診と視触診によって股関節を無理なく動かせる範囲を調べ、X線検査による画像診断を行います。初期には小さな病変のみですが、股関節の変形が始まると進行を止めることはできません。進行を少しでも遅らせるには、専門医による診断を受け、早い段階から治療を始めることが大切です。画像診断によって関節の隙間が狭くなっているかどうかや、軟骨のすり減り具合などを確認しますが、専門医であれば、臼蓋の角度を見ることによって、5年後、10年後の変形が予測できます。進行すると、関節内に骨棘(こつきょく)という骨のトゲや、骨の空洞が出現することがあり、最終的には軟骨がなくなります。必要に応じて、CT検査やMRI検査で、関節の変形の様子を詳しく調べます。
治療
早期の場合、保存的治療法が選択されます。鎮痛剤の服用や注射などによる薬物療法や、筋力トレーニング、水中ウオーキング、姿勢改善、適正な体重の維持などの運動療法、温熱療法があります。ただし、筋力トレーニングをやり過ぎたり、十分なストレッチをしないで行うと逆効果になることもあるため、自己流は避け、医師による指導のもと、正しい方法で行うことが大切です。歩行を補助するために杖を使用するのも、股関節への負担を少しでも軽くするためには有効な方法でしょう。
こうした方法でも効果が見られない場合、患者さんの年齢や生活環境を考慮して、手術が検討されます。
骨切(こつき)り術
股関節周りの骨を切ることで、骨盤と大腿骨のつながる角度を調整して、軟骨がすり減るのを抑え、痛みが出ないようにする手術です。関節がそれほど損傷していない場合に選択できます。自分の関節を残せるというメリットがありますが、手術後、体重をかけて動けるようになるまでに数カ月かかるという場合もあります。
人工股関節置換(ちかん)術
変形してしまった股関節を取り除き、人工関節に置き換える手術です。人工関節は金属やセラミック、ポリエチレンなどでできていて、昔に比べて飛躍的に進化しています。骨切り術とは違って回復も早く、手術の後は数日で歩行トレーニングを開始できますが、日常生活を送る際に、股関節に過度な負担や衝撃が加わらないように注意しなくてはいけません。患者さんの体重や生活環境などによって回復には個人差があります。さらに、人工関節の耐用年数によっては、再手術が必要になるケースがあります。
更新:2022.05.16