ロボット支援下肝胆膵外科手術
藤田医科大学病院
総合消化器外科
愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪
当科における肝胆膵手術の特徴
当グループでは開設以来、肝胆膵悪性疾患(かんたんすいあくせいしっかん)に対する2500例を超える切除手術および末期肝不全に対する75例の生体肝移植を実施してきました。その経験の中から、安全性が高く、応用範囲の広い手術法を確立し、患者さんに提供できるようになりました。
さらに通常、切除不能と考えられている疾患に対しても、手術法や手術前後の患者管理の工夫、化学療法や放射線治療との組み合わせなど多角的な治療法を駆使して、治療可能症例を増やし、治療成績を向上させてきました。その背景のもと、2005年より患者さんの身体的負担を低減する腹腔鏡(ふくくうきょう)あるいはロボット支援手術(低侵襲(ていしんしゅう)手術)を導入し、手術術式の開発・改良、患者管理の工夫による普及を進めて、国内のみならず世界的にも有数の施設となっています。最近の5年間では全手術の約半数が低侵襲手術で、患者さんには疾患に対する治療効果を損なわずに、身体的負担がより少ない肝胆膵手術を提供しています。
ロボット支援肝胆膵手術
ロボット支援手術は、2018年から消化器領域では食道がん・胃がん・直腸がんに対して保険診療となりましたが、肝胆膵ロボット支援手術は保険未収載であるため、現在は自費診療で行っています。しかし当院では、その制約の中で2009年から120例を超える症例を経験し、通常の腹腔鏡手術では難しい術式にも対応できることが分かりました。
特にロボット肝切除は約100例と世界的にも有数の症例数です。ロボット支援手術は、患者さんの体にポートという筒状のアダプターを数個挿入し、これにロボットのアームを合体させ、さまざまな種類の操作鉗かんし子や内視鏡を装着・交換して行います。術者はロボット本体と数メートル離れた場所にあるコンソールという操縦席で3D内視鏡画像を見ながら、コンピュータ制御により術者操作とロボット鉗子操作に時間差のない状態で、術者の思い通りにロボットを操縦します(写真1)。
ロボットの最大の利点は、体の中で自由に曲がる多関節鉗子の操作、操作の手ブレが全くないこと、ブレのない高倍率3D内視鏡画像による安定した視野です。身体表面の創部(そうぶ)を最小限にしながら、お腹なかの中では開腹手術さらには顕微鏡手術のクオリティーを実現できる方法といえます。通常の腹腔鏡手術では実現不可能で、特に繊細な操作を要する肝胆膵手術では有用です。
肝切除では肝臓機能に見合った肝切除量を決めることが最も重要なため、患者さんの肝臓機能と腫瘍(しゅよう)の状態に応じてさまざまな術式が決定されます。特に肝臓機能に余裕がない患者さんでは肝切除量の制約の中で最大限の治療効果を得るため、複雑な血管処理や出血量を抑える繊細な肝切除が必要です(写真2)。ロボット支援手術はその機能的利点を生かすことで、このような言わば二律背反的な状況に対応できます。
また別の観点では、ロボット支援手術は癒着剥離(ゆちゃくはくり)操作に有用で、過去に腹部手術の既往があり強い癒着が想定される例は良い適応です。肝細胞がんという肝臓原発の悪性腫瘍の中で最も多い腫瘍は、一度切除しても残った肝臓内への再発率が高く、再発巣に対する的確な治療が重要です。再肝切除は再発治療の選択肢ですが、2度3度手術することは患者さんにとって負担です。その場合に低侵襲肝切除は体への負担が少なく福音となり得ます。特にロボット支援手術は癒着剥離操作に強いですから、前回がたとえ開腹手術であってもほとんどの場合対応可能です。
当院ではロボット肝切除例の約30%が再肝切除で、患者さんの満足度も高いです。また肝細胞がんに対するロボット肝切除の長期成績も安定しており、5年生存率は80%を超えて良好です。
一方、膵臓手術においては、ロボットの機能的利点は特に膵臓や胆管と腸管との吻合(ふんごう)操作において威力を発揮します。細い膵管や胆管と腸管との吻合は、開腹手術でも難しいことが多く、また通常の腹腔鏡手術では直線的な操作鉗子には運動範囲の制限があり、一般には難しいです。しかし、ロボットではこの動作制限がほとんどないため、細かい吻合操作が可能で、良好な手術成績につながっています。膵頭十二指腸切除術という膵腫瘍に対する高難度術式では、術後膵液漏という合併症が時に致命的となります。その発生率は通常10~30%程度といわれていますが、当院では膵と腸の吻合法の工夫により直近3年では0%です。
このように当院では、標準的な難度の切除のみならず、難度の高い手術が必要あるいは手術既往のある患者さんに対して、ロボット支援肝・膵手術の選択肢を提示しています。
腹腔鏡下肝胆膵手術
保険適用となっている腹腔鏡下肝胆膵手術についても、以前より積極的に取り組んでおり、症例数は肝臓が約400例、膵臓が約100例と国内有数です。手術技術と患者管理の工夫により、安全性と治療効果を両立する質の高い手術を提供しています。特に肝細胞がんに対する高難度肝切除症例でも術後合併症発生率は低率で、術後5年生存率も80%程度と手術成績は良好です。また高難度の膵頭十二指腸切除後の膵液漏発生率はきわめて低率です。
このようにロボットおよび腹腔鏡下肝胆膵手術により、治療効果を最大限に保ちながら体への負担が少ない外科治療を最優先に考えて診療にあたっています。
更新:2024.10.09