原因不明の発熱に潜む病気

総合診療科

原因不明の発熱に潜む病気

各種発熱疾患

原因不明の発熱

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)を機に発熱患者への対応が急増しました。発熱患者は感染症をはじめとして、緊急を要する病態から自然に改善する病態まで幅広く存在します。今回は早急な対応が治療につながった症例を挙げて説明します。

症例① 発熱と咽頭痛で紹介された患者さん

症例は30歳代男性。主な症状は40℃の発熱と咽頭痛(いんとうつう)(喉(のど)の痛み)。ニューキノロン系抗生物質(殺菌作用のあるもの)で改善せず紹介となりました。炎症反応が高く(白血球は16,800/μL(※1)、CRP(※2)は32mg/dL)、首のCTを撮影した直後に血圧90/59mmHgに低下しショック状態となり、呼吸困難となったため、人工呼吸器による管理を行いました。

※1 白血球:正常は3,100~8,400/μL
※2 CRP:体内で炎症が起こると血中に現れるタンパク質。1.0mg/dLを超えると、明らかな急性期反応が起こっていると考えられます

原因として、右内頸静脈の内部に血栓(けっせん)(血液の塊(かたまり))を伴う膿瘍(のうよう)(膿(うみ))があり、採取したところ酸素がなくても発育する菌(嫌気性菌(けんきせいきん))を検出し、感染性血栓性頸静脈炎(けいじょうみゃくえん)(Lemierre〈レミエール〉症候群、図1)と診断しました。複数の抗生物質を8週間以上の長期間内服してもらうことで、ようやく治療が完了しました。

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図1 右感染性血栓性頸静脈炎
左側は頸静脈が造影されています。右側には血管が描出されない膿瘍塞栓があります

一般的な風邪と同様の症状をきたす病気ですが、外来で突然ショック状態になり、早急な対応で救命できた一例です。

症例② 発熱、浮腫、縦隔腫瘍で紹介された肺がん症例

症例は70歳代男性。約2か月前から全身浮腫(ふしゅ)(むくみ)と体重増加(+7kg)と、2週間続く38℃台の発熱で紹介元医院を受診しました。診察で測った血圧が180mmHgと高く、採血した際の炎症反応(白血球12,000/μL)も高値でした。また、血清カリウム値の低下(2.2mmol/dL)、LD上昇(695U/dL)、血糖高値(HbA1c9.6%)、さらに胸部CTで縦隔(じゅうかく)(胸の中央にある肺と骨に囲まれた領域)に腫瘍(しゅよう)を認めたため紹介となりました。

約3か月前の健康診断では、血圧や血糖値は正常であったことを確認。最近生じた高血圧、糖尿病状態、体重増加の病歴と縦隔腫瘍から、副腎皮質ホルモン(ACTH)を分泌する腫瘍を疑って検査をしたところ、ACTH216pg/mL、コルチゾール106.4mg/mLと高値を確認しました。

原因として、肺小細胞がんから生じるACTHホルモン分泌症候群と診断し、それぞれの専門である内分泌代謝内科および呼吸器内科に診療を依頼したところ、気管支鏡検査で肺小細胞がんが見つかり、速やかに診断、治療に結びつきました。

症例③ 糖尿病性足病変による骨髄炎のある発熱患者さん

糖尿病を加療中の60歳代男性。あんかによる低温やけどが4か月改善せず、38℃の発熱と足の痛みが生じたため受診しました。幼少時に事故で切断した足の指付近に傷(潰瘍(かいよう))ができ、CT検査にて骨の炎症(骨髄炎(こつずいえん))が疑われました。当院では、炎症の部位を敏感に検出できるガリウムシンチグラフィーと、骨の検出が得意なCT画像を同時撮影可能であり、骨の炎症の度合いを画像から数値で算出しました。すると、切断を要する値より低かったため、手術を行わずに骨内部の殺菌が可能な特殊治療である高気圧酸素治療と抗生物質投与を行い、速やかに改善しました(図2)。

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図2 下肢骨髄炎
CTで見られる骨(矢印部分)に一致したガリウムシンチグラフィーの炎症部(赤色)が見られます

一般的に骨髄炎は足の切断になることが多いのですが、この方は足の切断を免れ、歩いて退院ができました。

インフルエンザなどの発熱疾患は通常自宅で休むと改善しますが、一刻を争う重篤な感染性の病態や悪性腫瘍、骨の炎症などでは、診断を急ぎ治療を行わなければならない場合もあります。

紹介した内容以外にも、近年急増している全身に急激に広がる細菌感染症(劇症型溶血性レンサ球菌感染症、図3)により、足の切断や死亡に至る症例が増えています。通常と異なる頸部や臓器の腫(は)れ、糖尿病の既往歴がある方の足の潰瘍などには特に注意して、早期に病院を受診してほしいと思います。

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図3 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者数
(国立感染症研究所の資料をもとに作図。2022年以降は速報値、2024年は6月23日時点)

当科の特色 総合診療科

救急・総合診療センターは内科系の総合診療科と外科系の救急診療科で構成されています。交通事故などによる外傷のみならず、腹痛・発熱・めまいなどに代表される1次・2次救急疾患の診療を24時間体制で担当しています。さらに、診断の難しい場合や紹介診療科に悩む場合などの紹介患者さんを診療しています。

総合診療科の医師たちは、必要な診療科と連携して適切な医療を提供します。困ったときに頼りになる診療部門をめざして対応していますので、緊急対応や健康問題でお困りの際は、遠慮なく当センターにご相談ください。

診療実績(2022~2023年)

  • 年間救急車搬送件数1,556件
    うち東京ルール搬送件数481件(30.9%)
  • 年間初診患者数1,219件
  • 月平均紹介率149.6%
  • 逆紹介率55.3%
  • 平均入院日数11.5日
  • 高気圧酸素治療の年間延べ治療件数1,714件

更新:2025.12.12