がんじゃない悪性腫瘍!? 胃粘膜下腫瘍の正体
消化器・肝臓内科

胃粘膜下腫瘍に対する取り組み
胃粘膜下腫瘍(いねんまくかしゅよう)とは、胃の粘膜より下の層に存在する腫瘍の総称です。内視鏡やCT、超音波内視鏡(EUS)を用いて病変を確認し、病変内の細胞を採取して診断します。最も頻度の高い消化管間葉系(かんようけい)腫瘍(GIST)に対しては、手術や抗がん剤による化学療法を行います。当院では外科医と内科医が協力しながら病変を切除する腹腔鏡(ふくくうきょう)内視鏡合同手術(LECS)という方法で、できるだけ体に負担のかからない手術を行っています。
粘膜下腫瘍とは
粘膜下腫瘍とは、その名の通り粘膜よりも下に存在する腫瘍のことです。食べ物の通り道である消化管の壁はいくつかの層で構成されており、最も内側の層は粘膜と呼ばれます(図1)。胃、食道、大腸など消化管にできるいわゆる「がん」はこの粘膜の細胞から発生したものを指しますが、粘膜以外の層を構成する細胞が悪性化したものは粘膜下腫瘍と呼ばれます。粘膜の下の細胞が増えて形成されたしこりは、徐々に内側の粘膜層を押し上げるように成長するため、内視鏡で内側から病変を観察すると、粘膜が緩やかに盛り上がって見えます(図2)。


病変は粘膜に覆(おお)われていますので、その正体は見た目だけではわかりません。また、粘膜を押し上げるように存在する病変が、必ずしも腫瘍だとは限りません。蛇行している血管であったり、胃の外側にあるほかの臓器によって胃が押されているだけだったりすることもしばしばです。「腫瘍」と聞くととても心配になりますが、まずはそれがホンモノの腫瘍なのかどうかをしっかりと見極めることが大切です。
小さいうちは無症状であり、その多くはほかの理由で胃の検査をした際に偶然発見されますが、大きくなるとお腹(なか)の張りや硬いしこりとして気づかれることがあります。粘膜が破れて胃の中に大出血をきたすこともあります。
検査・診断
CTや、上部消化管内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)、内視鏡の先端に超音波装置が内蔵された超音波内視鏡(EUS)で病変を確認します。EUSで観察しながら病変に細い針を刺して細胞を吸い取り(EUS-FNA)、顕微鏡検査を行うこともあります。
胃粘膜下腫瘍のなかで最も多いのは、消化管間葉系腫瘍(GIST)と呼ばれるものです(図3)。この腫瘍は小さいうちはおとなしいですが、大きくなるにつれ成長のスピードが速くなり、転移(体の中のほかの場所で成長してしまうこと)する可能性も高くなるため、基本的には悪性腫瘍として扱われます。

治療
GISTと診断された場合、病変を取り去ってしまえるのであれば手術、体の中に広く転移しているのであれば抗がん剤による化学療法を行います。手術法としては、主に局所切除(病変のみを切り取る方法)が選択されます。近年では外科医と内科医がそれぞれ腹腔鏡と内視鏡を担当し、切除する部分をできるだけ小さくする腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)を行うことで、術後の体の負担をできるだけ軽くする工夫が試みられています(図4)。

切除した病変に対して顕微鏡検査を行い、病理診断を行います。GISTの場合は、細胞の状態を観察して悪性度(成長スピードの速さや転移のしやすさ)を決めていきます。悪性度に応じて術後に抗がん剤を行うこともあります。
当科の特色 消化器・肝臓内科
当院では粘膜下腫瘍に対するEUSおよび細胞の採取(EUS-FNA)を積極的に行っています。そのほか、粘膜を小さく切り開いて病変を直接内視鏡で見ながら細胞を採取する方法(粘膜切開生検)を組み合わせて、より正確な診断に迫る試みを外来で行っています。治療に関してもLECSをはじめ積極的に内視鏡を用いて体にやさしい治療を行っています。
診療実績
胃粘膜下腫瘍の診断に欠かせないEUSは、毎週専用の検査枠を設けて行っています(図5)。LECSも2018年より本格的に開始し、これまでに100件程度の手術件数を数えます(図6)。


更新:2025.12.12
