急性期からはじめる包括的心不全治療
循環器内科

心不全とは?
心不全(しんふぜん)とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。「あらゆる心臓病が最終的に行き着く病気」が「心不全」であり、完治しない病気として知られています。しかし、急性期(※1)に原因を見極め、専門的な治療を行うことで将来の心不全の悪化を防ぐことができます。
心不全とはどのような病気か、どんな症状があれば医療機関にかかるべきなのか、また何が原因で進行していくのかなどを正しく理解し、予防していくことが重要です。
※1 急性期:病気・けがを発症後、14日以内(目安)。不安定な状態
急性期の心不全治療があなたの将来を変える
心不全の代表的な症状は息切れやむくみですが、それ以外にもさまざまな症状が起こります(図1)。日頃から症状に注意し、医療機関を受診することは、心不全の早期診断につながります。一方、これまで心不全と診断されていない方が急激に悪化し、急性心不全を発症することも多いことから、初回・急性期の心不全治療が重要です。

心不全は、治療により症状がいったん改善しても、病気が治ったわけではなく、生涯治療を続ける必要があります。急性期から原因をよく調べ、個々に適した治療を行うことで、将来的な心不全入院の予防につながります。当院では、急性期から心不全の原因を特定し、並行して治療を行う体制を整えています。心不全の原因とそれぞれの治療内容は次の通りです。
- 高血圧
- 血圧が高くなると心臓に負担がかかります。治療では、24時間しっかりとした降圧(血圧を下げる)を行います。
- 心筋梗塞(しんきんこうそく)
- 心臓に酸素や栄養を運ぶ冠動脈(かんどうみゃく)の血管が閉塞(へいそく)(詰まること)して、筋肉のはたらきが低下します。虚血性心疾患と弁膜症への迅速・適切なカテーテル治療(「腎がん診療の実際」)で紹介した迅速な虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)に対する治療を行います。
- 弁膜症(べんまくしょう)
- 心臓の血流を仕切る弁のはたらきが悪くなり、血液が逆流したり流れにくくなったりします。各弁膜症に対して心臓血管外科とタッグを組んだ「ハートチーム」で協議し、治療方針を検討します。虚血性心疾患と弁膜症への迅速・適切なカテーテル治療(「腎がん診療の実際」)で紹介した通り、大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)へのカテーテル治療(TAVI(タビ))も選択肢になります。
- 不整脈
- 心房細動などが長期間持続することにより、心臓の機能が低下することがあります。伝統と実績の信頼ある不整脈診療(「腎がん診療の実際」)で紹介した迅速な心房細動などに対する治療を行います。
- 心筋症(しんきんしょう)
- 二次性心筋症といわれるさまざまな疾患を診断することは治療につながります。特に心筋症の一つである心サルコイドーシスは、早期診断によりステロイドの治療効果が高まります。心アミロイドーシスに対しては、特異的な治療法(タファミジスなど)が開発され、治療することができるようになりました。
- 先天性心疾患
- 心臓や周辺の血管の生まれつきの異常により、心臓の機能が低下します。各先天性心疾患に対して心臓血管外科とのハートチームで協議し、治療方針を検討します。
急性心不全の治療目標は、息切れや起坐呼吸(※2)などの自覚症状を和らげることと、臓器のうっ血を改善して病態を安定させることです。
多くの場合、薬で自覚症状は緩和されますが、薬物治療だけでは奏功しないような重症心不全の方は、専門チームである心臓血管集中治療科で、機械的補助循環法を用いて治療することも可能です。
当院では救命救急センターと連携し、軽症から重症心不全の方まで、迅速かつ適切な集中治療管理に努めています。
※2 起坐呼吸:横になると息苦しくなり、座ると楽になる状態
心不全のステージは4つに分かれ、4回予防できる
心不全のステージは、次の4つの段階に分かれ、それぞれの予防が重要です(図2)。

- ステージA(心臓病などはないがリスクを抱えたステージ)
- 喫煙や飲酒などの生活習慣の悪化が心臓の機能を低下し、結果的に心不全を引き起こします。40~50歳の世代から正しい生活習慣を身につけることで、心不全を発症しないことが可能です。
- ステージB (心臓病などが存在するが症状はないステージ)
- 心筋梗塞や不整脈への専門的な治療を早期に行うことで心不全発症予防が可能です。
- ステージC (心不全を発症したステージ)
- 再入院を防ぐことが目標となり、当院の心不全チーム(医師・看護師・薬剤師・栄養士)がサポートします。
- ステージD (心不全の末期ステージ)
- なるべく自宅での生活が継続できるよう、症状緩和と生活の質を保つことを目標に、心不全チームが地域の医療機関とも連携を取りサポートします。
心不全予防の機会は4回あります。正しい生活習慣によって生活習慣病を発症しない。生活習慣病を発症した場合(ステージA)もしっかり治療を行い、心臓病にならない。それでも心臓病になった場合(ステージB)、心不全を発症させない。そして心不全を発症しても(ステージC)、再発・悪化させないことが大切です(ステージD)。
私たちは、心不全に対して何ができるのか?
心不全はがんと違って、良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら進行し、完治しない病気です。さらに、心不全の5年生存率は50%と、その予後(今後の症状についての医学的な見通し)は「ある種のがんより悪い」とされ、長期にわたって寝たきりになるなど、生活の質が著しく低下してしまいます。「心不全が悪化するきっかけ」を知ることが重要です(図3)。普段の生活習慣を改善することで心不全の予防につながります。

具体的には、塩分のとりすぎを控え、減塩に努めましょう。そして、運動も重要です。以前は、「心臓の働きが悪いと安静」が常識でしたが、現在では、心不全の患者さんにも運動が推奨されています。勝負にこだわるものや、いきむ動作のあるものは避け、ウォーキング、サイクリング、ラジオ体操、社交ダンス、水中ウォーキングなどの運動を、できるだけ毎日、1回20~30分行うことが重要です。
当科の特色 循環器内科・ 心臓血管集中治療科
近年は「心不全パンデミック」といわれ、高齢者の増加に伴い、心不全患者さんが急激に増えています。当院ではこのような患者さんにも幅広く対応しています。
心不全を悪化させないためには、原因を早期に明らかにし、適切な治療や対策を速やかに行うことが重要です。私たちは、たくさんの心不全患者さんを診療しながら、個人ごとの違いを考慮した適切な予防や治療法の確立にも努めています。年齢や基礎疾患によらず、心不全でお困りの方はいつでもご相談ください。
診療実績
一般的な心不全患者さんに対する初期の内服管理から、希少な疾患への先進医療も含め、心不全に関する診療全般を担当しており、当科には毎年約400人の患者さんが、検査あるいは治療のために入院しています。
心不全は一生涯付き合っていく病であり、大病院だけでは治療の完結は難しいです。そのため、「心不全患者さんの再入院予防」を目標として、近隣の病院の先生方とともに「心不全を地域で診る」という理念のもと、心不全地域連携を積極的に行っています。
更新:2025.12.12
