大腸がんの内科的・外科的治療

消化器外科

大腸がんの内科的・外科的治療

大腸がんとは?

大腸がんとは、大腸の粘膜から発生する悪性腫瘍(あくせいしゅよう)を指していいます。大腸がんの治療方法には、内科的治療、外科的治療(手術)、化学療法(抗がん剤治療)などさまざまな方法があります。どの治療を選択するかは、患者さんの状態やがんの進行度合い(病期)によって異なります。大腸がんの深さ(深達度)や、転移・浸潤(しんじゅん)(がんが周りに広がっていくこと)・腹膜播種(ふくまくはしゅ)の(※1)有無などから総合的に病期を判断し、治療方針を決定します。

※1 腹膜播種:がん細胞が臓器の壁を突き破り、種がまかれるように腹膜(胃や腸などの臓器とお腹の壁の内側を覆(おお)う薄い膜)に散らばって付着し広がること

大腸がんの検査・診断

大腸がんの診断には、主に大腸内視鏡検査を行います。大腸内視鏡の検査は、直径10mm前後の内視鏡スコープを肛門から挿入し、直腸から盲腸(もうちょう)までの大腸全体を観察する検査です。がん以外にも大腸の病気(腺腫(せんしゅ)・炎症・潰瘍(かいよう)・良性ポリープなど)を見つけ、治療法を決めるために役立ちます。また、病気の詳細を調べるために、腸の組織を一部取ることがあります(組織生検(せいけん))。

当院では、特に内科的な内視鏡治療を検討する場合、特殊光や特殊な色素(インジゴカルミンやメチルロザニリン塩化物)を用いて詳細な観察を行っています。2022年の1年間で大腸内視鏡検査を約5,300件施行しており、豊富な検査実績を誇ります。

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図1 大腸の区分

大腸がんの内科的治療

内科で行う大腸の内科的治療には、①コールドスネアポリペクトミーと呼ばれる、非通電で行う治療(図2)に加え、通電して行うものとして、②内視鏡的大腸粘膜切除術(ねんまくせつじょじゅつ)(EMR、ポリペクトミー、図3)、③内視鏡的大腸粘膜下層剥離術(ねんまくかそうはくりじゅつ)(ESD、図4)があります。

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図2 コールドスネアポリペクトミー
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図3 内視鏡的大腸粘膜切除術(EMR)
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図4 内視鏡的大腸粘膜下層剥離術(ESD)

①コールドスネアポリペクトミー(図2)

この方法は、がんと診断した場合には行わず、前がん病変(がんになる可能性がある病変)に対してのみ施行しています。内視鏡からスネアというワイヤーを出して病変周囲にかけ、周囲の正常な粘膜とともにポリープを切除します(このとき電気は使用しません)。

②内視鏡的大腸粘膜切除術(EMR、図3)

内視鏡から病変の下に生理食塩水を注入し病変を持ち上げ、切除時の安全性を高めます。そして、スネアをかけ通電し切除します。必要に応じて、切除面を凝固(血液を固まらせる)したり、クリップを用いたりして止血処置を行います。

③内視鏡的大腸粘膜下層剥離術(ESD、図4)

病変の下に、ヒアルロン酸ナトリウムなど、よりしっかりとした膨隆(ぼうりゅう)(膨らみ)を作れる液体を注入し、高周波ナイフを用いて病変周囲の粘膜を少しずつ切開します。その後、粘膜下層を剥離し、病変を剥(は)がしとります。病変切除後は、必要に応じて、切断された血管の末端を焼灼し、病変をクリップで縫い縮めて止血処置を行います。

いずれの場合も、切除した病変は回収して病理(顕微鏡)検査に提出します。

当院では、2022年実績で、②EMRを約530件、③ESDを約130件施行しており、早期がんを安全かつ確実に内視鏡で切除することを心がけています。

大腸がんの外科的治療(手術)

ステージ1~3までの大腸がんでは、手術が標準治療となります(図5)。また、ステージ4は肝臓(かんぞう)や肺、腹膜などに転移を認める状態(遠隔転移といいます)ですが、転移の状況によっては手術を行う場合があります。

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図5 大腸がんの各ステージにおける標準治療

当院では、創(きず)が小さく、体の負担が少ない腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)やロボット支援下手術を積極的に行っており、日本内視鏡外科学会技術認定取得者が手術を担当します。年間約300件の大腸がん手術を行っており、患者さんに安全で質の高い手術を提供できるものと考えています。

大腸がんは、腫瘍の進行度と腫瘍のできた場所によって、手術以外の治療が追加で必要になる場合があります。具体的には、①緊急対応が必要な閉塞性大腸がんと、②肛門温存および局所再発(がんを取り除いた場所に再び、がんができること)が問題となる直腸がんです。当院ではこの2つの病気の治療にも力を入れて取り組んでいます。

①閉塞性大腸がんの治療

大腸がんが進行し、腸閉塞(ちょうへいそく)(腸が詰まること)をきたした状態のことを「閉塞性大腸がん」といいます。頻度は全大腸がんの約10%と報告されています。排便と排ガスが完全に停止し、腹部膨満(お腹(なか)が張って苦しい状態)が増悪(※2)すると、最悪の場合、腸管が破裂して死に至るケースもある恐ろしい病気です。

その場合、拡張した腸管内に滞った便とガスを、体外に誘導する緊急処置が必要となります。以前は緊急手術で人工肛門を造設し、全身状態が安定したあとに、原発巣(※3)切除を行っていました(二期的手術)。

しかし、2012年より大腸ステント(※4)という機器が、国内において保険診療で使用可能となり、緊急手術が回避できるようになりました(図6)。がんによる閉塞部位を大腸ステントで拡張し、大腸ステントをそのまま留置することで、自身の肛門から再び排便を可能にします。大腸ステント留置を行った患者さんの多くは、翌日から普通食が食べられ、約3日で退院可能です。その後、手術に向けて2~3週間の準備期間を経て根治(こんち)手(※5)術を行いますが、糖尿病や慢性心不全(まんせいしんふぜん)などの併存疾患のある患者さんは、この期間を利用して積極的に併存疾患の治療を行います。

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図6 閉塞性大腸がん治療のフローチャート

閉塞性大腸がんは、さまざまな病態がかかわる複雑な疾患ですが、安心して治療を受けられるように、当院では常に患者さんに寄り添った「チーム医療」の実践を心がけています。

※2 増悪:もともと悪かった状態がもっと悪くなること
※3 原発巣:最初にがんが発生した病変
※4 ステント:詰まったところを内側から広げるための、金属でできた網状の筒
※5 根治:完全に治すこと。治癒

②直腸がんの治療

直腸がんの手術では、直腸を周りの臓器から外しますが(剥離といいます)、がんから剥離したところまでの距離が1mm未満の場合、局所再発しやすいことが知られています。

直腸は狭い骨盤(こつばん)の中にあり、周囲を泌尿器系臓器(膀胱(ぼうこう)、尿管、尿道、排尿をコントロールする骨盤神経、前立腺(ぜんりつせん))、生殖器系臓器(子宮(しきゅう)、卵巣)に囲まれています。直腸がんから剥離面までの距離を確保するために、それらの臓器を同時に切除する場合もありますが、永久に人工肛門になったり、排便障害(便失禁、頻便)や排尿障害(自力で尿が出せなくなる)を伴ったりするため、生活の質(QOL)が損なわれます。直腸がんに対して、根治性と術後のQOLの両者を担保するためには、手術技術の進歩だけでは限界があり、術前治療による腫瘍の縮小が求められます。

術前治療には術前放射線治療が有名ですが、当院では、そのほかにも術前化学療法(放射線治療は行いません)や、放射線治療と化学療法の両者を行うTNT(TotalNeoadjuvantTherapy)も行っており、直腸がんの進行度に応じた集学的治療(※6)を行っています。治療効果の高い患者さんでは、腫瘍が消失する場合があり、腫瘍の縮小により肛門を温存できる可能性が出てきます(写真)。直腸がんで悩んでいる患者さんの力になりたいと思っています。

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写真 腫瘍が縮小した直腸がん

※6 集学的治療:化学療法との組み合わせ

大腸がんの化学療法

手術で切除が難しいステージ4の大腸がんや、肝臓や肺、腹膜に再発・転移した大腸がんに対しては、化学療法が行われます。大腸がんの組織から遺伝子の型を調べ、「大腸癌治療ガイドライン」に準じて、効果の高い治療法を選択します。

化学療法には、薬の副作用といった肉体的な負担だけでなく、医療費の問題や仕事との両立といった精神的・社会的な負担も伴います。担当医師だけでなく、外来化学療法室の看護師や薬剤師、患者支援センターのスタッフとも患者さんの情報を共有し、チームで治療をサポートします。

また、化学療法により再発・転移が制御できた場合、手術が可能となる場合があります。病気を切除することで予後(今後の病状についての医学的な見通し)が改善する可能性があるため、当院では定期的にカンファレンス(検討会)を行い、手術の適応を検討しています。患者さんにとってベストな治療の提供に努める体制となっています。

更新:2025.12.12