肝臓がん、肝門部領域胆管がん、胆嚢がんに対する外科治療

消化器外科

肝臓がん、肝門部領域胆管がん、胆嚢がんに対する外科治療

肝臓にできるがん

肝臓(かんぞう)は内部が、臓器が機能するための細胞や組織で満たされている実質臓器であるため(図1)、外科治療を行ううえで、患者さんのがんの進行度と肝機能とのバランスの取れた手術方法の選択が必要となります(正常肝臓の場合は、60~70%の切除が可能とされています)。また、肝臓手術を必要とするがんの原因もさまざまであるため、最適な切除方法を選択することが重要です。現在、低侵襲手(ていしんしゅう)(※1)術(腹腔鏡(ふくくうきょう)、ロボット支援)を安定して行えるようになっている一方、侵襲の大きな開腹手術が必要な患者さんもいます。

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図 1 肝臓の構造

2015年のNCDデータ(全国の外科手術データ)では高難易度の肝臓手術の死亡率が3.69%とあり、世界的には非常に良好な成績とはいえ、ほかの消化器外科手術に比べ死亡率が高くなっています。安全性の高い手術を受けるためには、インターネットで検索可能な日本肝胆膵外科学会の修練施設、高度技能専門医システムなどを参考に、当院のように、肝臓外科、肝臓内科、放射線科などとよく話し合って治療法を選択できる施設への相談が重要です。

※1 低侵襲:体に負担の少ない

肝細胞がん

肝細胞がんは、肝臓にできるがんの総称である「肝臓がん」の中でも、肝臓の主な細胞である肝細胞ががん化したものです。国立がん研究センターのがん統計によると、2023年の男性のがん死亡数予測の5番目(全体の7%)、罹患(りかん)数(※2)予測でも5番目(5%)に多いがん腫(しゅ)とされています。地域がん登録による2009~2011年の5年相対生存率でも、5番目に生存率の悪いがん腫であり、肝内胆管(たんかん)がんと合わせて、35.8%といわれています。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるため、炎症やがんがあっても、初期には自覚症状がほとんどありません。肝細胞がんの発生には、ウイルスなどによる肝臓の慢性的な炎症や肝硬変(かんこうへん)が影響しているとされています。そのため、健康診断などで肝機能の異常や肝炎ウイルスの感染などを指摘されたときには、まずは内科や消化器内科、肝臓内科、または身近な医療機関を受診しましょう。

原因
原因としては、B型、C型、アルコール性、脂肪肝炎などが多く、炎症が長期間にわたって続いた場合は、肝臓が硬くなっていくため、肝機能障害を伴う症例も多くなります。治療にあたっては、がんの「進行度」(図2)と「肝機能」(図3)という2つの要因が存在するため、その他の消化器がんの治療に比べて治療法の決定がより複雑となります(図4)。
最近では、B型、C型肝炎による発がんの患者さんは減っていますが、脂肪肝炎が原因だったり、脈管内(門脈(もんみゃく)、肝静脈、胆管(たんかん))に入り込んでいたりすることも多く、解剖学的肝切除といわれる比較的大きな手術が必要な場合もあります(図1、5)。
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図2 肝細胞がん、肝内胆管がんの進行度
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図3 肝機能評価
Child-Pugh(チャイルド・ピュ)分類とは、肝臓の障害度を表す指標です。肝臓がんの治療においては病期(ステージ)分類に加えて、患者さんの肝臓の予備能が正常能に対してどれくらい残っているかという障害度を表す重症度分類が、治療方針に大きな影響を与えます。障害の軽い順にAからB、Cの順で分類されます。手術適応はBまでで、Cと評価されると肝移植もしくは緩和ケアの治療対象となります
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図4 肝切除範囲の指標となる手術基準
コントロールできない腹水や血清総ビリルビン値が2.0mg/dL以上の症例は、肝切除術の適応になりません。肝切除が可能な症例でも血清総ビリルビン値とICG15分値により切除可能範囲を目安とします
(参考文献:Makuuchi Metal. Semin Surg Oncol 9 298-304, 1993)
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図5 肝切除法と切除範囲
がんの存在位置、大きさ、数などにより、過不足ない肝切除範囲を決定します。がんの種類や状況によって部分切除術を選択したり、肝機能の悪い症例で核出術を施行したりします
治療法
治療法としては、手術のほかにも、肝動脈(化学)塞栓術(そくせんじゅつ)、ラジオ波焼灼術(はしょうしゃくじゅつ)、抗がん剤治療などがありますので、肝臓外科、肝臓内科、放射線科とよく相談して治療法を決定します。すでに肝臓にダメージがある状態が多いため、再発の可能性も高くなりますが、その場合も、同様に各科で横断的にコミュニケーションをとりながら治療法選択を行います。
以前は、お腹(なか)を大きく開ける開腹手術が一般的でしたが、現在では、5~12mmのポートという医療機器を介して手術を行う、腹腔鏡、ロボット支援手術などの低侵襲手術も積極的に施行されています。当科でも約70%の症例で施行しており、より患者さんの体にやさしい手術選択を心がけています。また、低侵襲手術の発達により、再発症例に対しても、再び手術を選択する機会も増えています。

※2 罹患数:病気になる人の数

肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん

胆道(たんどう)は、胆管、胆嚢(たんのう)、十二指腸乳頭という3つの部分に分けられ、肝臓で作られる胆汁という脂肪吸収を助ける液の通り道です(図6)。肝臓の中に張り巡らされている肝内胆管から次第に太くなって、肝門部から総肝管となり、胆嚢とつながる胆嚢管が合流して総胆管となって十二指腸につながります。なお、肝臓の外の胆管を肝外胆管ともいいます。

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図6 肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、胆嚢がんの位置

胆管がんは、がんが発生した場所が肝臓の中か外かによって、①肝臓の中を通る胆管に発生したがん(肝内胆管がん)と、②肝外胆管がんに分類されます。

①は国内で肝臓がん(原発性肝がん)の1つの型として扱われます。②は、胆管のどの部分に発生したかによって、さらに肝門部領域胆管がん(肝臓に非常に近い肝臓の外の胆管に発生したがん)と遠位胆管がんに分類されます。

症状
胆管は、黄色い胆汁の流れ道であるため、胆管がんが発生した場合は、肝・胆道系酵素の上昇、黄疸(おうだん)(体が黄色くなること)などの症状が出ることが多いです。尿の黄染が初期症状として特徴的ですが、皮膚や眼球の黄疸、右わき腹の痛み、体重減少などの自覚症状もあります。
治療法
同じ胆管がんでも、肝門部領域胆管がんは、ステージ分類が異なり(表1)、大量肝切除を考慮しないといけないケースも存在します。そのため、術前に切除するほうの肝臓の栄養血管である門脈をIVR(interventional Radiology)のテクニックで塞栓(閉塞)させ、温存するほうの肝臓の体積増加を図る門脈塞栓術を行うことにより、より安全に肝切除を行う工夫をする場合があります。
また、胆汁の流れを再建するため、胆管と空腸(小腸)をつなぐ、胆管空腸吻合術(ふんごうじゅつ)を併施します。
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表1 肝門部領域胆管がんのステージ分類

転移性肝がん

転移性肝がんとは、肝臓以外の臓器にできたがん(原発巣)のがん細胞が、主に血液の流れに乗って肝臓にたどり着き、肝臓に転移した状態のことです。さまざまながんが肝臓に転移する可能性がありますが、消化器がん(胃がん、大腸がん、膵(すい)がん、胆道がんなど)が原因として最も多く、ほかに肺がん、乳がん、頭頸部(とうけいぶ)がん、腎(じん)がん、神経内分泌腫瘍(しんけいないぶんぴつしゅよう)なども肝臓に転移することがあります。

治療法
いずれのがんでも、もともとのがんが進行した状態ですが、大腸、直腸がんの肝転移などは積極的に肝切除を行うことが推奨されています。ほかのがんでも条件が合えば、肝切除の可能性があります。
肝切除は、部分切除といわれるがんの周囲を含めた切除を行う場合が多いため、低侵襲手術を選択することが多いです。昨今の抗がん剤の発達により、当初、肝切除が不可能であると判断されてしまった患者さんも、肝切除が可能となるまでの抗がん剤治療の良好な効果が得られる場合が増えてきています。
また、肝切除後の大腸、直腸がんの肝転移再発の可能性は約40%といわれていますが、切除が可能であれば、切除を積極的に行うことが世界的な見解です。切除のタイミングや切除法、術前術後抗がん剤治療法など、消化器外科内でも大腸チームとよく相談して治療法を決定します。

胆嚢がん

胆嚢は、胆汁をひとまず蓄え、濃縮する袋であり、食事をすると収縮し、胆汁を排出します。胆嚢がんの危険因子には、膵管と胆管が十二指腸の手前で合流する、先天性の異常である膵・胆管合流異常があります。また、胆嚢ポリープでは、大きさにかかわらず広基性病変(粘膜の表面からなだらかに隆起している病変)である場合、大きさが10mm以上あり、かつ増大傾向を認める場合も胆嚢がんである可能性が高く、手術を検討します。

地域がん登録における2009~2011年の5年相対生存率でも、2番目に生存率の悪いがん腫であり、胆管がんと合わせて、24.5%といわれています。

解剖学的特徴から、進行が速く、肝臓や十二指腸、大腸に浸潤(しんじゅん)(※3)することがあります。

※3 浸潤:がんが周りに広がっていくこと

治療法
がんの進行度(表2)により、手術の方法が変わり、胆嚢のみ切除するものから、肝臓や膵臓、周囲の臓器(特に大腸や肝外胆管、リンパ節)まで一緒に切除する拡大手術が必要となる場合もあります。
胆石(たんせき)、胆嚢炎の手術後の病理検査(※4)で、約1%の確率で、がんの併存を偶然確認することがあります。その際、がんの進行度が漿膜(しょうまく)下層まで浸潤している場合は、追加切除術を行うことがあります。
また、胆管がんも含めて、術前、術後の抗がん剤治療を行うことにより、外科手術後の成績を良くする試みを実施しています。
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表2 胆嚢がんのステージ分類
(表1、2参考文献:日本肝胆膵外科学会『臨床・病理 胆道癌取扱い規約第7版』金原出版、2021年)

※4 病理検査:顕微鏡で細胞を詳細に見る検査

当科の特色 消化器外科

当院の肝臓手術は、日本肝胆膵外科学会の施設A(高難度手術年間50件以上)に認定されています。2024年5月現在、肝胆膵外科チームには、4人の高度技能専門医が在籍しています。

当院では、患者さんに適切であると考えられる治療法を各部門との良好なコミュニケーションのもと決定しています。また、手術を行う肝胆膵外科チームでは、患者さんとのコミュニケーションも大事にした、「All for patient!」「期待に応える医療」のスローガンのもと、本学の建学理念である「克己殉公」に即した、親身で全人的な対応を心がけています。特に低侵襲手術である、腹腔鏡、ロボット支援手術を積極的に施行していますが、何より患者さんのがんの腫瘍学的根治(※5)度と安全性を最優先に考え、開腹手術も含め、適切な術式選択と丁寧な説明を心がけています

※5 根治:完全に治すこと。治癒

診療実績

当科での肝臓手術は年間100件を超えており、その9割ががんの手術です。約3分の1を腹腔鏡手術で行っていますが、2023年からロボット支援手術も開始し、その割合は増加しています。転移性肝がん、肝臓がんの症例が多いことも当科の特徴の1つです。

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表3 手術件数

更新:2025.12.12