首に傷跡を残さない、内視鏡下甲状腺手術

日本医科大学付属病院

内分泌外科

東京都文京区千駄木

首に傷跡を残さない、内視鏡下甲状腺手術

甲状腺疾患とは?

甲状腺は、代謝を活発にして、全身にかかわるエネルギーの調節を行う甲状腺ホルモンを分泌する臓器です。甲状腺疾患には良性腫瘍(しゅよう)、悪性腫瘍、バセドウ病などがありますが、いずれも比較的若い女性に多い病気です。自覚症状として、甲状腺腫瘍では甲状腺の腫(は)れ、バセドウ病では動悸(どうき)、息切れ、手足の震え、発汗の増加などがあります。当院では、患者さんの生活の質に影響を及ぼさないよう、首に傷跡を残さない内視鏡下甲状腺(ないしきょうかこうじょうせん)手術を積極的に行っています。

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図1 甲状腺

日本医科大学で生まれたVANS法手術

甲状腺疾患には良性腫瘍、悪性腫瘍、バセドウ病などがあり、いずれも比較的若い女性に多い病気です。手術を必要とする場合、これまでの手術方法(通常法手術)では首に傷跡が残るため、患者さんの生活の質に影響を及ぼしかねませんでした。

当院では、首に傷跡を残さない、内視鏡下甲状腺手術(Video-assisted neck surgery: VANS法手術)を行っており、鎖骨の下の3~4cm程度の創(きず)で手術を行うことが可能です。傷跡は衣服で容易に隠せるため、美容上優れています。手術後も傷跡を気にすることなく過ごすことができます(写真)。

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写真 術後の傷跡
襟元が開いた衣服でも容易に傷跡を隠すことができます

VANS法手術は、1998年に当科の清水一雄名誉教授が世界に先駆けて開発した、日本医科大学発祥の手術です。これまでの経験症例は1,000例を超えており、現在は年間90件以上と、豊富な経験と実績があります(図2)。

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図2 当院のVANS法手術件数

また2018年以降、すべての甲状腺疾患に対して保険適用となり、患者さんには安心して受けてもらえる手術です。

対象となる疾患は?

すべての甲状腺疾患がVANS法手術の対象となるわけではありません。適応となる疾患の目安は以下の通りです。

・良性腫瘍:
腫瘍の大きさが6cm程度までのもの
・悪性腫瘍:
明らかな甲状腺外への浸潤(しんじゅん)(がんが周りに広がっていくこと)がなく、リンパ節転移がない(またはあっても最小限の)もの
・バセドウ病:
比較的小さな甲状腺(推定60g以下)のもの

また、副甲状腺の病気(原発性副甲状腺機能亢進(こうしん)症)でも、条件次第では適応となることがあります。上記の適応はあくまでも目安ですので、詳しくは担当医までご相談ください。

通常法手術との違いメリット・デメリットは?

VANS法手術は、手術時間が2時間前後と、通常法手術より1時間ほど長くなります(甲状腺片葉切除の場合)。入院期間は術後3~4日で退院が可能であり、通常法手術と同様です。手術の安全性や確実性に、明らかな違いはありません。

VANS法手術の最大のメリットは、首に傷跡が残らないことに尽きます。デメリットとして、傷跡~首周囲のしびれ感、つっぱり感といった違和感が術後に生じやすいことが挙げられます。これらの違和感は、術後数か月~半年ほどかけて少しずつ改善することが期待されます(図3)。

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図3 通常法手術とVANS法手術の比較

当科の特色 内分泌外科

1998年に日本医科大学で生まれたVANS法手術は、代々その技術の改良を重ねながら継承しています。2023年現在、VANS法手術は長岡医師を中心に行っており、当科常勤医には、日本内視鏡外科学会技術認定医(甲状腺)が1人、甲状腺・副甲状腺内視鏡手術指導医が2人在籍しています。

国内を代表する施設の1つとして、各学会やセミナー、SNSなどを通じて、VANS法手術についての啓発活動を全国に向けて行っています。年間100症例の手術件数を1つの目標として、日々研鑽を積んでいます。

診療実績

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図4 2022年に行った当院のVANS法手術の件数

更新:2025.12.12

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