肩腱板断裂に対する最新治療
日本医科大学付属病院
整形外科・リウマチ外科
東京都文京区千駄木

肩腱板断裂とは?
肩痛(けんつう)、運動障害の原因の1つである腱板断裂(けんばんだんれつ)は、国内では50歳以上の4分の1、約1,900万人に存在すると考えられています。肩関節の大きな可動性と安定性は、骨形態とともに腱板や靭帯(じんたい)などの軟部組織が大きな役割を担っています。特に腱板は負荷がかかりやすいため、けが以外にも、明らかな外傷のない変性断裂を起こす場合があります。年齢や活動性、断裂状況により、保存療法から関節鏡下修復術(かんせつきょうかしゅうふくじゅつ)、人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)など、患者さんに適した治療法を選択しています。
原因・症状
上肢(じょうし)(肩から手・指を含む部分)を挙上する(高く上げる)際、まず腱板筋といわれる肩甲骨(けんこうこつ)から上腕骨に付着する4つの筋(肩甲下筋・棘上筋(きょくじょうきん)・棘下筋(きょくかきん)・小円筋(しょうえんきん)、図1)が収縮し、上腕骨と肩甲骨が安定します。次に腱板筋に加え、三角筋などの大きな筋肉が収縮することで手が上がります。

腱板は肩峰(けんぽう)と上腕骨にはさまれており、また肩関節は人体の中で最も大きな可動域があることから、負荷がかかりやすく変性が生じやすい組織です。このため外傷による断裂も生じますが、明らかな原因がなくても、日常生活動作で断裂が生じる場合があります。
症状は、肩の運動障害や運動時の痛み、炎症が強いと安静時、特に夜間に痛むことが多いです。また、軋轢音(あつれきおん)と呼ばれるジョリジョリとした音が、動作時にする場合もあります。
検査・診断
まず、どのようなときに症状が出るかを患者さんから聞き、肩周辺の筋萎縮を評価します。次に肩の可動範囲を計測し、腱板筋の筋力評価や、その際に痛みが出るかを調べます。また、肩を動かす際、肩峰と上腕骨を衝突(インピンジメント)させる動作(図2)により、痛みや軋轢音などが出るかも調べます。X線検査や超音波(エコー)検査、MRI検査を行い、腱板断裂の範囲や位置、筋肉の萎縮などを診断し、治療方針の参考にします(図3)。


腱板断裂の治療
治療方針は患者さん一人ひとりに対して、どの治療が適切かを患者さんとよく話し合いながら進めていきます。
●保存療法
特に変性断裂の場合は、投薬や関節内注射などで痛みをコントロールしつつ、姿勢を注意することや、肩甲骨を含めた肩関節の動作を改善するようなリハビリテーションや指導を行います。これにより、症状が軽減することがあります。
●手術療法
明らかな外傷性断裂や保存療法で軽快しない患者さんには、手術を行います。
- ①修復術(関節鏡下)
- 比較的小さな断裂や広範囲の大きな断裂でも、筋肉の萎縮が少ない場合に行います。断裂部が上腕骨の腱板付着部に容易に届くように、小さな創(きず)で手術できる関節鏡下で、剥離(はくり)などを行います。場合により皮膚切開し、腱板筋を肩甲骨から直接剥離することもあります。
その後に、①縫合糸のついたアンカーと呼ばれる固定具を上腕骨頭に挿入し、②その縫合糸を断裂腱板にかけ、③外側に引き寄せ、縫合糸のついていないアンカーを上腕骨外側に挿入し断裂腱を付着部に圧着固定します(図4)。
腱板と付着部の癒合(ゆごう)(くっつくこと)には数か月を必要とするため、特に修復組織が弱い術後2か月は三角巾固定をして、他動運動(他者や機械など、ほかからの力で関節を動かすこと)での訓練を行い、その後は自分の力でゆっくりと運動範囲を広げていきます。
軽い作業は早期から可能ですが、重労働やスポーツは術後5か月以降に開始していきます。

- ②人工関節置換術
- 広範囲の大きな断裂で筋肉の萎縮が強い場合などは、腱板を付着部に修復することが困難な場合があります。修復不能が予想される場合は、リバース型人工肩関節置換術を行います。これは、関節窩(かんせつか)(本来の受け皿)に丸いボールを設置し、丸い上腕骨頭は切除して受け皿を設置するため、術後は通常の肩関節とは真逆の構造となります。本来、上腕骨が腱板筋の収縮で安定しないと、肩関節の挙上ができませんが、この関節は、その構造により三角筋の収縮で上腕骨が安定するため、腱板修復をしなくても肩関節挙上が可能になります(図5)。
腱板と付着部の癒合を待たなくてよいため、術後早期から日常生活動作訓練を開始することができるという利点もあります。

整形外科・リウマチ外科
長引く肩関節痛や動作障害の原因を適切に診断し、個々の患者さんの要望も取り入れ、患者さんに適した治療を行うよう心がけています。体に負担の少ない関節鏡下手術を、さまざまな工夫や最新の手技を取り入れて行っています。
人工関節置換術を行う場合も、正確な設置のため、ナビゲーションシステムや患者さんの肩関節モデルから作成した専用器具を用いた手術を行っています。
診療実績

更新:2025.12.12
