胃がんと闘う 豊富な経験と最新の技術を融合させた外科治療

四国がんセンター

消化器外科

愛媛県松山市南梅本町甲

胃がんに対するロボット手術

「ロボット手術」というのは、人気テレビドラマのテーマにも取り上げられたり、ここ数年で急激に皆さんの耳にも入るようになってきたかと思います。文字通り、「ダビンチ」という名前の手術用ロボットを使って行う手術です。しかし、ロボットが独自に判断して手術を進めてくれるわけではなく、実際に手術を行うのは外科医です。外科医がコントローラーから指令を送り、ロボットはその動きを忠実に再現し、なおかつ機械ならではの正確で緻密な動きで、患者さんの体の中でメスを走らせて手術を進めて行きます(図1)。ロボットが導入されているだけでは何のメリットもなく、そのパワーを十分に、しかも安全に引き出せる外科医がいないと話になりません。「開腹手術」や「腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)」に長けた、そして何より、胃がんをメスで切り取るための豊富な知識と経験を持った外科医がいなければ、ロボットも無用の長物に過ぎません。

イラスト
図1 ロボット手術

これまでに胃がん患者さんを数多く治療してきた施設では、おそらくそれぞれの伝統と豊富な経験から得られた知識や技術を、開腹手術から腹腔鏡手術に応用し、最先端の手術方法を安全かつ効果的に導入してきたと思われます。「ロボット手術」も同じように、開腹・腹腔鏡の技術が十分にある施設でこそ、安全に行え、またそのメリットを充分に引き出すことができるのだと思います。その証拠に、「ロボット手術」は、現在は一定の経験を得た専門の外科医がいる、また周りのメンバーもしっかりと教育された施設でしか保険診療での提供が認められていません。

当院の上部消化管グループは、メンバー全員がロボット手術に関する資格取得者であり(2人はロボット手術の執刀に関する資格、1人はロボット手術の第一助手を安全・効率的に行うための資格)、すでに十分な経験を有した施設として認められ、2018年より保険診療でのロボット手術を提供しています。

経験豊かな外科医と、機械の正確性を備えたロボットとのコラボレーション手術は、傷も小さくとても体にやさしい治療です。病状に応じて、「開腹手術」「腹腔鏡手術」「ロボット手術」の選択が可能な病院は、現代医療の最先端であり、大変魅力的だと思います。

胃の機能温存を追求した手術(観音開き法)

胃を切ると、どうしても「食べられない」「胸焼けがひどい」といった、胃を切った後の問題が生じます。その程度は、手術内容や患者さんによってさまざまですが、手術方法で改善点がないかを突き詰めるのが、胃がん外科治療のプロフェッショナルである私たちの役割だと思います。がんのきちんとした治療に加えて、手術後の食事や胃部の症状(生活の質)に大きな違いが出る手術方式が提供される施設は、限られてはいますが、患者さんにとってメリットが大きいと思います。

胃の入り口部分(噴門部(ふんもんぶ))、あるいは食道と胃の境目(食道胃接合部)にできるがんについて、胃をすべて取ってしまう胃全摘手術が一般的であり、多くの施設がこの方法を選択しています。しかし、条件がそろえば、胃をすべて取ってしまうことなく、がんを取り切ることができることが分かってきました(噴門側胃切除術)。胃が半分ほど残るということは、胃切除後でありながら、比較的食事が多くとれて体重の回復が良くなり、患者さんにとって大きなメリットがあります。

しかし、この手術方法にも課題があり、残した胃と食道をつないだところが緩くなって、胃酸の逆流による不快な胸焼けや痛みの症状が出ること(逆流性食道炎)があります。私たちは、胃と食道とのつなぎ目に、逆流を防止する工夫を加えたつなぎ方(観音開き法)を取り入れています(図2)。この手術方法は、高度な手術技術が求められるため、日本全国でも行える病院はごく少数です。特に四国、愛媛県下では少なく、当院では観音開き法の手術経験を有し、その手術のコツや難しさを乗り越えるための工夫を行っています。観音開き法に限らず、常にがんの切除と機能の温存とのバランスを考えた、患者さんそれぞれに合ったより良い手術方法に真剣に取り組んでいます。

イラスト
図2 噴門側胃切除術後の観音開き法

更新:2024.01.25