血液のがんと闘う タイプによっては薬物治療による治癒も可能です

四国がんセンター

血液腫瘍内科

愛媛県松山市南梅本町甲

稀少で診断が難しく進行はタイプによって大きく異なります

リンパ腫や白血病の患者さんでは、ほかのがんと比べて抗がん剤による効果が高いタイプのがんが多く、薬物療法によって完全に治癒する可能性があります。

また、患者さんは少ないのですが、診断分類が医学の進歩により細分化されており、WHO(世界保健機構)の最新の分類では、リンパ系腫瘍(しゅよう)に限っても約90種類に分けられています。診断分類は治療と密接に結びついています。分類が重要でありながら、難しいことが少なくなく、病理医と臨床情報を密に交換しながら、より精緻な診断に努める必要性があります。

疾患によって進行するスピードが異なっており、数日で亡くなる方や無治療で10年以上過ごされる方などさまざまです。どのくらいの生存期間が期待されるのかということを予後と表現しますが、診断名によって予後が大きく異なるのも特徴です。

血液がんの治療はタイプによって大きく異なります

治療の実際は抗がん剤による薬物療法が主ですが、疾患によって放射線治療を行うこともあります。造血幹細胞移植(*1)は血液がんにおいて重要な治療の一つです。医療の進歩によって、若年者だけでなく高齢者での移植件数も、十年前に比べるとかなり増加しています(*2)。

治療戦略を考える場合にはまず、治療をせずに経過観察するだけでも予後に影響がない疾患であるのか、治療を行うことで予後が改善されるのかを選別する必要があります。ほかの領域と比べて特徴的なのは、すぐに抗がん剤による治療を行わなければ命に関わるような疾患が含まれていることです。その代表的な疾患は急性前骨髄球性白血病(きゅうせいぜんこつずいきゅうせいはっけつびょう)、バーキットリンパ腫です。これらは治療に伴う合併症が甚大であり、分化症候群(*3)、腫瘍崩壊症候群(*4)、出血や感染症などの合併症で救命できないこともありますが、治癒が期待できる疾患でもあります。

このように、合併症が生死を分ける場合があるのも血液がんの特徴といえます。これらのがん治療に伴う合併症の治療をがんサポーティブケアと呼びますが、なかでも白血球(好中球やリンパ球)の低下によって重症化しやすい感染症の予防と治療が重要です。施設によって異なりますが、設備面ではクリーンルーム(高性能な空気清浄装置を設置した病室)を整備している施設も少なくありません。なお、当院では14ベッドのクリーンルームを整備し、経気道真菌感染症(*5)の予防を行っています。歯科医による口腔(こうくう)粘膜ケア、栄養サポートチームの介在なども、治療によって起こる合併症の予防に効果を発揮します。

*1 造血幹細胞移植/あらゆる血液細胞を造ることのできる造血幹細胞を、大量の抗がん剤を投与した後に輸注すること。自分の造血幹細胞を使用する場合は自家移植、他人の造血幹細胞を使用する場合は同種移植と呼ぶ
*2 一般社団法人 日本造血細胞移植データセンター『日本における造血幹細胞移植の実績』(2017)
*3 分化症候群/レチノイン酸の薬物療法開始後に前骨髄球が骨髄球→後骨髄球→好中球へと分化する。この過程で生じる発熱や呼吸不全などを総称したもの
*4 腫瘍崩壊症候群/抗がん剤投与後に著しい腫瘍細胞死が生じた場合に、細胞から生じた大量の尿酸等によって腎不全などが出現すること
*5 通常の空気には多数の埃だけでなく、カビ(真菌)も多数浮遊している。著しく免疫低下した患者は、空気を吸うことによって真菌感染症を発症しやすい

分子標的治療薬の登場

治療法は診断によって異なりますし、非常に多数の種類があります。ここでは代表的な例を提示します。現在、多種多様ながんにおいて分子標的治療薬が登場し、実際に有効な成果を示しています。最初に開発された分子標的治療薬は、慢性骨髄性白血病の治療薬として登場したチロシンキナーゼ阻害薬のイマチニブです。イマチニブの登場によって、同種造血幹細胞移植でないと助からなかった慢性骨髄性白血病の10年生存率は83%となっています(*6)。そのほかにも、多数の分子標的治療薬が血液がん領域の治療成績を向上させています。

現在多数の分子標的治療薬が使用できるようになっていますが、まだ十分とはいえません。2018年4月現在、欧米で承認されているにもかかわらず日本未承認の抗がん剤は延べ65剤にのぼり、そのうち血液がんが30種類と報告されました(*7)。今後、国内において認可されれば、さらにたくさんの治療薬が使用可能となり、患者さんにより良い効果が得られることが期待されます。

*6 Hochhaus A et al. N Engl J Med 2017;376:917-927
*7 プレスリリース 国立がん研究センター先進医療・費用対効果評価室による定点調査:海外承認済み、国内未承認の抗がん剤リスト更新(2018年4月時点)

治療の主役はあなたです

近年、高齢の患者さんが増えています。若い人以上に治療を受ける患者さん一人ひとりにおいて、治療に伴う毒性と利益の比較検討を行うことが重要です。併存疾患、日常生活活動度(ADL)、認知能力、社会環境をふまえた治療計画を立てることも、もはや必須といえるでしょう。その結果、症例によっては抗がん剤による薬物療法が必ずしもベストではない場合があることを知っておくのも重要なことの一つといえるでしょう。

医療を舞台に例えると主役は患者さん自身です。主演俳優が、今行われていることの意味や内容をきちんと理解・納得して主体的に医療に参加していただかないと、医療という舞台は回りません。裏方である私たちが信頼される医療を提供するためにも、説明と同意(インフォームドコンセント)がとても大切であると考えています。

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写真1 骨髄像カンファレンス風景1
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写真2 骨髄像カンファレンス風景2

更新:2024.01.25