ニコチン依存症
概要
喫煙者の約70%は、ニコチン依存症に陥っているといわれています。禁煙をしようとしても、イライラや不安を感じる、集中力の低下、眠気を覚えるといった離脱症状が生じ、なかなかやめることができません。また、喫煙には習慣性があり、たばこがないと口寂しく、手持ち無沙汰になって無性にたばこが欲しくなってしまいます。ストレスを強く感じたときや、飲酒の際に、喫煙欲求を抑えきれなくなることもあります。
たばこの煙に含まれる化学物質は、有害と分かっているものだけで200種類以上もあり、さらに50種類以上の発がん物質が含まれています。また、たばこを吸っている人は、肺がんや喉頭(こうとう)がんなどのがんをはじめ、心筋梗塞(しんきんこうそく)、狭心症、脳卒中などの病気にかかりやすくなります。妊娠中に喫煙すると流産や早産、新生児死亡などの確率が高くなることもわかっています。また、喫煙を始める年齢が低いほどニコチン依存症になりやすく、健康に大きな影響を及ぼします。
原因
たばこがなかなかやめられない人の中には、自分の意志が弱いからだと思っている人も少なくないようです。しかし、禁煙が難しいのは意志の問題ではなく、ニコチン依存症という病気のためです。ニコチン依存症から抜け出すのは、ヘロインやコカインといった有害違法薬物をやめるのと同じくらい難しいともいわれています。
たばこを吸うと、肺から吸収されたニコチンは7秒ほどで脳に達して作用し、快感を生じさせる神経伝達物質のドーパミンが放出され、アルファ波も上がります。わずかな時間で十分な満足感が得られるため、脳内では喫煙が良いものだと認識され、ニコチン依存が強化されます。目覚めの一服、食後の一服、仕事の合間の一服がおいしく感じるのはこのためです。
ただし、ニコチンの影響は消えるのも早く、イライラやストレスが再び出現します。これが離脱症状で(禁断症状)、ここで喫煙すると脳波が一時的に正常に戻るだけでなく、ドーパミンも放出され、「たばこのおかげでリラックスできる」と錯覚してしまうのです。
症状
喫煙者はたばこを吸うと、リラックスしたり、頭がスッキリしたり、気分が落ち着いたりします。一方、たばこを吸わないでいると、ニコチン切れに伴うイライラ、不安感、食欲増加、集中力の低下、落ち着きのなさ、寝つきの悪さなど、さまざまな離脱症状が現れるようになります。
そして、たばこが吸えない状態が続いた後に喫煙することで、ニコチンを摂取したときの満足感が得られて不快な離脱症状が消失するため、「たばこはなくてはならないものだ」と認識してしまいます。その結果、喫煙を繰り返してしまうのがニコチン依存症の症状です。
検査・診断
ニコチン依存症の診断には、ニコチン依存症のスクリーニングテスト「TDS(Tobacco Dependence Screener)」が使用されます。これは、精神医学的な見地からニコチン依存症を診断することを目的として開発されたもので、10問の質問で構成されています。「はい」を1点、「いいえ」を0点として、合計5点以上を「ニコチン依存症である」と診断するものです。
さらに、禁煙治療を開始し、その効果の指標として用いられるのが、呼気一酸化炭素濃度測定検査(ニコチン依存性テスト)です。大きく息を吸い込んだら15秒間息を止め、測定機器のマウスピースを口でくわえて20秒ほどかけてゆっくり息を吐き出します。これによりタバコの煙に含まれる有害物質の一つである一酸化炭素を、どのくらい体内に取り込んでいるかを測定することができます。
治療
ニコチン依存症の治療は、禁煙です。禁煙するには、たばこに対する誤った認識を改め、ニコチン離脱症状を克服し、喫煙習慣に代わる習慣を身につける必要があります。
ニコチン依存度が低い人(喫煙本数が1日20本未満)は、薬局で購入できるニコチンガムやニコチンパッチを使うと、禁煙しやすくなります。ニコチン依存度が高い人(喫煙本数が1日20本以上)は、禁煙外来など専門の医療機関でカウンセリングや禁煙補助薬の処方といった治療を受けることが勧められます。
以下の4つの条件すべてに当てはまる人は、保険適用で禁煙治療を受けることができます。
- ただちに禁煙しようと考えていること
- ニコチン依存症のスクリーニングテスト「TDS」で5点以上であること
- ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上であること
- 禁煙治療を受けることを文書により同意していること
健康保険を使った禁煙治療は、12週間にわたり、合計5回の診察を受けることが基本です。診察のたびに体調のチェック、呼気一酸化炭素濃度測定、禁煙に対するアドバイス、禁煙補助薬の効果の確認と副作用の対応などを行います。禁煙が継続できるよう、ストレスをためないことや飲酒の場を避けるといった対策も必要です。
更新:2022.05.16