大動脈弁閉鎖不全症
概要
大動脈弁閉鎖不全症は、心臓の左心室という部屋から全身へ血液を送り出すときに通る心臓の出口にある「大動脈弁」が、うまく閉じなくなる病気です。心臓の出口にある大動脈弁は、送り出した血液が戻ってこないようにする「逆流防止弁」の役割をしています。この逆流防止弁がぴったり閉まらなくなり、一度送り出した血液が心臓に逆戻りしてしまうのが大動脈弁閉鎖不全症です。心臓は戻ってきた分も合わせて再び送り出さなければならず、常に「空回り」をしているような大きな負担がかかります。
日本では心臓の弁の病気は比較的多くみられます。心臓の病気で入院や外来を受診している人は年間を通じて多く、大動脈弁逆流症もその一部を占めています。とくに高齢化が進むにつれて、心臓の弁が傷んだり石灰化したりするケースが増えていると考えられています。

大動脈弁閉鎖不全症の原因
大動脈弁閉鎖不全症、さまざまな原因によって起こります。
原因は大きく分けて2つあります。一つは逆流防止弁そのものが変形したり壊れたりする場合(加齢や石灰化、生まれつきの形状など)、もう一つは逆流防止弁の外枠である大動脈が広がってしまうことで逆流防止弁の真ん中に隙間ができてしまう場合(大動脈瘤など)です。いずれも結果として、隙間から血液が漏れ戻ってしまいます。
代表的な例として、以下のようなものがあります。
- 1.先天性心疾患(生まれつきの心臓の異常)
- 大動脈弁は通常3つの弁尖(べんせん)という部分からできていますが、生まれつき2つしかないなど構造に異常があると、弁が正しく閉まりにくくなります。
- 2.加齢や石灰化
- 年齢を重ねることで、大動脈弁の組織が硬くなったり、カルシウムが沈着して石灰化したりすることがあります。その結果、弁が変形して閉じにくくなります。
- 3.感染症
- 細菌などが心臓の内側に感染する「感染性心内膜炎」などにより、大動脈弁が傷んでしまうことがあります。
- 4.リウマチ熱
- 過去にリウマチ熱を発症して大動脈弁が傷ついていると、大人になってから弁の閉まりが悪くなる場合があります。
- 5.高血圧や大動脈の拡張(動脈瘤〈どうみゃくりゅう〉など)
- 血管に強い圧力がかかる高血圧が長く続くと、大動脈が広がり、大動脈弁とのかみ合わせが悪くなることがあります。血管がこぶのように膨らむ大動脈瘤が原因になることもあります。
大動脈弁閉鎖不全症の症状
大動脈弁閉鎖不全症は、初期の段階ではほとんど症状が出ないことがあります。しかし、逆流が進んで心臓への負担が大きくなると、次のような症状がみられることがあります。
- 動悸(どうき)や不整脈:心臓がドキドキしたり、脈がとんだり乱れたりする感じが続く
- 息切れや呼吸困難:運動時に息苦しくなり、日常生活でも疲れやすくなる
- むくみ:血液の流れに支障が出るため、足などにむくみが生じやすい
- 胸の痛みや重苦しさ:血液を送り出す負担が高まると、胸の圧迫感がでることがある
- めまいや失神:血圧の変動や血行不良によって起こることがある
症状の出方は人によってさまざまですが、心臓が無理をして、かなり進行するまで自覚症状が出にくい点に問題があります。心臓が少しずつ大きくなって対応しようとしますが、限界を超えると、上記のような疲れや動悸などが急に現れます。
少しでも異常を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。
大動脈弁閉鎖不全症の合併症
大動脈弁閉鎖不全症をそのままにしておくと、心臓への負担が増えて以下のような合併症が起こる可能性があります。
- 心不全:心臓の機能が低下し、体に必要な血液を十分に送り出せなくなる
- 不整脈:心臓のリズムが乱れやすくなる
- 感染性心内膜炎:弁が傷んでいると細菌が付着しやすくなる
こうした合併症は命にかかわることもあるため、早期発見・早期治療が大切です。
大動脈弁閉鎖不全症の検査・診断
大動脈弁閉鎖不全症が疑われるとき、医療機関では次のような検査が行われます。
- 1.問診と聴診
- 医師が患者さんの症状を詳しく尋ね、胸に聴診器をあてて心雑音(*1)がないか確認します。大動脈弁逆流症では、「拡張期雑音」と呼ばれる音が特徴的です。
- 2.心電図
- 心臓の電気的な活動を波形として記録します。不整脈や心臓の負担の程度をある程度把握できます。
- 3.エコー検査(超音波検査)
- 胸に超音波の機器をあてて心臓の動きを調べる検査です。弁の状態や血液の逆流の程度を直接イメージで見ることができます。大動脈弁逆流症の診断で最もよく使われる検査のひとつです。
- 4.胸部X線検査
- 心臓や大動脈の大きさ、形などを確認します。大動脈が拡張していないかなどもわかります。
- 5.CT検査やMRI検査
- より詳しく、大動脈弁や心臓、大動脈の構造を調べる場合に行われます。手術の前など、詳細な画像が必要なときに有用です。
※1:正常な心臓の音とは違う、異常な雑音のこと
大動脈弁閉鎖不全症の治療
大動脈弁閉鎖不全症の治療は、逆流の程度や症状の有無、進行度合いなどによって異なります。主な治療法としては以下のようなものがあります。
- 1.経過観察
- 軽症の場合や症状がない場合には、定期的に医療機関で検査を受け、病状の進行をチェックします。血圧の管理や生活習慣の改善を行いながら経過をみることが多いです。
- 2.薬物療法
- 降圧薬:血圧を下げて心臓の負担を減らす
- 利尿薬:体にたまった余分な水分を排泄し、むくみや心臓の負担を軽くする
- β遮断薬など:心臓の拍動を落ち着かせて、負担を減らす
- 3.これらの薬を組み合わせて使い、症状の進行をおさえることを目指します。
- 4.手術
- 症状が進んだり、逆流が強い場合には手術が選択されることがあります。代表的な方法として、以下の2つがあります。
-
- 弁置換術:傷んだ弁を人工弁や動物の組織などを使った生体弁に取り替える
- 弁形成術:自分の弁を修復して閉まりを良くする
- 治療の基本は、これらの手術ですが、大切なのは、心臓の筋肉が伸び切って弁の形が戻らなくなる前に適切な処置を行うことです。自覚症状がなくても、定期的なエコー検査で心臓のサイズや逆流の量をチェックし、最適なタイミングを見極めることが重要になります。
- 5.手術の種類は、患者さんの年齢や健康状態、弁の状態などによって医師が判断します。
- 6.経カテーテル的大動脈弁置換術
- カテーテルという細い管を血管に通し、傷んだ弁を置き換える治療法です。胸を大きく切らずに行うため、体への負担が小さいとされますが、日本では適応となる患者さんが限定されることがあります。
大動脈弁閉鎖不全症の予防
大動脈弁閉鎖不全症そのものを完全に防ぐのは難しい場合がありますが、以下のような対策で悪化を防いだり、ほかの原因から守ったりすることができます。
- 1.血圧のコントロール
- 高血圧は大動脈弁閉鎖不全症の進行を早める可能性があります。普段から家庭用血圧計で測定し、医師と相談しながら食事や運動、必要に応じて薬で血圧を管理しましょう。
- 2.感染症対策
- 感染性心内膜炎を防ぐため、歯みがきや口の中のケアをしっかり行います。歯科治療の際には、心臓弁膜症を持っていることを歯科医師に伝えましょう。
- 3.生活習慣の改善
- 塩分を控えめにした食事や適度な運動、禁煙などを行い、心臓と血管を健康に保つことが大切です。
更新:2026.09.26






