TAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術) 大動脈弁狭窄症

大垣市民病院

循環器内科

岐阜県大垣市南頬町

はじめに

経カテーテル的大動脈弁留置術(だいどうみゃくべんりゅうちじゅつ)(Transcatheter aortic valve implantation:TAVI)は、周術期リスクが高く、外科的大動脈弁置換(ちかん)術(Surgical aortic valve replacement:SAVR)の適応とならない、もしくは高リスクな大動脈弁狭窄症(きょうさくしょう)患者群に対して、より侵襲(しんしゅう)の少ない治療として開発されてきました。2002年にフランスのルーアン大学循環器内科のCribier教授によって第一例が施行されて以来、現在までに欧米を中心に世界中で20万例以上が治療されており、世界中で急速に進歩、普及しつつある治療法です。国内においても2013年10月に保険適用され、実施施設が拡大し、年間7,000例以上の治療が行われ、一般的に普及しつつあります。

大動脈弁狭窄症とは

大動脈弁狭窄症は、大動脈弁の開口部が狭くなり、左心室から大動脈への血流が妨害(閉塞(へいそく))されている状態です。70歳未満の人では、生まれつき弁が2枚しかない先天性2尖弁(せんべん)が多くを占めています。70歳以上になると、最も一般的な原因は、加齢性変化の弁尖肥厚(べんせんひこう)(大動脈弁硬化症)ですが、リウマチ熱によるリウマチ性大動脈弁狭窄症も認められます。

診断は聴診で心雑音が聴取され見つかることが多く、心臓超音波検査によって確定診断がされます。心臓超音波検査は体の表面から行う検査で患者さんの負担も少なく、繰り返し行うことができるため、大動脈弁狭窄症の経時的な進行を知ることも可能です。心臓超音波検査によって観察する項目としては、弁尖の数、大動脈弁の動きや石灰化・癒着(ゆちゃく)の程度、実際に弁が開くときの面積、弁を通過する血流速度、左心室の収縮する力や左室肥大の程度、大動脈弁以外の弁膜症の有無など多岐にわたり、これらの情報を統合して大動脈弁狭窄症の重症度を判断します。

代表的な症状は、体を動かしたときに胸の痛みを感じる狭心症、突然意識を失ってしまう失神、体動時の息苦しさや両足のむくみなどの心不全症状などがあります。こうした症状が出現した場合には、その後の経過は非常に急速で、数年以内に命を落とすことも多いとされており、早急な対応が必要です。また突然死を起こすこともあり、慎重な経過観察と適切なタイミングでの治療介入が重要です。

しかし、大動脈弁狭窄があっても多くの方は無症状のことが多く、狭窄の程度が進み心臓の余力がなくなって初めて、さまざまな症状が出るようになります。そのため、重症の大動脈弁狭窄症で上記のような自覚症状が出現した場合にはもちろん治療が必要ですし、無症状の時期であっても、定期的に弁の状態を把握することが重要になってきます。

大動脈弁狭窄症の治療の基本は、SAVRです。つまり、手術治療とTAVIが代表的な治療となります。手術の際には、胸を切開して心臓を露出し、狭窄している大動脈弁を切り取って、新しい弁に取り替えます。取り替える弁(人工弁)には、大きく分けて生体弁と機械弁があり、それぞれに長所と短所があることから、両者を使い分けて使用します。80歳以上の高齢者や合併症のために外科的手術が適応とならない、もしくは中リスクな患者さんに対しては、TAVIが第一選択となります。それ以外にも、薬物療法やバルーン大動脈形成術といった従来型の治療法もありますが、この治療法単独でその後手術をしないと、予後を改善しないことが分かっています。

国内における展開と当院の治療成績

2013年10月から、国内でもSapien XTが保険適用を受け、TAVIが始まりました。施設基準として、ハイブリッド室を備えていること、専門医数、冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)100例、AVR(aortic valve replacement)20例、ステントグラフト10例、経食道エコー200例などの年間症例数が含まれていることが条件とされています。当院では2015年12月にTAVIを開始していますが、現在までに全国169施設がTAVI実施施設として認可され、累積で10,000人以上の患者さんに対して治療が行われています(2019年8月末日現在)。

当院におけるTAVI治療成績をここでまとめてみます。

2019年8月末現在までに、159人の大動脈弁狭窄症の患者さんに対しTAVIを行いました。手術治療成功率は100%となっており、非常に良好な治療成績を収めています。また、初期治療は、治療成功率および院内死亡率、30日死亡率も良好な成績であり、国内でも最良の治療を提供できています。特にSAPIEN 3、Evolut™ PROといった新しいデバイスが使用できるようになってからは低侵襲化が進み、95%以上の患者さんに対して、①局所麻酔+鎮静(挿管管理なしでの麻酔)をベースに、②穿刺(せんし)での治療を行っており、手術時間は30分から1時間で終えることができるようになりました。

現在、下肢(かし)からのTAVIが一般的となっており、当院において下肢アプローチで治療を行ったTAVI(143例)を、「表」にまとめました。治療した患者さんすべてにおいて治療は成功し、合併症はほとんど認めておりません。また、自宅で生活していた患者さんは、状態が悪くなって緊急で搬送された方を含めても、96.6%の方は症状が明らかに改善し、直接自宅へ元気に帰れたことは、年齢や患者さんの状態を考えると素晴らしい治療成績であると思われます。また、1年後にも88%の患者さんが生存しており(図)、平均年齢85歳で併存疾患が多い重症患者さんであったことを考えると、長期の治療効果は十分あると考えます。

症例数 , n 143
手技成功率 , n 143 (100%)
開胸への移行 , n 0 (0%)
緊急 PCPS, n 0 (0%)
院内死亡率 , n 0 (0%)
30 日死亡率 , n 0 (0%)
PM, n 8 (5.6%)
脳梗塞 , n 1 (0.7%)
主要血管合併症 , n 4 (2.8%)
表 当院において下肢アプローチで治療を行ったTAVI(143例)
グラフ
図 当院におけるTAVI治療成績(生存率)

今後の展開

現在、海外では手術リスクがない大動脈弁狭窄症の患者さんに対し、SAVRよりもTAVIの治療成績が良かったと報告がされており(1)、国内においても対象年齢が若くなることが予想されます。しかし、長期のTAVI後の治療成績については、ある程度のデータは揃っているものの(2)、10年の治療成績となるともう少し結果を待つ必要があります。そのため、現在のところ(2019年8月末日)80歳以上、または手術リスクが高い患者さんが治療対象になるものと思われます。大動脈弁逆流症に対する治療や、新しいデバイスの導入も予定されており、さらなる治療成績の改善が期待されています。当院では、その時点での手技成功や長期成績について真摯に受け止め、個々の患者さんにとって最適な治療法を、ハートチーム全員で議論し決定しています。

【参考文献】
1) Mack MJ, Leon MB, Thourani VH et al. Transcatheter Aortic-Valve Replace ment with a Balloon-Expandable Valve in Low-Risk Patients. N Engl J Med2019;380:1695-1705.
2) Sondergaard L, Ihlemann N, Capodanno D et al. Durability of Transcatheter and Surgical Bioprosthetic Aortic Valves in Patients at Lower Surgical Risk. J Am Coll Cardiol 2019;73:546-553.

更新:2022.03.14