「胃に穴があく」ことは本当にあります!
札幌医科大学附属病院
消化器内科
北海道札幌市中央区

胃潰瘍とは?
胃潰瘍(いかいよう)とは、胃の粘膜がただれ、胃壁が深く傷ついている状態のことをいいます。胸焼けや胃痛、膨満感などの症状を伴うことが多く、放置していると出血や胃に穴が開(あ)く(穿孔(せんこう)する)ことにより命が危険となることもあります。40歳以上の中高年者に発症しやすく、ピロリ菌の感染や痛み止めを使用していると20~30歳代の若い人でも発症します。
胃潰瘍の原因は?
胃潰瘍は、胃液と胃壁を守る粘液とのバランスが崩れることによって胃粘膜が傷つき起こります。その原因の1つとして、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染が有名です。
ピロリ菌とは、井戸水の摂取や幼少期の母子感染などがきっかけで胃に棲みつく、らせん状の形をした菌のことであり、除菌しない限り胃の中で生き続けることができます。50歳代以上の保菌率が多いといわれています。ピロリ菌を保菌しても必ず胃潰瘍を発症するとは限りませんが、ピロリ菌感染は胃がんの原因にもなることから、感染が判明した時点で除菌することが望ましいです。
そのほか、NSAIDs(エヌセイズ)という種類の解熱鎮痛剤や、ストレス、刺激物の過剰摂取、暴飲暴食、胃腸炎などに伴う細菌・ウイルス感染なども胃潰瘍の原因となることがあります(図1)。

どんな症状が起きるの?
みぞおちを中心とした上腹部の痛みや不快感・違和感が認められます。こういった胃潰瘍によるお腹(なか)の痛みは、空腹時または食後に出現することが多いといわれています。そのほか、背中の痛み、吐き気、胃もたれ感、食欲不振、腹部膨満感なども胃潰瘍の症状の1つです。
潰瘍から出血をきたした場合は、黒っぽい血を吐いたり、血の混ざった黒色の便が出る場合があります。出血量が多い場合、めまい、冷や汗、血圧低下などの貧血症状を伴うこともあります。胃潰瘍を放置すると、傷が深くなって胃の壁に穴が開き(穿孔)、胃の内容物が外側へ漏れ出ることで強烈な腹痛を生じる腹膜炎に至る場合もあります。
診断・検査方法は?
診断を確定するために内視鏡検査を行い、胃の粘膜の状態や潰瘍の有無などを確認することが必要です。さらに、内視鏡検査では、出血している場所があればその場で止血することも可能です。胃潰瘍は胃がんと似た形をしていることも多く、見分けることが難しい場合もあるため、潰瘍部分から組織を採取することで良悪性の判別を行うことがあります。
そのほか、潰瘍(写真)からの出血により貧血になっていないかを確認する目的で血液検査を行うことや、ピロリ菌の有無を調べるための呼気試験、尿・便検査を行う場合もあります。

どのように治療するの?
症状が軽い場合は、胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカー)の内服をしながら、外来で通院治療を行います。しかし、腹痛や貧血の症状が強い場合や、潰瘍が大きい場合、出血を伴う場合は症状や経過の観察が必要なため、入院での治療になります。内視鏡検査で胃潰瘍からの出血が認められた場合には、止血剤の注入や、出血部の血管をクリップと呼ばれる小さな金具により挟み込む、焼きつぶすなどの止血処置を行います(図2)。輸血や鉄剤の使用など、貧血に対する治療が必要なこともあります。

また、ピロリ菌の感染が判明した場合には、除菌治療も並行して行います。除菌治療は、2種類の抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬を7日間飲み続ける方法が一般的です。ピロリ菌の除菌を行うことで、胃潰瘍の再発を予防できるだけではなく、胃がんの発症を予防することができます。
更新:2024.09.23