いかいよう

胃潰瘍

概要

胃潰瘍は、食べ物を分解する働きを持つ胃酸や消化酵素が、胃や十二指腸の壁を傷つけてしまうことによって起こる病気です。

本来なら胃酸が含まれる胃液と、胃の壁を守る粘液の分泌量はバランスが保たれているので、自らの壁を傷つけることはありません。しかし何らかの要因により、この均衡が崩れたときに、胸焼けや胃痛、膨満感などの症状が現れ、悪化すると胃に穴が開いてしまいます。

胃と小腸をつなぐ十二指腸も胃酸から壁を守る機能を持っていますが、その限度を超えるほど胃酸が多く分泌されると、壁が傷つき炎症が起こります。このように胃や十二指腸の壁が傷つき、潰瘍(かいよう/ただれ)ができることを胃潰瘍・十二指腸潰瘍と呼びます。

厚生労働省 平成29年患者調査(傷病分類編)(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/)による胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者数の推移を見てみると、胃潰瘍は平成5(1993)年以降、十二指腸潰瘍は順調に患者数が減っています。この背景には、治療に有効な薬剤が出てきたことと、胃潰瘍の原因とされるピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)を除菌する治療方法が普及したことがあげられています。しかし薬剤性潰瘍の発症もあるため、高齢社会においては引き続き注意すべき病気でしょう。

グラフ
グラフ:胃潰瘍・十二指腸潰瘍の推計患者数の推移(厚生労働省 平成29年患者調査(傷病分類編)より作成)

原因

胃潰瘍が発症する原因は、多くがピロリ菌の感染です。次に、解熱鎮痛剤の一種である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用とされています。そして喫煙、ストレスなどが発症の引き金になるといわれています。

ピロリ菌は胃の中でも生き続けられる細菌で、胃の粘膜に炎症を起こします。その結果、胃の壁を守る粘液の分泌が減り、胃酸が壁を傷つけて潰瘍を起こします。非ステロイド性抗炎症薬は、胃の粘膜を守る物質を抑える働きを持つために、胃の中のバランスが崩れて胃潰瘍が起こるとされています。しかしピロリ菌やこの薬剤だけで胃潰瘍ができるわけではなく、複合的な要因によって発症すると考えられています。

症状

最初に現れる主な症状は、みぞおちあたりの鈍い痛みで、食後に痛みが出ることが多いとされています。原因や潰瘍がどのくらい胃の働きを妨げているかによりますが、胸焼け、胃のもたれ、腹部膨満感、げっぷ、吐き気、嘔吐(おうと)、食欲不振などが起こります。潰瘍が進んで胃壁の血管を傷つけると出血が起こり、黒色便やタール便などの下血(げけつ)や血を吐くといった症状が出ることがあります。出血が多い場合には、激しい腹痛や冷や汗、血圧低下、貧血を起こすこともあり、胃の壁に穴が開いてしまうと、胃の中のものが腹腔内に漏れ出し、激しい痛みを伴う腹膜炎を発症することもあります。

検査

ピロリ菌の感染検査には、血液検査や迅速ウレアーゼ試験などが行われますが、より確実な診断のためには、下記のような検査を行います。

X線造影検査(バリウム検査)

バリウムを服用し、体の向きを変えながらX線による撮影を行います。

上部消化管内視鏡検査(内視鏡検査)

口、または鼻から内視鏡を入れ、胃と十二指腸を調べます。胃の粘膜の状態や潰瘍の様子を確認し、症状がどのくらい進んでいるのかを見ます。検体採取も可能で、症状が似ているほかの疾患との違いの見極めも行われ、ピロリ菌の診断も可能です。

治療

胃潰瘍の治療は、原因によって選択されます。ピロリ菌の感染が原因であった場合は、除菌療法が行われます。非ステロイド性抗炎症薬の服用が原因であった場合には、まずはこの薬の服用を中止することを考えた上で治療が進められます。

除菌療法

抗生物質による除菌を行います。同時に胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬などを服用します。抗生物質は数種類あり、最初に服用した夜具債の効果が見られなければ別の種類で除菌を試みます。

内視鏡による止血

出血がある場合は、内視鏡を入れて止血剤を注射するか、あるいは小型のクリップをかけて止血を行います。壁に穴が開いている場合には、手術が検討されます。

更新:2022.05.26