だつもうしょう

脱毛症

概要

「生える」と「抜け落ちる」を繰り返す一定の周期をヘアサイクル(毛周期)といいます。毛髪が成長する成長期、成長が減速する退行期、抜けるまでの休止期の3段階に分けられます。成長期は通常2~6年ほどで、毛髪全体の9割が成長期にあるといわれています。このサイクルが乱れて、成長期が短くなり、抜け落ちるのを待つ休止期の毛髪の割合が増えると、次第に薄毛化が進みます。その中で、男性の生理現象として起こる脱毛症が男性型脱毛症(AGA)で、更年期に多く発症する女性の脱毛症を女性型脱毛症(FPHL)といいます。

図
図:毛髪の構造とヘアサイクル

種類と原因

脱毛症は、遺伝子の異常などによる「先天性」と、何らかの原因によって起こる「後天性」に大別できます。後天性の脱毛症は、男性型脱毛症、女性型脱毛症、円形脱毛症のほか、やけどやけが、ほかの疾患、薬剤の影響などによっても起こります。

男性型脱毛症

日本人男性では20歳代後半から30歳代にかけて発症し、その後徐々に進行するのが一般的です。発症頻度は全年齢平均で約 30%とされています。

男性型脱毛症の発症には、遺伝と軟毛化を引き起こす男性ホルモンが関与しています。頭皮の毛根に皮脂が詰まるために毛根が死滅するという説がありますが、男性型脱毛症の人とそうでない人の頭部の皮脂量には、違いがないことが確認されています。

女性型脱毛症

女性型脱毛症は男性型脱毛症とは異なり、更年期に発症するケースが多く観察されます。そのことから、女性ホルモンの低下やホルモンバランスの乱れが発症の原因になるとも考えられています。ほかの疾患や急激なダイエットなども原因と考えられますが、発症のメカニズムは完全には解明されていません。

円形脱毛症

円形脱毛症の発症には男女差はなく、全年齢層に起こります。甲状腺疾患や尋常性白斑(じんじょうせいはくはん)のほか、関節リウマチや1型糖尿病などの自己免疫性疾患を合併することも特徴で、円形脱毛症は、毛包(もうほう)組織に対する自己免疫疾患であると考えられています。また、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などのアトピー性疾患を合併することも報告されていることから、アトピー素因が発症に関与している可能性もあります。

症状と診断

脱毛の状態はタイプ(病型)によって異なります。男性型脱毛症は、前頭部や頭頂部の頭髪が軟毛化して細く短くなり、女性型脱毛症は、頭頂部を中心として毛の数が減り、細くなるのが特徴的です。

円形脱毛症では、多くは円形の脱毛斑(だつもうはん)が、毛髪が生えているあらゆる部分に発生します。一般的な症状とはいえませんが、脱毛前や活動期に軽いかゆみや違和感、淡い発赤(ほっせき)を自覚することもあります。

診断

脱毛症の診断では、まず問診で脱毛症状の経過や治療歴、家族歴、既往歴、合併症などを明らかにし、視診やダーモスコピーという拡大鏡を使用した検査で、脱毛の特徴や毛包の状態を観察します。ほかの疾患が原因の脱毛症と区別するために、頭だけでなく全身の観察や、血液検査を行う場合もあります。

男性型脱毛症は、遺伝と男性ホルモンが大きく影響することが分かっていますが、血中の男性ホルモンは正常値であるため、診断のための血液検査は、薄毛の原因としてほかの疾患が疑われるときに行います。

女性型脱毛症の診断では、慢性休止期脱毛、膠原病(こうげんびょう)や慢性甲状腺炎などの全身性疾患に伴う脱毛、貧血や急激なダイエット、その他の疾患による脱毛を除外することが大切です。

治療

男性型脱毛症に効果があると認められている薬は、ミノキシジル(外用薬)、フィナステリド(内服薬)、デュタステリド(内服薬)です。フィナステリドは、もともと泌尿器科疾患のために開発された薬ですが、副作用として多毛の症状がよく見られたことから、発毛剤としての用途が広がりました。男性型脱毛症は、まれに女性にも発現することがありますが、フィナステリドは、更年期以降の女性には効果がなく、妊活中および妊娠中、授乳中の女性には胎児や乳児に悪影響を及ぼすことから、服用が禁じられています。デュタステリドもまた、女性型脱毛症の治療には用いるべきではないとされています。

円形脱毛症は自己免疫疾患であるといわれているため、男性型脱毛症に有効とされる治療法では効果が得られません。成人で脱毛斑が単発または多発している場合には、ステロイド局所注射が選択されます。年齢を問わず有効とされるものに局所免疫療法がありますが、現在は保険適用ではないため、自費診療となります。

更新:2022.05.26

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