あとぴーせいひふえん

アトピー性皮膚炎

概要

「アトピー」という言葉は、「奇妙な」を意味するギリシャ語「atopos」に由来するといわれています。厚生労働省の調査によると、2017年の総患者数は全国に51万3000人で、近年増加傾向にあります。

アトピー性皮膚炎を定義する要件には、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すこと、強いかゆみのある湿疹が認められること、多くの患者さんにアトピー素因があることが挙げられています。

アトピー素因とは、家族にアトピー性皮膚炎を発症した人がいる(家族歴)、本人や家族が気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちのいずれか、あるいはいくつかにかかったことがある(既往歴)、アレルギー反応に関与する免疫グロブリンE(IgE抗体)というタンパク質ができやすいことを指します。

図
図:正常な皮膚の状態とアトピー性皮膚炎の比較

原因

アトピー性皮膚炎の発症には、アトピー素因と肌のバリア機能が関係しています。皮膚の角層の下に異物が侵入すると、体内の免疫細胞が反応し、その結果、皮膚に炎症が起こります。炎症部位から発現した物質が脳に働きかけることで、かゆみが生じます。

角層は十数層の角質細胞と細胞間を埋める細胞間脂質という物質で構成され、異物の侵入を防いでいます。これが肌のバリア機能です。バリア機能については、生まれつき、保湿因子が少ない、細胞間脂質が少ないという遺伝的な要因もあります。さまざまな研究によってドライスキン(乾燥肌)もアトピー性皮膚炎の発症に関係することが分かってきました。

アトピー性皮膚炎の悪化要因として、ダニやホコリ、花粉、ペットの毛などは比較的よく知られていますが、唾液や汗、乾燥、毛髪、衣類の摩擦なども要因と考えられています。乳児の場合、ごくまれに食物アレルゲンが関与することがありますが、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは別の疾患であることを理解して、独断で特定の食物除去を行うことは避けたほうが賢明です。

症状

強いかゆみを伴う湿疹が特徴です。かゆみに耐えきれず、掻(か)いてしまうことで、肌のバリア機能が損なわれ、しばしば症状の悪化を招きます。肌の状態やかゆみの程度は、良くなったり悪くなったりを繰り返します。

湿疹は、おでこや目・口・耳の周り、首、手足の関節の柔らかい部分に多く認められますが、年齢によって傾向が異なります。

乳児期には頭や顔に赤い発疹(ほっしん)が見られることが多く、次第に手足に広がっていきます。幼小児期になると、首の周りや、肘(ひじ)の内側や膝(ひざ)の裏側などに強いかゆみを伴う湿疹が現れる傾向にあります。思春期から成人期には、上半身に多く湿疹が見られるようになります。

診断と治療

強いかゆみや反復性があることのほか、紅斑(こうはん)、漿液性丘疹(しょうえきせいきゅうしん)、苔癬(たいせん)といった湿疹の特徴や分布も、アトピー性皮膚炎の診断基準になります。漿液性丘疹とは、皮膚から隆起したもので上部に水泡があるものをいいます。紅斑とともに急性期によく見られる病変です。苔癬は、皮膚がゴワゴワした状態になることで、慢性期の特徴的な病変です。

アトピー性皮膚炎の診断には、アレルギー体質かどうかの確認や重症度の評価のために血液検査も行われます。

治療の3本柱は、皮膚の炎症やかゆみを抑えるための薬物療法、肌のバリア機能を健全にするスキンケア、発症・悪化の要因となる因子の除去です。

炎症の鎮静化にはステロイド外用薬とタクロリムス軟膏が用いられることが一般的です。スキンケアで大切なのは、皮膚を常に清潔に保つことと保湿です。ドライスキンの改善は尿素軟膏、白色ワセリンなどが用いられます。アトピー性皮膚炎に使用される内服薬としては、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬があります。抗ヒスタミン薬はかゆみを起こす物質であるヒスタミンを抑制する効果が期待できます。

関与が疑われるアレルゲンを皮膚に直接つけて反応を見るスクラッチテストなどで発症や悪化の因子を突き止めたら、それを取り除く生活改善も不可欠です。

乳児期に発症した場合には比較的短期間で寛解(かんかい/病気の症状が一時的あるいは継続的に軽減した状態)に至りますが、成人の場合は治療が長期化することも少なくありません。治療に前向きに取り組むためには、医師との信頼関係が不可欠です。不安や悩みを打ち明けられる関係性を築くことが、ストレス軽減にもつながります。

更新:2022.05.26