生物学的製剤による治療 尋常性乾癬

大垣市民病院

皮膚科

岐阜県大垣市南頬町

尋常性乾癬とは

尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)は炎症性角化症という皮膚疾患の1つで、肘頭(ひじがしら)・膝頭(ひざがしら)・頭皮などの好発部位を中心として、全身に紅斑・銀白色雲母状の鱗屑(りんせつ)(かさかさ)を生じ、時に痒(かゆ)みを強くともなう慢性疾患です。湿疹や脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)(ふけ症)などと思われている場合もあり、多くの患者さんがいる病気です。非リウマチ性関節炎を合併したり、全身の膿疱(のうほう)・発熱を生じるタイプもあります。

病因は不明ですが、遺伝的素因が基盤にあると考えられています。また、感染症・糖尿病・メタボリック症候群・薬剤・ストレスなどが発症・悪化の引き金になることがあります。

生物学的製剤

治療は外用剤(副腎皮質ホルモン外用薬・活性型ビタミンD3外用薬)が基本で、中等症の例に紫外線による光線療法(ナローバンドUVBといわれる、効果があり副作用の少ない特定の波長を用いることが中心です)を追加します。重症例では免疫調整剤(シクロスポリン)・ビタミンA誘導体内服薬などを組み合わせて治療しますが、皮疹の改善率50~70%程度が目標でした(図)。

図
図 治療の考え方

しかし、2010年から生物学的製剤といわれる注射剤が皮膚科領域でも使用できるようになり、状況が一変しました。徐々に新薬が登場し、現在8種類あります。QOL(生活の質)改善も含めた重症乾癬に使用することにより、皮疹の改善率が70~100%に達し、皮疹なしでコントロールできる場合もあります。以前の治療ではほとんど改善の見られなかった、爪症状にも有効性が報告されています。

この系統の薬剤は効く部位によって大きく3種類に分けられます。病気の発症原因から皮膚症状までの過程(病態カスケード)を、効く作用部位から「川の上流・中流・下流」と川の流れにたとえられます。発症過程の最初の方で効く薬剤は、広い範囲に関わる部位を止めるため合併症など、他の症状改善にもつながります。これらの薬剤は関節リウマチなどにも使用されています。川を上流で堰き止めると非常に広い流域に影響を及ぼすことと同様に考えられます。発症過程の末端で効く薬剤はこの疾患に特異的に強く効きます。川の下流で堰き止めると影響される流域は狭くなりますが、ほかへの影響が少なくなります。それぞれ長所・短所があり、使い分けていくことになります。

重症度が高い場合、皮疹の体表面積に占める割合の高い場合、著しくQOLが阻害されている場合が適応の一つの基準です。ただ、関節症がある場合は、進行や関節破壊を防ぐためにも早期の導入が必要なことがあります。

使用にあたっては、感染症のリスクがあり、他科との連携が必要になるため、日本皮膚科学会で使用施設基準が定められ、西濃地区では当院のみとなっています。内科との連携・救急外来での対応・検査体制・皮膚科専門医の常勤などで審査されます。近隣の開業医の先生方からも、適応と考えられる場合はご紹介いただいています。

当科での対応

適応条件に一致しているか、リスクとなる感染症はないかなどを検査・検討し、患者さんの症状(皮疹の範囲や程度、QOL、関節痛の有無)、条件(可能な通院頻度・健康保険の種類、併存する内科疾患)、薬剤の特性(投与方法・投与間隔・入院の必要性・有効性・副作用・自己注射の可否)を加味して、薬剤を選択しています。

当院では45例(2019年8月まで)に使用実績があり、岐阜県では有数の症例を治療しています。効果・通院などの関係による薬剤変更は4例、中止は3例となっています。約半数は皮疹が消退し、ほかの治療が不要になっています。

高価なことが欠点の1つですが、高額医療の申請を行い、負担額に目安をつけます。薬剤によっては自己注射が可能となり、通院回数・自己負担を軽減できます。希望される方にはスタッフが指導しています。

乾癬に対しては近年、生物学的製剤の適応まではいかない難治例に対して、新しい内服薬が承認され、また保険適用で処方するシャンプー剤が上梓され、治療の幅が広がっています。

●掌蹠膿疱症

2018年、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)(手掌(しゅしょう)・足底中心に膿(うみ)をもったぶつぶつができる膿疱症の1つ)に1種類薬剤の適応が認められました。喫煙や扁桃炎・副鼻腔炎(蓄膿症)・虫歯などの慢性感染症が病因の一つと考えられていますが、原因不明も多くあります。

一般的に治療は、原因療法・対症療法・生活指導に大別されます。原因療法では、扁桃や歯牙感染・副鼻腔炎などの病巣感染の治療、金属パッチテスト陽性の場合は歯科金属除去などを行います。生活指導は禁煙指導が重要になります。対症療法は外用療法・内服療法・光線療法などを行います。慢性で軽快増悪を繰り返す重症例は難治で有効な治療がなかったため効果が期待されています。鎖骨部の腫脹(しゅちょう)・痛み、脊椎炎(せきついえん)などを伴う症例でも有効性が示されています。現在まで、当院でも2例開始しています。

●化膿性汗腺炎

2019年、化膿性汗腺炎(臀部慢性膿皮症(でんぶまんせいのうひしょう)・頭部乳頭状皮膚炎ともいわれる、慢性の膿がでる病気)に1種類の薬剤の適応が認められました。

この病気は毛穴の詰まりから始まる炎症が原因と考えられています。毛穴が詰まり内容物がたまり、周囲に漏れ出すため、反応して炎症を生じ、繰り返すことから慢性化していきます。20~40歳代、おしり・脇の下・足の付け根に好発し、QOLを大きく損ねる可能性があります。重症例は難治で有効な治療がなかったため、炎症の沈静効果が期待されています。当院でも2例開始しています。

●アトピー性皮膚炎

2018年から、生物学的製剤の仲間で、アレルギーの反応を抑える薬剤が使用できるようになりました。一般的治療に抵抗性の重症アトピー性皮膚炎に対して保険適用があり、高い有効性を示しています。使用にあたっては、皮疹の範囲・程度から重症度を判定する適応基準が作られています。当院でも23例(2019年8月まで)に使用し、皮疹やQOLの改善に効果を確認しています。中止は1例、転居による他院紹介が2例となっています。今後、乾癬のように薬剤が増えていき、治療の選択の幅が広がることが期待されています。

●慢性蕁麻疹

日常、多くの方が経験したことのある疾患に蕁麻疹(じんましん)があります。さまざまな病型がありますが、直接的な原因・誘因がなく、自発的に出現する特発性蕁麻疹が多くを占めています。6週間以上経過したものは、慢性特発性蕁麻疹と分類され、難治性です。抗ヒスタミン薬(かゆみ止め)やいくつかの内服薬で改善がみられない場合、生物学的製剤の抗体薬が2017 年に承認され、日本・欧米のガイドラインで推奨されています。

当科でも8例に使用し、十分な効果を得られています。検査値で有効性を検討し使用しています。アナフィラキシーに対応できる医療機関でのみ使用となっています。

まとめ

乾癬・掌蹠膿疱症・化膿性汗腺炎や、重症アトピー性皮膚炎・慢性蕁麻疹で既存の治療に効果が十分でない症例に対して、有効な治療が安全に使用できるようになりました。かかりつけ医に相談の上、専門医を受診してください。

更新:2022.03.08