早期治療で、正確な整復を目指す 顔面骨骨折

大垣市民病院

形成外科

岐阜県大垣市南頬町

はじめに

形成外科は特定の臓器を持たない診療科だといわれます。形成外科とは、先天的あるいは後天的な身体外表の形状、色の変化、すなわち醜状(しゅうじょう)を対象とし、機能はもとより形態解剖学的に正常な状態となるよう特殊外科技術で治療する科です。外見を治すことで、個人の生活の質を向上させ、社会精神面にも関与しています。顔面を中心に、全身の目に見える正常でないところは形成外科の守備範囲といえます。対象疾患は、①熱傷・凍傷・化学損傷、②頭頚部(とうけいぶ)・顔面の外傷・骨折・先天異常、③眼瞼(がんけん)の治療(眼瞼下垂(がんけんかすい)、睫毛内反症(しょうもうないはんしょう)・外反症(がいはんしょう))、④口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)、⑤手・足の外傷・骨折・先天異常、⑥その他、耳(小耳症(しょうじしょう)、埋没耳(まいぼつじ))、臍(へそ)(臍(さい)ヘルニア)、胸郭(きょうかく)(漏斗胸(ろうときょう))などの先天異常、⑦皮膚皮下組織を中心とした良性腫瘍(しゅよう)、⑧悪性腫瘍およびこれらの切除後の組織再建・乳房再建、⑨瘢痕(はんこん)・瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく)・ケロイド、⑩序クス・難治性皮膚科潰瘍(かいよう)(糖尿病壊疽(えそ)、重症下肢虚血(きょけつ))、⑪美容外科と、全身に及びます。特に当院は、顔面の外傷である皮膚軟部組織損傷、特殊な涙道損傷、顔面神経損傷、唾液線損傷や、顔面骨骨折の症例が多いことが特徴です。西日本ではトップレベルの手術件数であり、眼窩(がんか)骨折に関しては2013年全国1位の手術数となりました(図1)。そのため、手術法や手術機械、再建材料にはこだわりをもって治療を行っています。今回は、顔面骨骨折の治療について紹介します。

グラフ
図1 当院の新鮮顔面骨骨折症例数

1.鼻骨骨折、鼻中隔(びちゅうかく)骨折、鼻篩骨(びしこつ)骨折

鼻骨骨折

鼻骨骨折は、顔面骨骨折の中で最も多い骨折です。受傷して10日以内であれば徒手整復が可能で、単純な鼻骨骨折は外来での局所麻酔で整復できます。鉗子(かんし)を用いて変形を修正、整復し、整復後は整復位を保つためと止血目的で、込めガーゼを鼻腔内にパックとして5日間挿入して固定します。同時に外固定はプラスチックギプスで2週間行います。

鼻骨鼻中隔骨折、鼻篩骨骨折

これらの骨折は変形が複雑で、徒手整復のみの治療では不十分です。後戻りや短鼻・鞍鼻(あんび)をきたすことが問題となります。このため当院では、独自のワイヤー固定による治療法を生み出し、早期の積極的治療で良好な結果を得ています。鼻骨鼻中隔骨折は5日以内に、鼻篩骨骨折は破壊された鼻粘膜が拘縮をきたし短鼻形成するため3日以内に、この手術法で整復しプレート固定します。全身麻酔で行い、整復後はプラスチックフィルムを左右の鼻中隔に挿入し、左右の上顎骨(じょうがくこつ)から対側の上顎洞にワイヤーを挿入して、4~6週間固定します(写真)。

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写真 鼻篩骨骨折の治療経過
①鼻篩骨骨折術前。短鼻、鞍鼻形成している
②受傷2日目に整復後、ワイヤー・フィルムにより固定。
短鼻、鞍鼻が整復されている
③術後2年。形態は維持されている

2.眼窩底・内側壁骨折(ブローアウト骨折)

眼球の収まっている眼窩は、下壁と内壁が薄く、眼球に急激な衝撃が加わると副鼻腔(ふくびくう)内に吹き抜けるように骨折を起こします。この骨折には、吹き抜けタイプと線状タイプがあります。線状タイプは若年者に多く、外眼筋が嵌頓(かんとん)するため24時間以内の緊急手術が必要となりますが、当科で対応可能です。吹き抜けタイプは、3、4日以内に手術を行います。治療法は下眼瞼、結膜切開からアプローチし、眼窩内容・骨折部の整復、骨欠損に対し、吸収性プレートやチタンプレートを挿入します(図2)。

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図2 眼窩底・内側壁骨折の治療経過
①術前:眼窩底・内側壁骨折
②術後:受傷3日目に吸収プレートで再建

3.頬骨(きょうこつ)骨折・頬骨弓骨折

頬骨は周囲の前頭骨、側頭骨、上顎骨と3点で結合しており、外力によりこの3点が骨折します。治療は、変位した頬骨の整復と固定を全身麻酔で行います。眉毛外側、下眼瞼や眼瞼結膜および口腔(こうくう)内を切開して骨折部を露出し、直視下に整復してプレートやワイヤーで固定します。当科はプレート材にこだわりを持ち、粉砕骨折では金属プレートを使用。一方、粉砕が少ない骨折や小児、思春期の成長が影響する症例では、半年後、1~2年後、4~5年後にそれぞれ吸収する各吸収性プレートを使用し、使い分けています。

4.顔面多発骨折(Le fort型骨折)

Le fort型多発骨折は、顔面の中央1/3に広範で強い外力が作用して起こります。Ⅰ~Ⅲの3つの型に分類されていますが、定型的でないものがほとんどで、鼻篩骨骨折、頭蓋底(とうがいてい)骨折、眼窩骨折の合併や頭蓋内損傷、眼球損傷など、身体他部にも損傷を合併することが多いため、救急時にはその治療が優先され、顔面骨骨折は亜旧性~陳旧性骨折になりやすいといえます。陳旧例になると、軟部組織の瘢痕化も加わり治療はより困難となるため、良い形態と機能再建のためには早期の適切な治療が大切です。治療は多部位の顔面骨骨折と同様、変異の整復と機能の回復、さらに審美的な回復を目的とします。当科の経験から、術前の総合的な病態の把握と綿密な治療計画のもと、まず治療が難渋する短鼻変形を予防するため、鼻篩骨骨折治療で前述したワイヤ―・フィルム整復固定を超早期に行います。そして、全身管理が安定したあと、Le fort型骨折の整復をし、プレートで固定します(図3)。

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図3 顔面多発骨折の治療経過
①顔面多発骨折術前、②術直後、③術後2年

おわりに

当院では早期治療、整復材料にこだわり、追求し、正確な整復を心がけています。また術前術後の画像データを分析して、今後のより良い治療に役立つよう努力しています。また新鮮例だけでなく、陳旧例である顔面変形が残存した治療にも取り組んでいます。

更新:2022.03.08