慢性肝炎疾患のトータル治療 ウイルス性肝炎・脂肪肝から肝細胞がんまで

大垣市民病院

消化器内科

岐阜県大垣市南頬町

肝炎の診療と肝細胞がん予防

肝臓は右上腹部に存在する臓器で、腸管から吸収された栄養(アミノ酸など)を肝臓に運んで、アルブミンなどのたんぱく質や脂質、凝固因子などを作る役割、体内で発生するアンモニアなどの有害な物質を処理し解毒する役割、糖質などを体内へ蓄積する役割などを担う臓器です。

肝に持続的な炎症=慢性肝炎の状態が続くと、炎症が継続することにより肝機能の低下、肝硬変(肝臓の線維化の進行=硬くなること)への移行、肝発がんをきたす可能性があり、「肝炎の治療」はこれらの抑制が主な目的です。肝臓は沈黙の臓器といわれ、肝炎の状態では多くは無症状でも、肝臓の機能が低下したことによる症状(腹水、浮腫(ふしゅ)、静脈瘤(じょうみゃくりゅう)、肝性脳症など)が出現した時点ではすでに肝硬変と考えられます。肝硬変に至った状態では肝機能の改善は難しく、発がんのリスクも高い状態であると考えられるため、肝硬変に至るまでに早期に診断を行い、治療や経過観察を行う必要があります。ウイルス性肝炎が原因となるため、それらの治療介入を早期から行うことが必要ですが、最近は非ウイルス性肝疾患(アルコール性肝疾患、NAFLD=非アルコール性脂肪性肝疾患など)からの発がんがあり、定期検査での拾い上げが難しい集団からの発がんも増加しています。

またウイルス性肝炎を治療し、ウイルスが陰性化=血液中に検出されなくなったとしても発がんのリスクはゼロになることはないため、経過観察は継続的に必要です。

「肝炎の治療」は症状がない時点からの経過観察、治療が重要であり、肝硬変への移行、発がんの抑制を行うことが主な目的となります。その各疾患について、以下に述べます。

ウイルス性肝炎の治療の進歩

慢性経過をたどる慢性肝炎で主な疾患となるB型肝炎、C型肝炎について述べます。

B型肝炎は出産時や乳幼児期にB型肝炎ウイルス(HBV)に感染すると、多くは非活動性キャリアとなり、安定化します。しかし、一部の方ではウイルスの活動性が持続して慢性肝炎から年率約2%で肝硬変へ移行し、肝細胞がん、肝不全に進展します。B型肝炎治療の目標は、こうした肝細胞がん、肝不全への移行を予防することであり、インターフェロン治療や核酸アナログ製剤を使用して治療を行います。患者さんの免疫応答状態とウイルスのDNAの増殖状態を把握した上で、適切に治療を行っています。

現在は核酸アナログ製剤の進歩により、発がんはかなり抑制することができるようになりました。それでも発がんする患者さんには、適切に治療・経過観察を行うことによって早期治療介入を行っています。

当院では1994年から2018年の間に3,344例のHBVキャリアの患者さんの診療を行い、核酸アナログ製剤を使用した患者さんにおいては10年で3.3%の発がん率、同製剤を投与しなかった患者さんは10年で40.0%という治療経過で、発がん率の低下を認めています。現在もB型肝炎に対しては新しい作用機序の新規治療薬の開発が進められており、今後もこれら治療オプションを組み合わせた治療を行っていくことが期待されています。

C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)に感染すると、ほとんどが持続感染となり慢性肝炎へと移行します。慢性肝炎になると、B型肝炎同様に発がん、肝硬変への移行を認めるため、抗ウイルス治療でHCVの排除を目指します。過去にはインターフェロン治療(IFN)でのウイルスの排除は5%程度でしたが、現在ではIFNを使用しない、直接型抗ウイルス薬(direct acting antivirals;DAA)の出現により、ほぼ全例でウイルスの排除が可能になりました。しかし、ウイルス治療を行っても肝細胞がんの発生はゼロにすることはできず、20年の経過観察で8%程度の発がんがあると報告されています。

当院では抗ウイルス治療前に、MRI検査を使用することにより肝細胞がんの前がん病変である非濃染結節の検出、経過観察を行うことで、早期に発がんを発見できるよう試みています。2014年から2016年には、561例のDAA治療での抗ウイルス治療を行っています。同治療前にMRI検査を実施することによって、治療前に非濃染結節がある方は発がんリスクがあることを見出しており、抗ウイルス治療後にも慎重な経過観察を行っています。

脂肪肝における現状と治療

脂肪肝というと、いわゆる「肥満」に伴い、肝臓に脂がのる状態、とだけ一般的には認識されることが多いのですが、脂肪肝も長期的にはさまざまな病気を引き起こします。ここではアルコールを飲まない人による、いわゆる非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)について述べます。

NAFLDは肥満、糖尿病などのメタボリックシンドロームを基盤に発症することが多く、メタボリックシンドロームの肝病変と捉えられています。これらはNAFLDの中でも進行性で、肝硬変や肝がんの発生母地になる非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)に分類されます。NASHは採血などでの精密検査が必要ですが、最終的には肝生検による診断が重要です。

ただし、脂肪肝がある方が全員、肝硬変や肝細胞がんになるとは言い切れず、実際に肝臓の線維化=硬さが進んでいるかどうかが、その患者さんの生命予後を決めると報告されており、線維化の程度によって生命予後が決まる可能性が高くなります。そこで当院では、NASHが疑われる患者さんには積極的に肝生検も進めています。肝生検は肝臓に針をさして組織をとるため、短期ですが入院が必要です。肝生検を行うべきかどうかは、まず侵襲(しんしゅう)の少ない検査を行って判断しています。

当院では、年齢、採血(AST、ALT、血小板)から算出するFIB-4 indexのほか、エコー検査で肝臓の硬さを測定する超音波エラストグラフィ、MRI検査で肝臓の硬さを測定するMRエラストグラフィを測定する設備が整っており、まずは侵襲の少ないこれらの検査を併用しながら、線維化の評価、NASHの可能性を考慮し、必要に応じて肝生検や治療介入、経過観察を行っています。

また、2006年から2016年において9万件弱の腹部エコー検査を行っており、その中で脂肪肝のある方は13,368例を認めています。先述のFIB-4 indexの高い患者さんと低い患者さんで比較すると、当院でもFIB-4 indexが高い患者さんでは長期的に死亡率が高く、悪性腫瘍(しゅよう)、心血管系の病気が多いことが分かっています。さらに、当院外来では脂肪肝で必要な生活習慣の改善のほかに、NASHなどの治療に対する新薬の治験や、他病院との連携を取りながらの研究治療も積極的に行っており、最新の治療を提供できる場も設けています。

NAFLD以外では、飲酒も脂肪肝、肝障害の原因となります。慢性的に過剰な飲酒が続くと、肝障害が認められ、膵臓、腎臓、脳、血液、神経など多数の臓器に影響を及ぼします。アルコール性肝障害に対しては禁酒、節酒で治療を行うしかなく、なかなかやめることができない方も多いのが現状です。しかし、1994年から2018年にかけて当院外来で過剰飲酒が判明している703例の患者さんを見てみると、286人に肝硬変を認め、肝機能の低下や線維化が進行(肝臓が硬くなる)している患者さんは肝臓が原因で、腎機能が悪い患者さんは肝臓以外が原因で亡くなることが分かっています。過剰な飲酒の継続は生命予後(寿命)を縮めるため、注意が必要です。

これら肝炎治療を行うことにより、肝発がんの抑制や、肝硬変への移行の抑制を行い、適切な経過観察や肝臓の評価をしています。また、当院では発がん時にも積極的な肝細胞がんに対する治療の実施、さらに総合的な肝疾患治療を行っています。

更新:2024.01.25