集中治療室における早期離床・リハビリテーションの取り組み 患者さんの機能的予後改善のために

大垣市民病院

リハビリテーションセンター 

岐阜県大垣市南頬町

早期リハビリテーションの重要性

集中治療室(以下、ICU)における治療は、「救命が第一の目的であり、救命された患者さんの機能的予後は二の次である」。これが、以前の集中治療の考え方でした。しかし医療の進歩とともにICUでの救命率が向上し、近年ではICUでの入院管理が身体や精神の機能に及ぼす影響にも注目が集まるようになりました。重症敗血症や全身性炎症に伴う多臓器不全、高血糖、副腎(ふくじん)ステロイドや筋弛緩薬の使用、またそれらに伴った身体の不活動性などによって生じる神経筋障害(ICU-acquired weakness:ICU-AW)(*1)や、ICUで治療中の重症症例の約3分の2が発症するとされるせん妄(ICU-acquired delirium:ICU-AD)(*2)などがこれにあたり、その他メンタルヘルスの問題と併せてICU退室後も長期にわたり継続することが知られており、生命予後にまで影響するとされています(*3)(post-intensivecare syndrome:PICS、ICU後症候群)。

これら合併症の予防、改善に向け、ICUからの早期リハビリテーションの重要性が謳われ、国内でもさまざまな施設でICU内におけるリハビリテーションを強化するため、ICUに理学療法士を配置する施設が増えてきました。当院では、それに先駆け2007年からICU専属の理学療法士を配置し、リハビリテーションを実施してきました。

ICU専属理学療法士の活動内容

ICUでの早期離床を実施する際には、全身状態の変化に注意することはもちろんですが、それ以外にも、人工呼吸器をはじめとする各種医療機器や薬剤、ルート類などへの注意と知識が必要です。専属の理学療法士を配置することで、一般病棟では見慣れない環境下での安全かつ効果的なリハビリテーションの実施を可能としています。

また、リハビリテーション医師を兼務している呼吸器内科医師と毎日、回診およびカンファレンスを行い、リハビリテーションの方針や実施内容の決定のみではなく、人工呼吸器の早期離脱に向けた呼吸管理サポートを行っています。さらに、毎日の集中治療医回診に参加することで、他職種との情報共有を図っています。

呼吸リハビリテーションの取り組み

さまざまな理由でICUに入室となった患者さんには、人工呼吸管理を要する場合が多々あります。しかし挿管人工呼吸管理を行うことには、さまざまな合併症を併発するリスクが存在します。その一つにVAP(人工呼吸関連肺炎)という呼吸器合併症があり、発症率は8~20%とされています(*4)。また、長期人工呼吸管理になるほど発症率が増大することが知られています(*4)。VAPは発症すると、その死亡率は20~50%と高く、また人工呼吸日数、ICU在室日数を数倍に延長させるともいわれています(*5)。当院では早期離床と並行し、呼吸リハビリテーションとして体位管理や、リクルートメント手技(虚脱した肺に圧力を加え膨らませる方法)にも力を入れており、過去の自験結果にて、VAP発生を防止する可能性を示しました(表)(*6)。

T1(理学療法なし) T2(理学療法あり)
挿管人工呼吸管理数
(48 時間以上)
211
(122)
224
(111)
無気肺数
入室前より
入室後新たに
84
44
40
62
36
26
無気肺解除例 10(11.9%) 17(27.4%)
人工呼吸期間(日)
無気肺なし
無気肺あり
7.3±12.1
5.1±6.0
10.6±17.3
7.1±11.4
5.7±8.2
10.8±16.8
VAP 発生数
無気肺関連
死亡
VAP 関連死亡
25(22.5/1,000 人工呼吸日)
16(64%
12(48%)
6(24%)
1(0.64/1,000 人工呼吸日)
1
1
0
最終転帰
生存退院
在室死亡
退室後死亡
131(62.1%)
46(21.8%)
34(16.1%)
154(68.8%)
47(21.0%)
23(10.3%)
表 理学療法士常駐前後でのそれぞれ半年間におけるICUでの48時間以上の人工呼吸管理のVAP発生数の変化

作業療法士や言語聴覚士の取り組み

もともと嚥下(えんげ)機能に問題のない患者さんでも、挿管人工呼吸管理をしていると、その期間が長いほど嚥下障害発生のリスクが高くなります。そこで当院では、嚥下リハビリテーションの専門職である言語聴覚士が積極的に介入しています。毎朝の集中治療医回診への参加と抜管後の速やかな連絡体制づくりにより、タイムラグのない嚥下評価の介入を行い、できるだけ早期からの経口摂取を目指しています。

また、ICUという特別な環境において、日内リズムを獲得することは、先に述べたICU-ADの予防、改善の観点からも重要なことですが、そのためには早期から身辺動作の獲得を促し自発性をあげることで、日中の活動性を向上させることが望ましいと考えられます。当院では、作業療法士によるリハビリテーションも取り入れることで、これらの問題に対してのアプローチの幅を増やしています。

まとめ

今後さらに充実したリハビリテーションをICU内に提供できるように、リハビリテーション専門職以外でも関われるようなマニュアルの作成を行っています。また、理学療法士だけでなく作業療法士や言語聴覚士の関わりを充実させ、多角的視点からのリハビリテーション介入を推進していきます。

【参考文献】
*1 Schefold JC、J cachexia sarcopenia muscle 2010;1:147
*2 Vasilevskis EE、et al:Reducing iatrogenic risks:ICUacquired delirium and weakness—crossing the quality chasm。Chest、138:1224-1233、2010
*3 Needham DM、et al:Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit:report from a stakeholders’ conference。Crit Care Med、40:502-509、2012
*4 C h a s t r e J & F a g o n J Y : V e n t i l a t o r – a s s o c i a t e d pneumonia。Am J Respir Crit Care Med、165:867-903、2002
*5 Safdar N、et al:Clinical and economic consequences of ventilator-associated pneumonia:a systematic review。Crit Care Med、33:2184-2193、2005
*6 安藤守秀、他『急性期呼吸リハビリテーションの無気肺の予防・解除に対する効果』(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌、20:249-254、2010 年)

更新:2022.03.14