今では当り前の放射線治療 がん治療3本柱の一つ

大垣市民病院

放射線治療科

岐阜県大垣市南頬町

増加する岐阜県および全国のがん患者

岐阜県および全国においてもがん患者数は増加し、岐阜県では死亡原因の1位となっています(図1、2)。現在、人口の2分の1ががんに罹患するまでになっています。がん治療は抗がん剤、手術、そして放射線治療が3本柱といわれています。しかし、国内においてはがん患者さんの3分の1が放射線治療を受けるにすぎません。

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図1 岐阜県のがんによる死亡者数
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図2 岐阜県の死因別死亡者数

高精度放射線照射装置は高価ですが、薬剤に比べれば、毎回の必要経費は安価です。さらに体への負担も少ない放射線治療を利用することによって、医療費の軽減を図ろうとする施策が現在積極的に行われています。外来放射線治療を推進することは、予想されるがん難民に対する一つの対策とされているようにもみえます。

新患数、放射線治療装置、常勤放射線治療医師は増加していますが、まだまだ不十分です(図3)。国内における常勤放射線治療医の平均患者数は年間170人程度であり、当院はその3倍の患者さんを治療しています。日本医学放射線学会の専門医認定教育機関に認定され、その上、放射線腫瘍(しゅよう)学会の施設認定Bを申請中です。

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図3 放射線治療を受けた患者数と担当放射線治療医師数の変遷

放射線治療とは

まずは基本的なことから始めます。放射線治療とは、放射線を用いた治療行為をいいます。

放射線治療の分類

放射線の種類による分類には、光子線と粒子線があります。粒子線は電子線、陽子線、中性子線、炭素イオン線に分けられます。

治療行為による分類は、被曝体(ひばくたい)(患者さん)と線源との距離によって遠距離照射と近接照射に分けていました。今では遠距離照射ではなく外照射といいます。近接照射は密封小線源と非密封に分かれます。

当院で可能な放射線治療は、光X線(正式には光子線)と電子線の外照射のみです。外照射での特殊な照射方法にはCRT(原体照射法)、SRT(定位放射線治療)、IMRT(強度変調放射線治療)およびTBI(全身照射)があります。すべて当院で行っています。

治療行為目的による分類は、根治(こんち)照射と、緩和照射に分けられます。根治とは病気を治す治療であり、緩和とは症状を治す治療です。肺がん患者さんの肺がんを治そうと意図した放射線治療は根治照射です。一方、肺がんによって起きている呼吸困難を治す治療は緩和照射となります。

目的の違いは、1回の線量、分割回数、分割方法そして照射部位に影響を与えます。根治照射の方が緩和照射よりも治療期間が長くなるのが通常です。統計はありませんが、国内における放射線治療は30~50%が緩和照射といわれています。当院では緩和医療の全体に占める割合は約20%以下です。

大垣市民病院での照射予定、計画、そして検証

当院で根治照射が多く、粒子線や密封小線源がないのにもかかわらず、国内平均の何倍もの照射が可能となっているのは、その治療管理システムにあります。照射依頼の診察後に大まかな照射計画を医師が決定し、受付がスタッフと相談の上、予定カレンダーに計画CTならびに検証日時、そして照射開始予定を決めます。無駄に空いた時間のないように、適切なスケジュールが決められます。

臨床は生き物ですので杓子定規にはいきませんが、できる限り整然と照射を執行していくことが可能となります。決まった予定を患者さんに説明するには、放射線治療に関する臨床的知識が必要ですので、認定看護師が担当しています。治療計画は医師の仕事です。医学物理士は治療計画の補助をしてくれます。最終的に予定までに検証を済ませて治療計画を完成させ登録するのは、医学物理士と放射線治療専門技師の仕事です。毎日の治療装置の管理確認は、放射線治療品質管理士の役割となっています。

当院に放射線治療科が開設されて3年半ですが、スタッフの大きな協力で、今日も放射線治療が行われています。毎日適切に照射業務が行われ続けていることの結果は、治療成績に反映されます。

頭頸部(とうけいぶ)がんに対する放射線治療成績は国内トップクラスを持続し、中でも早期喉頭(こうとう)がんの喉頭温存率は100%です。2019年、放射線腫瘍学会に報告する当院の前立腺がんに対するIMRTの治療成績では、PSAでの制御率98%以上、直腸障害率1%以下という驚異的な成績でした。当り前のことを当たり前に、毎日繰り返し行ってきた結果が、明らかになってきているということです。

更新:2024.01.25