心房細動、心室頻拍、発作性上室性頻拍など頻脈性不整脈の根治療法 カテーテルアブレーション

大垣市民病院

循環器内科

岐阜県大垣市南頬町

拡大するカテーテルアブレーションの役割

カテーテルアブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼(しょうしゃく)術)は、カテーテルを用いて頻脈性不整脈の原因となる心筋組織に体外からエネルギーを加え、これを焼灼・破壊する治療法です。1987年、現在主流となっている高周波をエネルギー源としたカテーテルアブレーションが開発され、国内では1994年に保険収載されました。当科では、1993年に前院長の曽根孝仁がWPW症候群に対して治療に成功して以来、2019年9月現在、計4,062例の経験を積んできました。県下初、全国的に見ても早い段階から治療を導入しており、手術件数は年々拡大の一途です(図1)。

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図1 カテーテルアブレーション件数の推移(1993~2018年)

手術件数増加は、主として心房細動(しんぼうさいどう)の治療件数の増加によります。一方、当科の特徴としては、心室性不整脈の治療件数も相対的に多く、Brugada(ぶるがだ)症候群などの致死性不整脈に対しても治療を導入していることが挙げられます。さらに当科は、不整脈専門医研修施設であり、当科で研修した不整脈専門医が、主として東海地区の病院においてメインオペレーターとしてカテーテルアブレーションを担当しています。

心房細動カテーテルアブレーション

心房細動の症状は、動悸(どうき)、めまい、易疲労感(いひろうかん)などさまざまです。一方、症状にかかわらず、脳梗塞(のうこうそく)、心不全、認知症の原因となりえます。心房細動は、発作性から持続性、そして永続性へと進行する疾患です。2000年代前半までに限界が露呈した薬物療法に対して、カテーテルアブレーションによる洞調律維持効果は長期に有効であることが示されています。

治療の根幹は、肺静脈の左房からの電気的隔離(肺静脈隔離術)です。当科は、2002年に治療を開始し、治療件数は現在まで2,259例に上っています(図1)。この発展普及には、私たち術者側の習熟に加え、新たに導入された技術革新が大きく寄与しています。3Dナビゲーションシステムにより、X線透視を用いることなく、正確に心内のカテーテル位置情報が得られるようになっています(図2)。アブレーションカテーテルも、イリゲーションシステムや、コンタクトフォースセンサーが加わり、焼灼の安全性の向上、焼灼巣の客観的な視覚化が可能です。さらに、アブレーションの方法も多様化しています。2015年から冷凍凝固バルーンアブレーション(図3)、2017年から高周波ホットバルーンアブレーションと、1本の肺静脈を一括して隔離する手技も可能となりました。2019年から内視鏡的に肺静脈を見ながらレーザーを撃っていくレーザーバルーンアブレーションを導入しています(図4)。治療の安全性や有効性が年々高まるのに伴い、対象患者も、当初は若年発作性心房細動に限定していましたが、近年、持続性心房細動や、高齢者、心不全合併例などへ拡大しています。より多くの患者さんが恩恵を享受できるようになっています。

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図2 3Dマッピングによる高周波心房細動カテーテルアブレーション
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図3 冷凍凝固バルーンによる心房細動カテーテルアブレーション
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図4 レーザーバルーンアブレーション
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写真 EP ラボ

致死性不整脈カテーテルアブレーション:Brugada症候群

心室頻拍・心室細動など致死性不整脈の治療においても、カテーテルアブレーションは重要な治療オプションです。Brugada症候群は、12誘導心電図のV1からV3誘導における特徴的なST上昇と心室細動を主徴とする症候群です。日本人を含むアジア人の成人男性に多く、典型的には夜間睡眠中に突然死に至ります。心室細動既往例の治療の第一選択は、植込み型除細動器(ICD)となります。しかしながら、ICDは、心室細動を電気ショックで止める治療であり、心室細動の発症を抑えるものではありません。したがって、頻回に心室細動を繰り返す患者さんが、カテーテルアブレーションの適応となります。治療のターゲットは、右室流出路心外膜側に存在する病巣となるため、通常の経静脈的アプローチで心内膜側を焼灼するのではなく、心外膜アプローチ、すなわち、心窩部(しんかぶ)から経皮的に心嚢内(しんのうない)にカテーテルを挿入する新しい方法をとります。右室流出路心外膜側の遅延電位を焼灼することにより、心電図は正常化し、心室細動発作が起きなくなります(図5)。

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図5 Brugada症候群カテーテルアブレーション

カテーテルアブレーションは、循環器内科領域において、現在、急速に進歩を遂げ大きく普及しつつある治療法です。2012年から始まった不整脈認定専門医も2019年現在、全国で1,000人を超えましたが、まだまだ患者さんのニーズに十分応えるだけの陣容は整っていません。多くの若手医師の参入を望むところです。

更新:2022.03.08