心房細動
概要
心臓は、心筋と呼ばれる筋肉が規則正しく収縮と拡張を繰り返すことで、全身に血液を送り出して循環させています。この心筋は洞結節(どうけっせつ)という特殊な心筋から発せられる電気刺激を受けて規則正しく動いています。この動きが不規則になってしまい、心臓にある4つの部屋のうち上部にある2つの心房(右心房と左心房)が痙攣(けいれん)したように細かく震え、血液をうまく送り出せなくなった状態が、心房細動(しんぼうさいどう)と呼ばれる疾患です。
致死性の高い不整脈の一種として知られる心室細動(しんしつさいどう)とは違い、心房細動が起こっても心臓から血液を送り出すことはできるので、すぐに命に関わるような状態になることは少ないとされています。
しかし、心房細動が起こると、血流の滞りが生じて血栓(血液のかたまり)ができやすくなります。心房細動によってできる血栓は、他の原因でできる血栓よりも大きいため、心房細動が原因で起こる脳梗塞(心原性脳塞栓症)は、ほかの脳梗塞よりも重篤になるケースが多く見られます。
原因
心臓を規則正しく動かすための電気刺激を発する洞結節は右心房にあります。健康な人であれば1分間に約60~100回の信号により、その回数が心臓の拍動数となります。しかしこの電気刺激が、主に肺静脈近くの左心房付近の異常な電気的興奮により、細かく震えるような状態になることがあります。その結果、心拍数が不規則になり、心房細動の状態に陥ります。
心房細動を起こす要因としては、加齢に伴う心臓弁膜症、心筋症、心筋梗塞、高血圧や糖尿病といった疾患や、肥満や飲酒、喫煙、過労、睡眠不足などの生活習慣が挙げられます。これらの要因が心臓に負担をかけ、心房での異常な電気的興奮をもたらすものとされています。
症状
心房細動では、脈の乱れ、胸部の不快感、胸の痛み、動悸(どうき)、息苦しさ、運動時の疲労感、めまいといった症状が起こります。しかし、約50%程度の患者さんは症状を自覚しないともいわれています。とくに発作持続期間が短い発作性心房細動は、見過ごす可能性が高く、注意が必要です。
発作は短時間で治まるもの(発作性心房細動)から始まり、7日間程度続くもの(持続性心房細動)、やがて永続性心房細動となります。最初の発症に気付かず、初めて診断された心房細動が止まらずに持続性となる場合もあります。
心房細動による突然死の可能性は非常に低いとされていますが、長引くと心不全が起きたり、心臓の中にできた血栓が、血管を詰まらせて脳梗塞などを起こしたりすることがあります。
検査
心電図検査
体に電極をつけ、心臓から発生する電流を感知して心電図を記録します。
しかし発作が起きていなければ異常を検出できないので、発作時の動きを調べるために、24時間記録できるホルター心電図検査(小型の心電計を体に装着して長時間心電図を記録)や、日常生活の中で使用できるイベント心電図検査(携帯型の心電計で動悸や不整脈を感じたときに簡単に心電図を記録)を用います。
心臓エコー検査
超音波を出す器具を胸にあて、心臓の状態や動き、血流に異常がないかどうかを調べます。心臓の形や大きさ、また、血液を正常に送り出すのに重要な心房と心室の間にある弁(べん) の機能を調べます。より詳細な情報を得るために、心臓CT検査や心臓MRI検査を行う場合もあります。
また、胃カメラのように口から入れるエコー機器を用いた経食道心エコー検査を行い、食道から心臓を観察する検査を行うこともあります。
治療
薬物治療
脳梗塞などを予防するために、血液を固まりにくくする抗凝固薬、心臓の拍動を正常に整えるための抗不整脈薬などが用いられます。
カテーテルアブレーション治療
最近では、心房細動の根治を目指す治療として、カテーテルアブレーションが選択されることが多くなりました。足の付け根の血管などからカテーテル(医療用の細くて柔らかい管)を入れて心臓まで到達させ、心房細動を起こすきっかけになっている異常な電気信号を出している心筋の部位を高周波電流を流して焼灼(しょうしゃく)する手術です。
血圧低下などのショック症状が出ている場合は、電気的除細動を行って心房細動を止める処置が施されることもあります。
更新:2022.08.22